14−4 側近デニス
エルウィン達を乗せた馬車は離宮に到着した。
離宮とは言えども、その建物はアリアドネがかつて住んでいた離れの屋敷よりも遥かに大きく、美しかった。
離宮は周囲を森に囲まれており、大きな池もある。
「まぁ……とても素敵な場所ですね」
アリアドネは感嘆のため息を漏らした。
「そうでしょうとも。本来であれば貴女のような方が来れるような場所ではありませんからね」
「は、はい……そうですね」
デニスは何処までもアリアドネを貶める言い方をする。
「貴様っ!」
エルウィンは腰に収めた剣を抜こうとした。
「エルウィン様、お願いですからおやめ下さい」
「アリアドネ……だが……」
アリアドネが必死に懇願するので、エルウィンは剣から手を外した。
そんな様子をまるで他人事のように笑みを浮かべて見物しているデニス。
彼は国王の忠実な家臣であり……尤も血筋を重んじる人物でもあった。
それ故、彼はアリアドネを軽蔑していたのだ。
(全く……陛下は一体何を考えておられるのだ?卑しい妾腹の娘を離宮に置くなど……!)
デニスは表面上は笑顔で取り繕ってはいたものの、内心は苛立っていた。
そして、エルウィンはそのことに気付いていたのだった――。
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馬車が離宮の前で止まると、すぐにドアが開けられた。
デニスは真っ先に降りると、次にエルウィンが馬車から降り立った。
「アリアドネ。俺の手に掴まれ」
エルウィンが手を差し出した。
「は、はい。ありがとうございます」
アリアドネは恐縮しながらエルウィンの手に掴まると馬車から降り立った。
すると突然離宮の扉が開かれ、騎士たちが一斉に駆け寄ってきた。
「エルウィン様!アリアドネ様!」
「お待ちしておりました!」
「素晴らしい場所ですよ!」
騎士たちは初めて訪れた離宮に興奮が止まらない。
そんな彼らを冷たい目で見つめるデニス。
(全く……何と品のない奴らだ。これだから『アイゼンシュタット』の者達は蛮族と呼ばれるのだ)
周囲で騒ぐ騎士たちを鎮める為、デニスは大きく咳払いした。
「ゴホンッ!皆様、宜しいですか?」
その声に騎士たちが静かになる。
「何だ?貴様……まだいたのか?」
エルウィンはデニスに挑発的な笑みを浮かべる。
「!え、ええ。勿論ですとも。私は陛下より辺境伯様たちを離宮にご案内する役目を担っておりますから」
「そうか?だが貴様は本当は俺たちの相手などしたくないと思っているだろう?不本意だが陛下の命令でやむを得ず、ここまで案内したのだろう?」
デニスは図星を差されながらも、平静を装ってエルウィンを見る。
「まさか、あなた方は陛下が招待された大切なお客様たちです。そのように考えるはずないではありませんか?」
「フン!どうだかな。後のことは俺たちで勝手にする。貴様はさっさと城へ帰れ。ここには使用人たちがいるのだろう?」
エルウィンは腕組みするとデニスを睨みつけた。
「そうですか……では私はお邪魔のようですので、帰らせて頂きますね。皆様、ごゆっくりお過ごしください。あ…そうそう。夜は陛下から晩餐会に招待されておりますので18時にお迎えに参りますね」
デニスは感情のこもらない声で淡々と告げると、すぐに馬車に乗り込んでしまった。
「おい。さっさと出してやれ」
エルウィンは戸惑っている男性御者に声を掛けた。
「は、はい!失礼致します!」
御者は恐縮したように返事をすると、手綱を握りしめて馬車を城に向けて走り去って行った――。




