13−21 カイン
翌日――
チュンチュン……
小鳥のさえずりの声でアリアドネは突然目が覚めた。
「う〜ん……。あ、あら……?」
目覚めたアリアドネの目に宿屋の天井が飛び込んできた。
「ここは……私が泊まった部屋……?」
キルトをはいで、身体を起こすとガウンを着たまま眠っていたことに気付いた。
「私、ガウンを着たまま眠ってしまったのね……」
けれどアリアドネには昨夜の記憶が途中で途切れていた。
「確か、昨夜はワインを飲む為に栓抜きを取りに食堂へ行って……」
頭を押さえながら昨夜の記憶を手繰り寄せ……思い出した。
「あ!そうだったわ。食堂に降りたらエルウィン様がいて、マフラーを取りに戻ったのだわ。そうしたらワインを勧められて2人で一緒に飲んで……その後、エルウィン様にマフラーを……」
その後、2人でワインを飲んだ後からの記憶がアリアドネには無かった。
「2人でワインを飲んだ後……どうなったのかしら……?」
しかし、いくら考えてもどうしても思い出すことが出来なかった。
そこでアリアドネは、エルウィンとワインを飲んだ後は、自分で部屋に戻ったのだろうと結論付けてしまった。
「そう言えば、今は何時かしら?」
部屋に掛けてある振り子時計を見ると、時刻はまもなく7時になろうとしていた。
「大変だわ!確か朝食は7時半と聞いていたのに……寝過ごしてしまったわ!急いで起きなければ!」
アリアドネは慌ててベッドから降りると、身支度を始めた――。
****
一方その頃――。
昨夜、アリアドネから手編みのマフラーを貰ったエルウィンは上機嫌で連れの騎士たちと一緒に剣の訓練を行っていた。
「よしっ!皆!よくやった!」
エルウィンの声が青空に響き渡る。
「それでは今朝の訓練はこれで終わりにしようっ!皆、ご苦労だったな!」
エルウィンは騎士たちに号令を掛けると、足早に宿屋の中へと戻って行く。
その様子を見ていた騎士たちは、エルウィンの姿が見えなくなると、途端にざわめき始めた。
「一体どうなさったのだ?エルウィン様は……」
「ああ、気持ち悪いくらい上機嫌だったな」
「これは嵐の前触れだろうか……?」
「いやいや、ひょっとすると旅の途中で敵の奇襲があるかもしれない」
「何だってっ?!それでは襲撃に備えておかなければっ!」
しかし、エルウィンの機嫌が何故良いのか何となく察知していたカインだけは1人胸の内で笑っているのだった――。
****
朝の支度を終えたアリアドネが階下に降りると既に食堂にはエルウィンを始め、騎士たち全員が既に集まっていた。
「お、おはようございます……」
アリアドネが気後れしながら挨拶をすると、騎士たちが次々と挨拶を返してきた。
その中でカインが笑顔でアリアドネに手を振った。
「アリアドネ様っ!よろしければこちらの席で一緒に食事をしませか?!」
「そうですね。では……」
アリアドネがカインのテーブル席に近寄ろうとした瞬間――。
「アリアドネッ!俺の隣に座れっ!」
エルウィンが手を上げてアリアドネを手招きした。
「え?!あ…は、はい……」
アリアドネは恐縮しながらエルウィンと同じテーブルについた。
騎士たちが呆気に取られて、その様子を見つめていたのは言うまでもなかった。
ただ1人、カインを除いては――。




