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14−2 国王との謁見

 アリアドネとエルウィンは謁見の間に通されていた。


まるでダンスホールのような大広間、そして見上げるほどに高い天井。

目の前には黄金色に輝く立派な玉座が置かれている。


「なんて立派な広間なのでしょう……」


着慣れないドレスに身を包んだアリアドネは想像を超える場所に通され、緊張していた。


「チッ!全く……黄金色に輝く玉座とは……。金があいつの国から取引されているとは益々気分が悪い……」


エルウィンは苛立ち紛れに呟いた。


あいつとは、言うまでもなくダリウスの事だった。


(今度あいつがアリアドネに近づこうものなら、腕の1本や2本切り落としてくれる…っ!)


エルウィンが心の中で物騒なことを考えているとはつゆ知らず、アリアドネはあまりの凄い光景にただただ、感嘆のため息を付いていた。


その時――。


前方に見える重厚そうな扉が開かれ、護衛の騎士と忠実な家臣を連れた国王が謁見の間に現れた。


「国王陛下だ。アリアドネ、頭を下げろ」

「はい」


エルウィンに小声で言われたアリアドネは慌てて、以前伯爵家で見掛けたことのある貴族女性の挨拶姿を真似た。




 そんな2人を横目で見ながらレビアス13世は玉座に座ると声を掛けた。


「良く来たな。辺境伯に、その婚約者よ。面を上げよ」


「はっ!」

「はい」


エルウィンにならってアリアドネは返事をすると、2人は顔を上げた。


「ほ…う…」


そんな2人の顔を見たレビアス13世は興味深げに身を乗り出した。


「辺境伯よ。そなたには何度か会ったことがあるが……素顔を見るのは初めてだな。会うたびにいつもいつもそなたは鉄兜をかぶっておったからな」


その言葉に驚いたのはアリアドネだった。


(え…?まさか陛下はエルウィン様の素顔をご存じなかったの?)


アリアドネの驚きを他所に、エルウィンは返事をする。


「はい、そうです。今までは戦況報告で伺ったことしかありませんでしたから。鎧姿で戦場から直にご挨拶に伺っていた為ですから」


エルウィンの丁寧な態度にもアリアドネは驚いていた。

いつも粗野なエルウィンとはかけ離れた姿であった。


「しかし、驚いたな。あの『戦場の暴君』と恐れられている辺境伯の素顔がそのような美丈夫だとは思いもしなかった。これは世間も我が娘も驚くだろう」


「……」


しかし、エルウィンはその言葉に対しては無反応だった。

何故なら自分の容姿を褒められても少しも嬉しくは無かったからだ。


次に国王はアリアドネに視線を移した。


「そなたが辺境伯に嫁ぐ為にアイゼンシュタット城にやってきたステニウス伯爵令嬢だな」


「はい、陛下」


アリアドネは恐縮しながら頭を下げた。


「まだ2人は婚姻していないそうだな?何故まだ婚約関係なのだ?」


国王は答えにくい質問をアリアドネにぶつけて来た。


「そ、それは……」


アリアドネは言葉に詰まった。


「陛下!その説明は‥‥!」


エルウィンが口を挟もうとした時…‥‥。


「そなたが本物のミレーユではないからか?妾腹の娘のアリアドネであろう?」


「「!!」」


その言葉にエルウィンとアリアドネは息を呑んだ。


「まぁ、幾ら辺境伯とはいえ‥‥由緒正しい血筋を持っておる。それを妾腹の娘をあてがわれては素直に結婚できるはずもあるまいしな。いくらどんなに美しい容姿を持っていようとも」


「!」


アリアドネはその言葉に羞恥で顔が赤くなる。


「陛下っ!今のお言葉は…あまりに彼女に失礼ではありませんかっ?!」


今の言葉は流石に我慢出来なくなったのかエルウィンが語気を強めた。


「何っ?!」

「貴様…生意気なっ!」


国王の傍に控えていた騎士が声を上げた時、エルウィンの身体から闘気が放たれ、空気がビリビリと震えた。


「‥‥っ!!」

「ヒッ!!」


その凄まじさに騎士は思わずひるんでしまった。


「よせ、2人とも。相手はあの不敗の王者とも呼ばれている男だ」


国王は騎士を制するとエルウィンとアリアドネに声を掛けた。


「これは申し訳ない。少々言葉が過ぎたようだ。とりあえず到着したばかりで疲れただろう。特別にそなたたちには離宮を用意した。城に滞在中は離宮で暮らすと良い。デニス、彼らを案内してやるのだ」


「はっ」


デニスと呼ばれた男は頭を下げると、国王は立ちあがった。


「では、また今宵の晩餐会で会おう」


そして国王は騎士を連れて、去って行った――。




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