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16-8 真夜中の目覚め

「あの、エルウィン様……お、お願いですから放して頂けませんか?」


アリアドネは恥ずかしさのあまり、なんとも弱々しい声でエルウィンに訴えるものの、その手は緩むことはない。


「エルウィン様……は、放し……え?」


「すー……」


エルウィンから寝息が聞こえ始めた。


(う、嘘?!こ、こんな状況でエルウィン様は眠ってしまったの?!)


何とエルウィンはアリアドネを抱きしめたまま、再び眠ってしまったのだ。


「そ、そんな……」


何とかエルウィンの身体を押しのけようとしても、びくともしない。

いくら深い眠りについていてもエルウィンの力に適うはずは無かった。


「駄目だわ……私の力じゃ……」


人を呼ぶ為のベルはあるものの、身動きも取れないアリアドネにとっては無意味だった。


(もう、こうなったら仕方ながないわ……このままにしているしか無いわね。エルウィン様の力が弱まったところで、抜け出しましょう)


そしてアリアドネはエルウィンに抱きしめられたまま、この場に待機?することに決めた。




カチコチカチコチ……


 薄暗い明かりの中で静かに時を刻む時計。

聞こえてくるのは暖炉の炎がパチパチと時折はぜる音とエルウィンの寝息。

そして規則正しく脈打つ心臓の鼓動を聞いているうちにアリアドネは眠くなってきた。


(駄目よ……こんなところで眠っては……)


けれど、ますますアリアドネは眠気に襲われる。


(きっと……お相手がエルウィン様だから……安心して眠くなって……)


 そこまで考えた後……アリアドネは深い眠りに就いてしまった――。




****



 真夜中――。


「う〜ん……」


突如エルウィンは眠りから目が覚め、すぐに異変に気がついた。自分の腕の中に温かかく、柔らかい存在を感じたからだ。


(何だ?一体俺の腕の中に……何がいるんだ?!)


 目を開けて、腕の中の存在を確認した時エルウィンは驚愕した。何とアリアドネを強く抱きしめていたからだ。


(ア、アリアドネッ?!な、何故こんなところに……?い、いや違う!何故俺は彼女を抱きしめてベッドで眠っているんだ?!)


 エルウィンが覚えているのは1人、部屋で自棄酒を飲んでいる自分だった。そこから先の記憶は無かった。


(お、落ち着け!慌てては駄目だ!冷静になるんだ……焦ると正しい判断が出来なくなる……!)


 ここは戦場でもないのに、エルウィンは深呼吸をして状況確認をした。


(まずはアリアドネだ……。よし、着衣の乱れはないな?次に俺は……うん、大丈夫だ。どこも異常は無い。ということは……何も無かったということに違いない。しかし……)


 エルウィンは未だに何故か?抱きしめたままのアリアドネをじっと見つめた。


(女の身体というのは……こんなにも小さくて温かで……柔らかいものなんだな……)



 そしてエルウィンは再び目を閉じ、アリアドネを胸に抱きしめたまま眠りに就くのだった――。



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