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14−6  鈍い2人と、怪しい動き

「アリアドネ、俺は……」


エルウィンは口元を腕で隠しながら、アリアドネに語りかけた。


「は、はい……?」


「そ、外で剣術の訓練をしてくる!お前は先に中へ入っていろっ!」


「え?エルウィン様?」


戸惑うアリアドネを前に、エルウィンは駆け足で離宮の近くにある木立へ向かって走り去ってしまった。


「エルウィン様……?」


アリアドネは突然走り去ってしまったエルウィンの背中を呆気に取られた様子で見つめていた。


「あ〜ぁ……全く、エルウィン様は素直じゃ無い方だなぁ」


するとそこへ突然背後からカインの声が聞こえてきた。


「カイン様?見ていたのですか?」


驚いて振り向くアリアドネにカインは頷く。


「ええ、見ていました。まさか、あのエルウィン様があんなに狼狽える姿を目にするなんて……初めてですよ」


「そうですね……私も初めてみました。一体何があったのでしょう?」


「え?アリアドネ様は気付かないのですか?!」


首を傾げるアリアドネに驚くカイン。


「ええ。カイン様は何か心当たりがあるのですか?」


「……え、ええ。まぁ…と、とにかくいくら王都とは言え、まだ3月で外は肌寒いですから中へ入りませんか?暖炉がついていて温かいですよ?」


「本当ですか?ありがとうございます」


「いいえ…」


嬉しそうに笑みを浮かべるアリアドネを見つめるカイン。


(やれやれ……恐らくエルウィン様とアリアドネ様は2人の関係を揺るがすほどの何かが起こらない限り、ずっとこのような関係が続くのだろうな……。本当にお2人は鈍い所はそっくりだ……)


カインは心の中で苦笑するのだった。




****



 その頃――。


国王はエルウィンたちを離宮に案内して戻ってきたデニスから報告を受けていた。



「ほ…う。辺境伯はミレーユの身代わりとして送られてきたアリアドネに惚れているのか?」


「ええ、そうですね。恐らくあの様子では間違いないと思います。まぁ、肝心の女性の方はどう思われているかは不明ですが」


「なるほどな。それで?今夜開かれる晩餐会のことは告げたのか?」


「はい、伝えました。迎えの馬車も用意してありますので、必ずや参加するでしょう」


「そうか…。しかし、辺境伯しか参加しない可能性もあるな」


「それはそれで構わないではありませんか。テーブルマナーすら恐らく知らないでしょうから、恥を掻きたくは無いでしょうからね」


淡々と語るデニスを見て国王は口角を上げた。


(この男は妾腹の者を毛嫌いしておるからな……)


「ご苦労だった。下がって良いぞ」


「はい、陛下」


デニスは一礼すると執務室を後にした。




「デニス」


執務室を出てすぐにデニスは背後から声を掛けられ、振り向いた。


「これは王女様……。いかがされましたか?」


そこには2人の侍女を連れたベアトリスが立っていた。


「デニス、貴方は辺境伯達にもう会ったのよね?」


「はい、左様でございます」


深々と頭を下げるデニス。


「それで?辺境伯はどのようなお顔をしていたのかしら?やはり噂通り恐ろしい顔だったのかしら?」


「いえ、とんでもございません。あのように美しい顔の男性を見るのは初めてでございました」


嘘をついても仕方ないと思ったデニスは自分が感じたことを素直に述べた。


「まぁ?それ程に美しい方だったの?」


途端に辺境伯に興味を持ったベアトリス。


「それで…辺境伯の婚約者の女性はどのような方だった?」


「はい、女性の方も美しい方ではありましたが…何分、生まれが悪いですからね…。メイドが産んだ女性なのですから。しかもずっとメイドして働いてきた女性なので、貴族の嗜みも何も恐らくは知らないでしょう」


「まぁ…そうだったのね…」


その話を聞いたベアトリスに、ある考えが浮かんだ――。



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