12-6 男3人不毛な会話
「大将、一体誰が出ていこうとしているんです?」
スティーブはため息をついているエルウィンに尋ねた。
「スティーブ、お前も本当に鈍い男だな。出ていこうとしていると言うくらいなのだから、誰かくらい見当がつくだろう?」
恨みめいた眼差しをするエルウィン。
「え……?それって、もしかしてアリアドネの……いえ、アリアドネ様のことですか?!」
「やはりそうでしたか……」
おおよその見当がついていたシュミットは驚くこともなく沈痛な面持ちで頷く。
「つまり、今のエルウィン様はアリアドネ様に出ていって貰いたくはない、ということで間違いありませんね?」
皮肉を込めた言い回しでシュミットはエルウィンに尋ねた。
「そ、そう……だ……」
渋々頷くエルウィンに、ここぞとばかりにシュミットは語った。
「よろしいですか?エルウィン様。元はと言えばアリアドネ様がこの城を出て行こうとしているのは、初めにエルウィン様に剣を向けられてこの城を出るように言われたからではありませんか?」
「うっ!」
痛いところを突かれたエルウィンは小さく呻く。
「それだけではありません。行き場の無いアリアドネ様が身分を隠し、下働きとして働いているのを知りながらも傍観されていましたよね?」
「だ、だからそれは……アリアドネやお前たちが……身元を隠そうとしていたことに気付いたから‥‥」
「言い訳は結構です」
「うぐっ!」
シュミットの容赦ない言葉にエルウィンは胸を押さえる。
「大体、エルウィン様は日頃からデリカシーに欠けて……」
ついに、シュミットの愚痴がエルウィンに向けられてしまった。
シュミットの言葉にどんどん追い詰められていくエルウィンを見ながらスティーブは焦っていた。
(おいおい、大丈夫なのかよ‥‥大将にあんな口を叩いて‥‥)
そして、エルウィンをやりこむシュミットを見ながらスティーブは思った。
ひょっとして、アイゼンシュタット城で一番権力があるのは実はシュミットなのではないだろうか……と――。
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「だから、悪かったと反省しているじゃないか」
ようやくシュミットの愚痴から解放されたエルウィンがうんざりした様子で2人を交互に見た。
「本当に反省したのでしょうね?」
「口先だけなら何とでも言えますぜ?」
「ああ。分かってるって。それで…アリアドネをこの城に止めるにはどうすれば良いと思う?」
恋愛感情にはさっぱり疎いエルウィンがシュミットとスティーブに尋ねた。
「う~ん……そうだ、大将!贈り物をしてみたらどうです?」
スティーブが身を乗り出した。
「贈り物?」
エルウィンが眉を潜める。
「ええ、そうですよ!アリアドネが好きな品物をプレゼントするんですよ!」
「なるほど、そうか!それで?アリアドネは何が好きなんだ?」
エルウィンの言葉にスティーブは首を傾げる。
「え…さ、さぁ……何が好きなんでしょうね…‥?」
「何だ、自分から提案しておいてアリアドネの好きなものが分からないのか?親しくしていたくせに」
「た、大将っ!勘弁してくださいよっ!」
慌ててふためくスティーブをエルウィンはからかうように言った。
「大体、今もアリアドネと親し気に名前を読んでいたしなぁ?」
「そ、それを言うなら‥‥シュミットだって、親しくしていましたよ!」
スティーブはシュミットを指さした。
「え?!な、何故話をこちらに振るなんて…!」
「そうだな、言われて見ればシュミットもアリアドネと仲が良かったようだし……。お前ならさぞかしアリアドネの好きなもの位知っているだろう?」
「そんな……私が知るはずないではありませんか!」
こうして女心に疎い男3人の不毛な会話は続き……結局この日はアリアドネを引き留める妙案が浮かぶことは無かった――。




