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266/374

14−25 気付かない2人

「お父様と……夫人がいらしているのですか?」


アリアドネは声を震わせながら尋ねた。


「ああ、そうだ。恐らく陛下は双方の事情を分かったうえで俺達とステニウス伯爵夫妻を呼んだのだろう。何を期待しているか知らないが、全く趣味が悪い……」


「そ、それで……姉のミレーユはおりましたか?」


「いや……?どうだったろうな?ただ、あの席にはお前のような若い娘の姿は無かっ

た。第一、陛下と鉢合わせする晩餐会の席にお前の姉を同じテーブルに着かそうとはさすがの伯爵も考えてはいなかったのではないか?」


エルウィンは首を傾げながらも返事をした。


「そうですよね……。お父様にとって私は恥のような存在ですし、国王陛下には私を姉と偽って嫁がせていますから」


その言葉にエルウィンは素早く反応した。


「よせ!アリアドネッ!」


「え?」


「何故、お前は自分を卑下するようなことばかり言う?!何故もっと自分に自信を持たないんだっ?!」


エルウィンはアリアドネの両肩を掴んできた。


「いいか?お前は恵まれない環境で育ったにも関わらず気立てもいいし、働き者だ。その証拠にミカエルやウリエルはお前に良く懐いているし、あのロイだってお前に心を許していた」


「ロ、ロイ……」


アリアドネの脳裏にロイの姿が過る。


「だから……俺はお前を……!」

「!」


次の瞬間、アリアドネはエルウィンに強く抱締められていた。


「頼む、アリアドネ……何処にも行くな。アイゼンシュタット城の者達は……皆お前を慕っているんだ。ミカエルやウリエルだけじゃない。下働きの者だって騎士達だって皆……!」


エルウィンはアリアドネを胸に埋め込まんばかりにますますきつく抱きしめて来る。


「エ、エルウィン様……く、苦し……いで……」


加減を知らない力強い抱擁にアリアドネは息が詰まりそうになった。


「!!」


その言葉にエルウィンは驚き、すぐにアリアドネを手放した。


「す、すまない!力加減も知らずに……!」


「い、いえ……だ、大丈夫……です……」


荒い息を吐きながら胸を押さえるアリアドネ。


「本当に……悪かった……これだから俺は……」


激しく気落ちするエルウィンにアリアドネは声を掛けた。


「もう大丈夫ですから、そんなに気になさらないで下さい」


「いや……少し、頭を冷やしてくる!」


エルウィンは俯いたまま、背を向けて林の方へ歩き出した。


「え?エルウィン様?」


するとエルウィンはピタリと足を止め、振り返る。


「さっきの話……前向きに考えておいてくれ」


それだけ告げると、林の方へ駆け出して行ってしまった。


「エルウィン様?!どちらへ行かれるのですか?!」


アリアドネは驚いて声を掛けるも、あっという間にエルウィンの姿は小さくなってしまった。


「エルウィン様……」


遠ざかっていくエルウィンの姿をアリアドネは呆然と見送る。


そして、更に2人の様子を物陰から伺っていた騎士達。

彼らは全員落胆した様子で話し合っている。


「あ~あ……何やってるんだろう」

「折角良い雰囲気になってたのにな」

「この分だと先は長そうだ……」

「良い物見れると思ったのに」

「全く、残念だったよ」



勿論、エルウィンもアリアドネも自分たちの様子を騎士達に見られていたとは知る由も無かった――。

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