15-13 波乱の夜会 11
冷たい夜風が頬に当たり、アリアドネは瞼を震わせた。
「う~ん……」
すると、すぐ真上から声が降って来た。
「目が覚めたか?アリアドネ」
「え……?」
聞き覚えのある声にアリアドネは目を開け……眼前にまるで自分を覗き込むかのように見つめているエルウィンと視線が合った。
「エルウィン様……?」
アリアドネは、半分眠っていた。自分を見つめているエルウィンは自分の見ている夢だと思い込んでいた。
(エルウィン様……いつ見ても美しい方だわ……。だけど夢にまで出て来るなんて……私はエルウィン様のことを……)
そしてアリアドネはエルウィンの頬に触れてみたいと思った。
(これは私の見ている夢だから……少しくらい構わないわよね……)
「どうした?アリアドネ」
一方、エルウィンはうつろな瞳で自分を見つめるアリアドネが不思議でならなかった。しかもバルコニーのベンチに腰掛けたエルウィンがアリアドネを抱きかかえているにも関わらず、アドリアネが無反応な様子にも。
「エルウィン様……」
「え?」
アリアドネは戸惑うエルウィンの頬にそっと触れ……そのはっきりとした感触に一気に目が覚めた。
(な、何……?こ、これは……夢なんかじゃないわ!)
しかもよく見れば、今の自分はエルウィンのマントにくるまれ、膝の上に抱きかかえられている状態であるということに気付いた。
(そ、そんな……!!)
一方のエルウィンは自分の頬に触れ、見る見るうちに顔を赤らめるアリアドネを不思議に思い、声を掛けた。
「どうしたんだ?アリアドネ」
すると……。
「キャアアアアアー!!」
夜空にアリアドネの声が響き渡った。
「は、離して下さい!」
アリアドネはエルウィンの腕の中で顔を真っ赤にさせながら暴れている。
「こ、こら!危ないだろ!暴れるな!」
「お、お願いですから離して下さい……!」
「わ、分かった!離すから暴れるな!」
そしてエルウィンはアリアドネをくるんでいたマントを外した。
「!」
アリアドネはすぐにエルウィンの膝の上から離れると、素早く距離を取った。
そして……。
「た、大変失礼なことをしてしまい、申し訳ございませんでした!」
アリアドネは頭を下げて謝罪してきた。
「別に謝ることは無いだろう?」
エルウィンはベンチから立ち上がった。
「い、いえ……。仮にもエルウィン様の膝の上に乗った状態で……そ、その頬に……触れてしまって……」
後は羞恥で言葉にならなかった。
「ああ、そのことか?てっきりたった今暴れたことを謝っているのかと思ったが」
「そ、その事も含めて……です……」
アリアドネはこの時ほど、穴があったら入りたいと思ったことは無かった。
「いや。今のはほんの冗談だ。忘れてくれ。それに、元はと言えば俺が悪いんだ。アリアドネが酒に酔わされてしまったのも。俺がミレーユに気を取られてしまったばかりに……」
「え?ミレーユ……?もしかして……ミレーユお姉様のことですか……?」
震える声で尋ねるアリアドネ。
「ああ、そうだ。隠しても仕方ないから教えよう。実はこの夜会にミレーユが参加しているんだ」
その言葉にアリアドネが青ざめたのは言うまでも無かった――。




