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16-16 アリアドネの事情

  エルウィンが井戸水を汲んで、愛馬に水を飲ませていた時――。


「エルウィン様ー!」


 カインが駆け寄ってきた。


「どうした?カイン」


「はい、アリアドネ様がエルウィン様とお話がしたいそうで探していらっしゃいました。恐らく昨夜の件の話だと思いますが」


 すっかり勘違いしていたカインは気を聞かせたつもりで、余計な言葉を添えてしまった。


「な、何ぃっ?!昨夜の件だとっ?!そ、そ、それは本当か」


(昨夜の件だって……?ま、まさかバレていたのか?!俺が寝たふりをしていたことが……!)


 途端にエルウィンが傍目でもはっきり分かる程に狼狽える。


「はい、なので早めに戻られたほうが良いかと……」


「分かった!馬はお前に任せる!満足するまで飲ませてやってくれ!」


 それだけ告げると、エルウィンはカインの返事を聞く前に、走り去っていった。


 アリアドネに弁明する為に……。


「エルウィン様があのように慌てるなんて……。やはりお二人は深い関係になられたのかもしれないなぁ」


 走り去っていくエルウィンの後ろ姿を見送りながら、カインはポツリと呟くのだった――。




****



 その頃、アリアドネは村に立ち並ぶ露店を見て回っていた。


「まぁ……素敵」


 アリアドネは1軒の露店の前で足を止めた。その店は木彫りの手作りアクセサリーを売っている店だった。


 露店には薔薇や葉をイメージした繊細な木彫りのネックレスや指輪が売っている。


「お嬢さん、何かお気に召したものはありますか?」


 この店の老女が話しかけてきた。


「はい、どれも素敵ですね」


「そうですか。ではお一つ、何か手にとって御覧になられてはいかがですか?」


 老女に勧められ、アリアドネは慌てて首を振る。


「い、いえ。大丈夫です、見ていただけですので」


 第一、アリアドネはお金など持っていなかった。いや、そもそも自分のお金を持ったことなど無かったのだ。


 ステニウス伯爵家でメイドのように働かされていたけれども、当然給金など出なかった。

 それに今はアイゼンシュタット城では働く代わりに置いてもらっている。衣食住は保障されているのだ。お金の必要は無かった。

 

 けれど……。


(こうして城の外に出てみれば買い物が出来ないのは寂しいわね……)



 その時――。


 「アリアドネッ!!」


 エルウィンが駆け寄ってきた。


「あ、エルウィン様」


「俺に話があるのだろう?ところで……こんなところで何をしていたんだ?」


「あの、アクセサリーを見ていたのです」


「どうぞ手にとって御覧くださいとお声を掛けていたところですよ」


 老女の言葉にエルウィンはアリアドネに声を掛けた。


「そうか、なら早速手にとって見ればいいだろう?」


「い、いえ。大丈夫です。それに……お恥ずかしい話ですが……私は全くお金を持っておりませので……」



「「え……?」」


 恥ずかしげに言うアリアドネの言葉に、老女とエルウィンは絶句した――。


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