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14−7 ベアトリス 1

 午後4時――


 その頃、離宮ではアリアドネが1人部屋で荷物の整理をしていた。


騎士たちは全員エルウィンの指導の元で剣術の訓練を行っており、時折金属音が激しくぶつかり合う音が響いてくる。


(皆さん、1日も訓練を休むことは無いのね……)


そんな事を考えながら荷物整理をしていると、メイド達の大きな話し声が聞こえてきた。


「それにしてもアイゼンシュタットの騎士の人たちは全員素敵ね」


「本当、皆さん若くて逞しくて格好いいわ」


「特にエルウィン様が一番美しいわね」


「ええ、全くその通りだわ」



(やっぱりエルウィン様は人気があるのね)


メイド達の楽しげな会話を聞きながらアリアドネは思った。


その時――。


「あの女にエルウィン様は勿体ないわよね」


突如、意地悪そうな声が聞こえてきた。


(え……?あの女って……?)


アリアドネは荷物整理の手を止めた。


「そうよね。聞いたところによると、あの女もメイドらしいわよ」


「それなのにあんなに騎士様達に囲まれているのね」


「図々しい女よね。許せないわ」


「エルウィン様も見る目がないわよね」



「……」


メイド達の言葉がアリアドネの胸に突き刺さってくる。


(やっぱり……私の出自がこの国では知られているのね……)


道理で、自分に対するメイド達の態度が冷たいのかアリアドネは理解した。


離宮にいるメイドは全部で5人いる。

彼女達はアリアドネ達が離宮に入って、暫くしてから城から派遣されてきたメイド達だった。


彼女たちは他の騎士たちには愛想が良かった。

しかしアリアドネには何故か冷たい眼差しを向け、存在を無視するような態度を取っていたのだ。


そして今も、わざとアリアドネが滞在している部屋の前で会話をしていた。

話の内容を全てアリアドネに聞かせる為に……。



(今夜は晩餐会が行われるそうだけど……気分が悪いと言って、王宮に行かないようにしましょう……)


アリアドネは心にそう決めた。




****



「ベアトリス様、随分楽しそうですね?」


王女の専属侍女が鏡の前に座るベアトリスの髪をとかしながら尋ねた。


「ええ、分かる?実はね、離宮にいるメイドたち交代させたのよ。今離宮にいるのは全員私の専属メイドなのよ?」


「まぁ……そうだったのですか?でも何故わざわざご自身の専属メイドを離宮に送られたのでしょう?」


「それはね、あの子達は全員仕事もよく出来て、気配りもよく出来るからよ?」


ベアトリスは嬉しそうに笑った。

しかし、これはアリアドネに対する完全な嫌がらせであった。

王女はわざと自分のメイド達に、アリアドネに聞こえるように悪口を言うように命じたのであった。


(あの子達は私の言うことなら何でも聞くわ。フフフ……きっと今頃は陰口を叩かれて嫌な目に遭わされているでしょうね。でも自分が悪いのよ。妾腹の娘のくせに図々しく、城に上がり込んできたのだから)


「ところでベアトリス様。今夜は随分とめかしこまれますね?あのドレスはこの間仕立てたばかりの物ですよね?」


「ええ、そうよ。何しろ今夜は大切な晩餐会なのだから。お父様から辺境伯様をお迎えに行くように言われたのよ」


「まぁ、そうだったのですね。辺境伯様はこの国を守ってくださっているお方ですからね。その方のお迎えに選ばれるとはベアトリス様もご立派になられましたね」


「ええ。そうね」


しかし、それは真っ赤な嘘だった。

父親に強引に頼み込み…ベアトリスは離宮へエルウィンを迎えに行く役目を貰ったのであった。



(辺境伯様とアリアドネはまだ婚約関係だと聞いているわ。しかもそれもどうやら嘘みたいだし…それなら……私が貰っても構わないわよね?)


そしてベアトリスは嬉しそうに笑った――。



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