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2−3 3人だけの密会

「え…?」


 城の離れにある女性寮にやってきたシュミットは我が目を疑った。何とアリアドネが建物の外で、リネンのシフトドレス にステイズ、ペティコードの上にエプロンドレスという姿で他の下働きの女性達と一緒になって野菜の選別作業を行っていたのだ。


「アリアドネ様っ!」


「え?」


大きな声で名前を呼ばれたアリアドネは振り向いた。見るとこちらに向かって駆け寄ってくるシュミットが目に入った。


「おや?シュミット様じゃないの?」


「珍しいわね〜あんなに慌てている姿は中々お目にかかれないわよ」


アリアドネと一緒に仕事をしていた使用人の女性達がからかうような口ぶりで笑いながら言う。


「ア、アリアドネ様…」


息を切らせながら駆け寄って来たシュミットを目にしたアリアドネは作業の手を止めて立ち上がり、頭を下げて挨拶をした。


「おはようございます。シュミット様。昨夜は一晩の宿と温かい食事というおもてなしを頂き、誠にありがとうございます」


「いえ、そんな。どうぞ頭を上げて下さい」


シュミットは仮にもエルウィンの花嫁として城にやってきたアリアドネに丁寧な挨拶をされて戸惑ってしまった。


「おやおや、本当に礼儀正しい娘さんだね」


「本当だ。まるで貴族様みたいだよ」


アリアドネの本当の素性を知らない女性達は感心した様子でアリアドネを褒める。


「アリアドネ様。大事なお話がありますので私について来ていただけますか?」


シュミットはアリアドネに頭を下げた。


「ええ…ですが…まだ、お野菜の選別作業が…」


アリアドネは台の上に乗せた大量の野菜をチラリと見た。


「ああ、いいのよ。これ位私たちでやっておくから」

「そうそう、シュミット様の直々のお誘いなんだからさ」


揶揄うような2人の女性にシュミットは困り顔で言った。


「よして下さい。カリナさん。デボラさん。誤解を招くような言い方をされるのは」


そして改めてアリアドネを見つめると言った。


「それでは私について来て下さいますか?」


「はい」


アリアドネは頷いた―。




****


 連れて来られた場所は城の中庭に建てられた円筒の高い砦であった。その高さは城の高さを遥かに超えている。


「ここは…?」


アリアドネは初めて目にする高い建物の姿に驚いた。すると隣に立つシュミットが説明した。


「この建物は敵の襲撃をいち早く見つける為に作られた砦です。敵の攻撃から狙われにくくする為に、敢えて城の中庭に建ててあります。有事の際はここで作戦会議なども行われますが、普段はこの通り使われておりませんので人が立ち寄ることはありません」


「そうなのですか…」


シュミットの説明にアリアドネは納得した。


(やっぱりここは普通の場所では無いのね…)


アリアドネの脳裏に昨夜聞かされた衝撃の話が蘇って来る。


「どうかなさいましたか?」


神妙な顔で砦を見上げるアリアドネにシュミットは声を掛けた。


「い、いえ。何でもありません」


「そうですか…?では中に入りましょう。既にヨゼフさんがお待ちですから」


「え?ヨゼフさんが?」


「はい。そうです。3人で内密のお話がしたかったので」


シュミットは笑みを浮かべた―。






砦の中に入ると大きなテーブルを前にヨゼフが椅子に腰かけている姿がアリアドネの目に飛び込んできた。


「ヨゼフさん!」

「アリアドネ…」


アリアドネはヨゼフに駆け寄ると、心配そうに尋ねた。


「ヨゼフさん。昨日転んだ後の痛みは大丈夫ですか?」


するとヨゼフは目を細めた。


「私の事を心配してくれていたのかい?大丈夫だよ。昨夜はゆっくり休ませて貰えたからね…それよりもアリアドネ。その恰好はどうしたのだね?まるで…下働きの女性が着る服の様に見えるのだが…」


するとシュミットが答えた。


「ええ、その通りです。まさにアリアドネ様が着ている服はここで働く下働きの女性達の服です」


そしてアリアドネを見ると言った。


「アリアドネ様もどうぞお掛け下さい」


「はい」


アリアドネはヨゼフの隣に腰かけた。その様子を見届けるとシュミットは向かい側の席に腰かけ、早速口を開いた。


「さて、アリアドネ様。昨日はあまりお話をする事が出来ずに申し訳ございませんでした。エルウィン様にお話しを伺いました。アリアドネ様は…城から出て行くように命令されたそうですね?」


その言葉にアリアドネの顔が赤く染まる。


「はい…辺境伯様から出て行くように命じられたのに、図々しくも居座ってしまい…大変申し訳ございませんでした…」


アリアドネは頭を下げた。


「アリアドネ…」


そんな彼女の様子をヨゼフは悲し気な瞳で見る。


「い、いえっ!アリアドネ様。私などに頭を下げないで下さい。寧ろ謝罪するべき立場にあるのは…私の方なのですっ!貴女を傷つけてしまい…大変申し訳ございませんでしたっ!」


シュミットは頭をテーブルにすりつける勢いで頭を下げてきた―。


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