15-10 波乱の夜会 8
「私に尋ねたいことですか?いいですわ。どんなことでもお答えしましょう。私の趣味でしょうか?それとも好みの男性のタイプが聞きたいのですか?」
「いや、そんなことはどうでもいい。お前の家のことについて聞きたい」
「家のこと……?もしや……」
愚かなミレーユは勝手に思い込みをしていた。
自分に興味を持ち、既に将来を見据えて家柄のことを尋ねているのだと。
「ええ。先程自己紹介した通り、私はアリアドネ・ステニウスと申します。伯爵家の爵位を持っております。国王陛下とは遠縁にあたりますが、縁戚関係にありますの」
ミレーユは胸を張って答えた。
「成程……ステニウス伯爵家の娘か。確かあの家にはミレーユと言う娘がいたな。だが一人娘だったはず。アリアドネと言う名は……世に知られていないがな。一体何故なのだ?」
「え?」
ミレーユはエルウィンの顔を初めて見た為、自分の家のことを何も知らないものだと思っていたのだ。
(もう、こうなったら情に訴えるしか無いわ……!)
「はい、実は私は父の実の娘ではありますが……母はメイドで父の妾だったのです。私はメイドの母を持つ卑しい身分なので、表向きには世間に公表されていないのです」
メイドの母を持つ卑しい身分……。
ミレーユのこの言葉はエルウィンの怒りを買うのに十分だった。
「そうか」
怒りを抑えながらミレーユの話に頷くエルウィン。その反応に気を良くしたミレーユは続けた。
「私は家族から虐げられてメイドのような扱いを受けて暮らしておりました。ですが、今回父の情けで初めて社交界デビューさせて頂きました。そこで貴方のように美しい男性と出会いを果たすことが出来ました。これって、何か運命的な物を感じませんか?」
ミレーユはうっとりした目つきでエルウィンを見上げた――。
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その頃、アリアドネは男性の差し出したアルコールにすっかり酔ってしまっていた。
それもそのはず。
彼がアリアドネに渡したアルコールは飲みやすいものの、度数が30度を超える程のアルコールだったのである。
「ふぅ……」
強いアルコールですっかりのぼせてしまったアリアドネは足元がふらついている。
「大丈夫ですか?」
青年が心配そうに声を掛けて来た。
「は、はい……だ、大丈夫……です……」
その時アリアドネの身体がグラリと前に傾き、青年に支えられた。
「おっと、危ないですよ。酔い覚ましをする為に別の部屋へ行きましょうか?」
青年は耳元でアリアドネに囁く。
しかし、アリアドネは何とか首を振って断った。頭が回らないものの、何となく身の危険を感じたからである。
「い、いえ……。外に出て頭を冷やせば……大丈夫です」
「そうですか?ではバルコニーにでも出ましょうか?あそこで夜風に当たれば酔いも冷めてくれるでしょうから」
「は、はい……そうですね……」
頷くアリアドネ。
「では、私がお連れいたしましょう」
青年は朦朧としているアリアドネの細い肩を抱き寄せると、バルコニーへ向かった。
そこに先客がいるとは思いもせずに――。




