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13−19 2人きりの語らい

 アリアドネが一旦部屋に戻る姿を見つめていたエルウィンは再びワインをグラスに注ぐと、口に運んだ。


(まさか、偶然アリアドネがやって来るとはな……)


実はエルウィンはここでワインを飲みながらアリアドネのことを考えていたのだ。


マティアスの報告によれば、アリアドネが編んでいたマフラーは3本だったと言う。

それらを誰に渡すのかエルウィンは気がかりでならなかった。


誰に編んでいるのかをアリアドネ本人に尋ねるのが一番良いのだろうが、まるで隠れるかのように編み物をしていると聞かされていた。

その為、気になるのに尋ねることも出来ずにいたエルウィンはついよそよそしい態度を取ってしまっていた。


そして気付けば明日は王都だと言うのに、アリアドネとエルウィンは気まずい関係になっていたのだ。


ぎこちない関係のまま、2人で国王陛下に謁見するのは非常にまずかった。

現国王は勘が鋭い。

『レビアス』王国が他国からの侵略を免れてきたのも、いち早く危険を察知してきた国王の力でもあったからである。


そのような勘が鋭い国王の前で、アリアドネを婚約者として紹介しても嘘がバレてしまうのではないだろうかとエルウィンは危惧していたのだった。



(いずれにせよ、アリアドネにここで会えて良かった……。話が出来るきっかけになったからな)


そこで、再び空になったグラスにワインを注いでいた時……。


「お待たせ致しました」


アリアドネが食堂に戻ってきた。

手には布に包まれた何かを持っている。


「ああ、来たのか。……座るか?」


エルウィンは自分の隣の席に視線を移した。


「はい、座らせて頂きます」


アリアドネは頭を下げるとエルウィンの隣の席に座った。

その時、アリアドネから石鹸の良い香りがフワリと香った。


(そうか…入浴を済ませてあったのか……)


エルウィンはぼんやり考えながら、アリアドネを見た。


「アリアドネ、ワインが飲みたいのだろう?一緒に飲むか?」


テーブルの上には未使用のグラスが置かれている。

恐らく断ってくるだろうと思いつつ、エルウィンは尋ねた。


「宜しいのですか?では…頂きます」


コクリと頷くアリアドネ。


「そ、そうか。なら一緒に飲むか?」


てっきり断ってくると思っていただけに、エルウィンは動揺しながらもグラスにワインを注ぐと、アリアドネの前に置いた。


「ありがとうございます」


丁寧に頭を下げると、アリアドネはグラスを手にエルウィンを見つめた。


「な、何だ?」


「いえ……乾杯したほうがいいのかと思いまして」


首を傾げながらエルウィンを見つめるアリアドネ。


「そうだな。乾杯するか」


エルウィンはグラスを持つと、2人はカチンとグラスを合わせた。


「頂きます」

「ああ」


アリアドネはグラスに口をつけると一口飲み、ホウとため息をついた。


「……どうだ?」

「はい、美味しいです」


アリアドネの返事を聞いたエルウィンは再びグラスを傾け、アリアドネに尋ねた。


「それで、俺に何の用事があったんだ?」


「はい、実は……」


アリアドネは傍らにおいた布にくるまれたマフラーをテーブルの上に乗せた――。

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