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16-12 独占欲

 エルウィンが城を出て、城門に向かって歩いている時――。


「辺境伯、お待ち下さい」


 不意に背後から声を掛けられた。


(あの声は……)


 忌々しい気持ちを押し殺して振り向くと、そこにはマクシミリアン王太子が立っていた。


「これは殿下。お目に掛かれて光栄です」


 心にも思っていない台詞を口にしながらエルウィンは挨拶をした。


「こちらこそ、偶然会えて嬉しいよ。ここへ来て良かった」


 意味深なセリフを言いながら、にこやかに返事をする王太子に不穏な気持ちを抱えながらエルウィンは質問した。


「今日は仮面をつけてはいらっしゃらないのですね」


「ええ、そうですね。今はその必要はありませんから。ところで……城へはお一人でいらしたのですか?」


「ええ。これでも辺境伯として国を警護する身ですからね。腕に覚えはありますよ。ですから護衛の者はつけていません」


 王太子が何を話しているのかは分かっていたが、エルウィンは敢えて気づかないふりをして返事をする。


「貴方が強いのは十分承知していますよ。何しろ『戦場の暴君』として周辺諸国から恐れられている方ですからね。それにここは王城です。貴方を脅かす者などいるはずないではありませんか?何しろ貴方はこの国に必要不可欠な方ですから」


 その呼び名が嫌いなエルウィンは少しだけ眉をしかめた。


「そうでしたね。確かにここは安全な場所でしたね」


(何が安全な場所だ。お前が一番今の俺にとって脅威の存在なのに……)


心のなかで毒づくエルウィンに尚も王太子は質問する。


「アリアドネ嬢はどうしているのですか?」


「アリアドネですか?離宮にいますが……何故、そのようなことを尋ねるのです?」


「いえ、2人は一緒にこの城に来た大切な客人ですからね。てっきりお揃いでこちらに来たのかと思っていたのですが……では今はお一人で離宮にいるのですね?」


「いいえ、私の部下たちと一緒にいますよ」


 苛立つ気持ちを抑えながらもエルウィンは答えた。


「……それは残念」


 ポツリと呟く王太子の言葉を聞き逃すエルウィンでは無かった。


「殿下?今何か仰いましたか?」


「いえ。別に何も。それよりも前回の晩餐会は私の妹とステニウス伯爵のせいで散々だったそうではありませんか?それで今夜改めて晩餐会を開くことに決めたのですが……勿論参加して頂けますよね?アリアドネ嬢も一緒に」


「そうですね。考えて見ます」


 エルウィンは腹の中を隠して返事をした。


「ええ、楽しみにしていますよ」


 王太子はその言葉に満足そうに笑みを浮かべた。


「では、私はこれで失礼致します」


 挨拶をしたエルウィンは王太子に背を向けると、足早に馬繋場へと向かった。


(誰が晩餐会になど参加するか!離宮に戻り次第、急いで荷造りをして昼前にはここを去らなければ……!王太子には……いや、絶対誰にもアリアドネを渡すものか!)


 今のエルウィンは、すっかりアリアドネを独占したい気持ちで一杯になっていたのだった――。



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