15-11 波乱の夜会 9
「そうか、偶然だな。俺もお前に運命的な物を感じる。まさかこんなところで会えるとは思わなかった」
「ほ、本当ですか?それでは早速貴方のお名前をお聞かせください」
腕組みしながら思わせぶりな台詞を言うエルウィンにミレーユはすっかり有頂天になっていた。
次の言葉を聞くまでは……。
「いいだろう、教えてやろう。俺の名はエルウィン・アイゼンシュタット。この国を守る辺境伯だ。中には俺のことを『戦場の暴君』と呼ぶ連中もいるがな」
エルウィンは冷たい笑みを浮かべた。
「え……?」
その言葉にミレーユが青ざめたのは言うまでもない
「へ、辺境伯って……ま、まさか……」
「ほう?その様子だと、俺のことを知っているようだな?何しろ陛下から俺と結婚する様に命じられたのだろう?ミレーユ」
「!」
その言葉にミレーユの肩がビクリと跳ねた。
(そんな!彼があの辺境伯だったなんて……!よりにもよって私は何て人に声を掛けてしまったのかしら。だけど……まさかこんなに素敵な方だったなんて……)
こんなことなら噂や偏見など信じずに自分が嫁げばよかったとミレーユは激しく後悔した。
震えながら黙っているミレーユにエルウィンは続けた。
「だがお前には感謝している。自分の身代わりとしてアリアドネを差し出してくれたのだからな。アリアドネは働き者で気立ても良い。本当に良い娘を寄こしてくれた」
その言葉はプライドの高いミレーユを傷付けるのに十分だった。
「で、ですがあの娘は卑しいメイドの血を引く娘ですよ?しかも礼儀作法も何も知らない‥…」
「それはお前たちがアリアドネをメイドとしてこき使い、貴族令嬢としての教育を受けさせては来なかったからだろう?」
エルウィンは眼光鋭くミレーユを睨みつけ……さらに言葉を続けた。
「アリアドネはお前のように男に奔放な女とは違う。大体世間で流れている自分の噂を知らないのか?ステニウス家のミレーユは男狂いの女だという話は我らの耳にまで届いているのだからな?!」
エルウィンの鋭い声にミレーユが後退った時……。
「おや?すみません。どうやら先客がいたようですね」
バルコニーに男性の声が響き渡った。
その声に2人は振り向き……エルウィンは目を見開いた。
「お、おい!お前……その腕にいるのは俺の連れじゃないか!」
マスクをつけた青年の腕の中にはアルコールでぐったりしているアリアドネが抱きかかえられていた。
「え?貴方はこの女性の連れの男性ですか?けれど……」
チラリと男性はミレーユを見た。
「その割にはこの女性を放っておいて、別の女性とバルコニーで話をしていたという訳ですか?」
「うるさい!さっさとアリアドネを放せ!」
エルウィンの言葉に驚いたのはミレーユだった。
「え?アリアドネ?アリアドネですって!」
驚愕する2人を不思議そうに見つめる青年。
青年の腕の中でアルコールにより、意識が朦朧としているアリアドネには状況が理解できるはずも無かった――。




