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2-9 頼りにするなら…

 スティーブがアリアドネとヨゼフを連れて離れにある女性用宿舎へと戻って来ると、丁度倉庫からジャガイモをザルに入れて運んできた寮長のマリアと遭遇した。


「寮長、今朝も早くからご苦労様」


スティーブは早速声を掛けた。


「おや?誰かと思えばスティーブ様がアリアドネを連れて来てくれたのかい?」


「ああ、そうさ。まだお2人はこの城に不案内だからな」


アイゼンシュタット城は特殊な構造をしている。それは敵の侵入を防ぐ為、城の中は場所によっては一部迷路の様に入り組んでいる区域もあるからだ。慣れない者がそこに足を踏み入れようものなら、たちまち城の中で迷子になってしまう事もあり得る。


「お帰り、アリアドネ。それに…ヨゼフさんだっけ?」


マリアは背後にいたアリアドネとヨゼフに声を掛けた。


「ただいま戻りました。シュミット様は忙しそうだったのでスティーブ様が代わりにここまで連れて来て下さいました」


アリアドネが返事をすると、次にヨゼフが一歩進み出て来るとマリアに頭を下げて来た。


「貴女が寮長のマリアさんですか。アリアドネをどうかよろしくお願い致します」


「まぁまぁ、これは御丁寧に…。アリアドネはとても仕事が出来るので助かっていますよ」


マリアもヨゼフに頭を下げた。するとそこへ先程アリアドネと一緒に仕事をしていたカリナとデボラが野菜が大量に入った籠を背負ってアリアドネに声をかけてきた。



「お帰り、アリアドネ。へ~まさか今度はスティーブ様がねぇ…」


「成程…シュミット様だけにとどまらなかったと言う訳だ」


カリナとデボラの意味深な発言にスティーブは訳が分からず首を傾げた。


「2人共…一体何を言ってるんだ?」


「まぁ分らなければ別にいいのですけどね~」

「ええ、そうね。スティーブ様は鈍そうなお方ですし…」


2人はスティーブを揶揄うような口ぶりで、歩き去って行った。


「全く…。あの2人は一体何なんだ?」


腕組みしながら首を傾げるスティーブにアリアドネは遠慮がちに声を掛けた。


「あの…スティーブ様。私なら大丈夫ですので、もう行っていただいてもよろしいですよ?お忙しいのですよね?」


「あ、いえいえ。俺は戦が起きたり、有事の時以外は左程忙しくないんですよ。シュミットと違ってね。だから何か困った事や問題があったら、シュミットでは無く俺を頼って下さい。あいつはエルウィン様の執事のような仕事をしているのでかなり多忙なんですよ。何かあれば、シュミットでは無く、俺を頼って下さい。いいですか?」


「は、はい…何かあればスティーブ様…ですね?」


自分の事を猛烈にアピールしているのだろうが、何故か妙にシュミットの名を連呼してくるスティーブに、ついアリアドネは返事をしてしまった。


「はい、そうです」


笑みを浮かべて返事をするスティーブに半ば呆れながらマリアが口を挟んできた。


「ほらほら。次はヨゼフさんを男性用宿舎に連れていくんじゃないですか?」


「あ、そうでした!お待たせして申し訳ありません。直ぐに行きましょう」


スティーブは頭を掻きながらヨゼフに頭を下げた。


「いえいえ、そんな私のような者に騎士様が頭を下げるなんておやめください」


ヨゼフは恐縮しながら言った。


「そうですか…?では参りましょうか?それではまた伺いますね」


スティーブは笑顔でアリアドネに手を振るとヨゼフを伴って男性用宿舎へと向かった。



「スティーブ様って…中々面白い方ですね」


マリアと2人きりになったところでアリアドネが声を掛けて来た。


「そうだね~。本人は無自覚って言うのも面白いよ。ところでアリアドネ…」


突然マリアが真剣な顔をするとアリアドネに向き直った。


「はい、何でしょう?」


「城の中は通って来たのかい?」


「いえ…通っておりませんが…」


「そうか…そうだよね。あのお2人の事だから、それ位はちゃんと配慮されているだろうし…」


マリアが安堵した様子を見せたのでアリアドネは尋ねた。


「あの…城の中に何があるのですか?一部迷路があるのは分りましたが…」


「城の中では…メイド達が働いてるのさ」


「え?メイド…?あ、つまりこのお城では下働きの上にメイドの方たちが仕事をしていると言う訳ですね?」


「ああ、そうだよ。それにメイド達は私達と違って皆若い。だから、アリアドネが城の中へ入ったらメイドに間違われてしまうかもしれない。そうなると大変な事になるかもしれないからね」


「あの…メイドに間違われると…何がどう大変なのでしょうか…」


アリアドネにはさっぱり分らなかった。


「実はね…」


マリアはアリアドネの耳元でそっと囁いた。


「え…?」


アリアドネはその話に驚き、目を見開いて息を呑んだ―。

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