16-10 勘ぐる騎士たち
午前7時――
「「あ」」
朝食の為にダイニングルームへ足を運んだアリアドネとエルウィンは扉前で偶然鉢合わせしてしまった。
「お、おはようございます。エルウィン様」
アリアドネは頬を赤らめながらも挨拶をした。
「あ、ああ。おはよう」
一方のエルウィンも落ち着かない様子で返事をする。何しろ生まれて初めて女性に恋心を抱いたことに気付いたのだ。アリアドネを意識するのも無理はない。
「そ、それでは中へ入ろうか?」
「は……はい……」
けれどエルウィンの様子がいつもと違うことを、緊張していたアリアドネは全く気付いていなかった。
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「「……」」
隣同士に座り、無言で食事を続けているエルウィンとアリアドネの様子を見ながら騎士たちが囁きあっていた。
「一体あのお二人はどうしたっていうんだ?」
「さぁ……何だかぎこちないな?」
「やはり昨夜のことが原因なんだろうか……?」
「ああ。エルウィン様とアリアドネ様が……」
騎士たちはヒソヒソ声で会話していたが、目だけではなく耳も良いエルウィンには全て丸聞こえだった。
カチャン!
突如、エルウィンが乱暴にフォークを皿の上に置き……その音に全員がビクリとして静寂になる。
「お前たち……」
エルウィンが低い声で唸るように声を発した。
「8時になったらすぐに表で訓練だ。少しでも遅れた者は薪割り1時間だ」
そしてエルウィンは口元をナフキンで乱暴に拭うと、席を立って去ってしまった。
途端にダイニングルームは再び賑やかになる。
「驚いたな〜一体今のは何だろう?」
「随分機嫌悪そうだったな?」
「お前の言った言葉が聞こえたんじゃないのか?」
「うわ!流石良い耳をしている」
そんな騎士たちのざわめきを聞きながら、アリアドネの隣に座っていたマティアスが尋ねてきた。
「アリアドネ様……昨夜、エルウィン様と何があったのですか?」
「え?さ、昨夜……?い、いいえっ!な、何も……何もありませんでした!わ、私もこれで失礼致します」
まだ食事は終わっていなかったものの、アリアドネは席を立ってしまった。
「え?アリアドネ様?」
戸惑うマティアスを他所に、アリアドネは逃げるようにダイニングを立ち去ってしまった。
『……』
その様子を見ていた騎士たちはアリアドネが去ると、さらにざわめいた。
「おい!見たか?!今のアリアドネ様の様子!」
「ああ、真っ赤になって出ていったぞ?」
「やはり……これは昨夜何かあったな?」
「何かって何だ?」
「馬鹿野郎、健全な若い男女が2人きりで同じ部屋ですることと言えば何だ?」
「ましてやお二人は仮の婚約者同士……」
このことから騎士たちは全員がこう、結論づけた。
ついに2人は昨夜、一線を越えたに違いない……と。
そして、エルウィンとアリアドネは騎士たちの勘繰りを知るはずもなかった――。




