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12-7 ダリウスの追放とエルウィンの頼み

 翌日――


キィ〜……


薄暗く、冷たい地下牢に軋んだ鉄の扉が開く音が響き渡った。


松明の灯りに照らされたエルウィンは簡易ベッドの上に座っていたダリウスに声を掛けた。


「牢屋から出ろ、ダリウス」


エルウィンの側にはシュミットとスティーブの姿もある。


「へ〜…辺境伯様自らが、忠実な2人の部下を連れてわざわざ俺を連れ出しに来るとはな」


すっかりふてぶてしい態度のダリウスにスティーブは声を掛けた。


「ダリウス……貴様、随分ふてぶてしい男だったんだな?仕事場で働いていた時は猫でもかぶっていたか?」


すると、その言葉に挑戦的な笑みを浮かべるダリウス。


「ああ、当然だ。何しろあの職場には愛しい女が一緒に働いていたからな。彼女に気に入られる為に俺がどれだけ頑張っていたか分かるか?」


「…口の減らない方ですね」


シュミットの声は冷めていた。


「あ〜あ……。こんなことになるなら、さっさとアリアドネを抱いていれば良かった。チャンスはいくらでもあったっていうのに……」


「「何だとっ?!」」


その言葉にたちまち殺気走るエルウィンとスティーブ。しかし、2人の殺気に怯むこと無く、ダリウスは続ける。


「なぁ、俺は今国に返されてしまうんだろう?だったら最後に一目アリアドネに会わせてくれないかな?もう一度彼女の姿を目に焼き付けておきたいんだよ」


わざと悪びれた言い方をしているものの、ダリウスがアリアドネに会いたい気持ちは本当だった。

形はどうあれ、ダリウスは真剣にアリアドネのことが好きだったのだ。


「貴様……この場で斬り殺されたいかっ?!」


エルウィンは腰の剣に触れた。


「待って下さい、大将。俺が殺りますよ」


スティーブが一歩前に進み出る。


そこへ割って入ったのはシュミットだ。


「落ち着いて下さい、2人とも。そんなことをすればただでは済まないのはお分かりでしょう?とにかく一刻も早く陛下の命令に従わなければなりません」


「あ、ああ……そうだな。こんな奴、さっさと追い払ってしまおう」


エルウィンは剣にかけていた手を降ろした。


「そうですね。大将。さっさとこの獣を追い払って、俺たちはアリアドネに会いに行きましょう」


スティーブはわざとアリアドネの名前を口にし、ダリウスを見てニヤリと笑った。


「き、貴様……っ!」


ガタンッ!!


ダリウスは悔しそうに音を立てながら簡易ベッドから立ち上がった。


「よし、立ったな。連れ出せ。そいつらはお前達に任せる」


エルウィンはそれだけ言うと、地下牢から出ていった。


「「はいっ!」」


シュミットとスティーブは牢屋の中に入ると、素早くダリウスを拘束した。


「クッ……!こ、この蛮族めっ!!」


ダリウスの悔しそうな咆哮を聞きながら、エルウィンは振り返ること無く地下牢を後にし、ミカエルとウリエルの元へと向かった。



目的は……勿論1つしか無かった。




****



「頼む!2人とも!アリアドネはどんな物をプレゼントすれば喜ぶのか、もし知っているなら教えてくれっ!」



エルウィンは部屋に入るなり、ミカエルとウリエルに頭を下げていた。


「え?リアの好きなもの?ミカエル、知ってる?」


「ううん、僕知らない」



ミカエルに尋ねられたウリエルは首を振った。


「そうか…2人とも、知らないのか……」


(てっきり2人なら知ってると思ったのだが…)


力なく項垂れるエルウィンにミカエルは尋ねた。


「でも、エルウィン様はどうしてリアにプレゼントしたいのですか?」


「そ、それは……」


(駄目だ、この2人の前でアリアドネが城を去ろうと考えているからだとは、とても言えない…!)


すると、ウリエルが手を上げた。


「分かった!エルウィン様はリアが好きだから、プレゼントしたいんだね?」


「な、何を言う?!ウリエルッ!違う、別にそういうことではなく…単に俺は…!」


するとミカエルが頷いた。


「何だ、そういうことだったんですね?だったら僕達がリアに聞いてみます。どんなプレゼントが好きなのか」


「本当か?ミカエル」


エルウィンの顔に安堵の笑みが浮かぶ。


「うん、任せて下さい」


「分かった、それじゃよろしく頼むな」


エルウィンは笑みを浮かべ、ミカエルとウリエルの頭を撫でると部屋を後にした。


この後、何が起こるかも知らずに――。


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