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13−17 王都へ向かう最後の食事会

 旅は順調に進み、この日辿り着いた宿泊地は王都へ向かう最後の宿泊地であった。




その夜のこと。


エルウィンは夕食の席で全員が集まると、ワインの入ったグラスを手に立ち上がった。


「皆!明日はいよいよ王都へ到着する!今夜は大いに飲んで楽しんでくれ!よし!全員グラスを持て!」


『はいっ!!』


騎士たちは一斉に返事をすると、立ち上がった。

勿論、その中にはアリアドネの姿もある。


「よし!乾杯だっ!」


エルウィンはグラスを持った手を上に掲げた。


『乾杯lっ!!』


騎士たちもエルウィンにならい、グラスを掲げて声を揃えた――。



****


すっかり顔馴染みになった騎士達と一緒に会話をしながらの食事はアリアドネにとって楽しい一時となっていた。


その反面、エルウィンとの距離は一向に縮まる気配は無かった。

けれど、アリアドネはそれで良いと思っていた。

何故なら国王陛下との謁見が無事に終わり、アイゼンシュタット城に戻った暁には城を出ようと思っていたからだ。


(あまり親しくなると、別れが寂しくなるからこれでいいのよ)


アリアドネは自分にそう、言い聞かせていたのだった。



**


「アリアドネ様。どうですか?ここのワインは?」


今回の旅で、特に親しくなった御者を務めるカインが隣に座るアリアドネに親しげに声を掛けてきた。


「はい、とても美味しいですね。お酒は殆んど頂かないのですが、このワインは私にも飲みやすいですね」


アリアドネはワインで少し頬を赤らめながら返事をする。


「そうですか、それは良かったですね。ところで…」


カインは少し離れた場所で他の騎士たちと別のテーブルで料理を食べながらワインを飲むエルウィンをチラリと見るとアリアドネに尋ねてきた。


「もう、エルウィン様に手編みのマフラーは渡されたのですか?」


「え?!な、何故エルウィン様にだと分かったのですか?」


アリアドネは誰に編み物を編んでいるかは一言も話したことは無かった。


するとカインは笑った。


「アハハハ…そんなことは当然ではありませんか?考えるまでもありませんよ。あの青い色はエルウィン様の瞳の色に良く似ていますからね。それで?もう渡したのですか?でも…エルウィン様が一度もマフラーをしている姿を見掛けたことはありませんね……ということは…」


「はい、実はまだ……渡せておりません」


アリアドネは少しだけ淋しげに呟いた。


「何故ですか?」


カインが首を傾げる。


「はい。何故か……エルウィン様が旅を続ける中で、だんだんよそよそしくなってきた気がして……それで渡すタイミングが中々無くて……」


「ああ、それなら僕に心当たりがありますよ」


「え……?本当ですか?」

「はい、実はエルウィン様はアリアドネ様がマフラーを編んでいるのをご存知で……それが自分に宛てたものだとは思っていらっしゃらないからですよ。つまりそれが面白くないのだと思います。あ、これはここだけの話にしてくださいね」


カインは人差し指を立ててアリアドネにウィンクした。


「そうなのですか?」


「はい、そうです。なのでアリアドネ様によそよそしい態度を取られているのです。つまりエルウィン様はアリアドネ様からの贈り物を待ち望んでいるはずです」


「エルウィン様が……」


「きっとエルウィン様はアリアドネ様からの贈り物を喜んで受け取るはずですよ」


「分かりました。ありがとうございます。カイン様」


アリアドネは笑みを浮かべて、カインを見るのだった。




****


 一方、エルウィンは騎士たちとワインを飲みながら苛々した様子で親しげに話をしているアリアドネとカインの様子をチラチラと盗み見していた。


(あの2人……いつの間にかあんなに親しくなっているなんて……。こんなことなら日替わりで御者を別の者にやらせれば良かっただろうか?)


「どうしましたか?エルウィン様」


エルウィンの隣でワインを飲んでいるマティアスが声を掛けてきた。


「いや、何でも無い。それよりワインが空になったぞ、追加を頼んできてくれ」


「はい、ただいま!」


マティアスは立ち上がると急ぎ、厨房へワインを頼みに向かった。


「全く……」


エルウィンはつまみのチーズを口に入れながら、再びカインとアリアドネに視線を向け…ため息をついた。


まさか2人が自分のことで話が盛り上がっているなど思いもせずに、エルウィンは楽しげに話をしている2人を羨望の眼差しで見つめるのだった――。



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