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14−3 不愉快な話

 国王が去ると、すぐに忠実な側近デニスが2人に声を掛けてきた。


「それでは辺境伯様とお連れの方、私が離宮へご案内致します」


デニスは言葉こそ丁寧ではあったが、その言葉にも2人を見る眼差しにも感情がこもっていなかった。


「……ああ。頼む」


エルウィンは警戒しながら返事をするとデニスは踵を返し、大扉へ向かって歩き始めた。

そしてその後ろをついて歩くアリアドネとエルウィン。


「何も気にすることは無い」


歩きながらエルウィンは隣を歩くアリアドネに小声で話しかけてきた。


「エルウィン様……」


「この城の中では出来るだけ1人にならないほうがいい。分かったな?」


エルウィンは国王の態度で瞬時に悟ったのだ。

アリアドネはこの国では歓迎されていないということが。


(王宮に滞在中は…アリアドネを守ってやらなければ……)


エルウィンは心に決めた――。



****


 エルウィン達の滞在中の仮住まいとなる離宮は王宮から馬車で10分程離れた場所にあった。


「もう、お連れの騎士様達は全員離宮に案内されております。ご安心下さい」


エルウィンの向かい側に座るデニスが説明する。


「そうか…それで?その離宮にはアリアドネを世話する侍女はいるのか?」


「……必要というのであれば、メイドの1人か2人は手配致しますが?」


その物言いにエルウィンはカッとなった。


「ふざけるなっ!本気で言っているのかっ?普通、城に滞在する間は客の世話を焼く使用人が就くのは当然のことだろう?!」


「エルウィン様、落ち着いて下さい」


アリアドネは慌ててエルウィンを止めた。


「勿論給仕の者や離宮の仕事をする使用人たちはおりますよ。ご不便は掛けません。ですが、そちらの女性のお世話をする専属メイドはあいにく手配しておりませんでした。何しろ……」


デニスはチラリとアリアドネを見ると意味ありげな台詞を口にした。


「お付きの女性は……お世話されるより、するほうがお得意だと伺っておりますので」


その言葉は、アリアドネのことをメイドとして見ていることを示唆しているようなものだった。


「貴様っ!」


エルウィンがデニスに掴みかかろうとした。


「おやめくださいっ!エルウィン様!」


アリアドネはエルウィンの右手を掴むと必死になって止めた。


「何故止めるっ?!お前は今…この国から馬鹿にされているのだぞっ?!」


「いいのです。実際私は誰かにお世話された経験はありませんから。逆にそのような方々が就くのは私に取っては慣れないことです。ただ、夜会で着替えをする際だけは誰かお手伝いしてくれればそれで十分です」


するとデニスはニコリと笑みを浮かべた。


「それならご安心下さい。夜会の準備に関してはメイドを派遣するつもりでしたから」


「そうですか、それなら大丈夫です。後のことは必要ありませんから」



「……」


デニスとアリアドネの会話をエルウィンが面白くない気持ちで聞いていたのは言うまでも無かった――。

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