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11-26 蘇る恐怖の記憶

「スティーブ様」


部屋に入って来たアリアドネに声を掛けられたスティーブは苦笑した。


「スティーブ様なんて言い方はやめてくれよ。そうしたら俺もアリアドネ様なんて呼ばなきゃらなくなるだろう?」


「え……?」


今までスティーブからそのような言われ方をしたことが無かったアリアドネは首を傾げた。

するとスティーブは肩をすくめた。


「やれやれ‥‥アリアドネは何も自覚がないんだな。本来の自分の立場を……」


「私の立場……?あ!」


アリアドネはその言葉で思い出した。

自分の正体がエルウィンにバレていたということに。


「スティーブ様!大変ですっ!私…今まで知りませんでしたが、エルウィン様に自分の正体がばれていたのです!」


「ああ、そうだったみたいだな。俺も今日、知ったんだよ」


スティーブはバツが悪そうに頭を掻いた。


「え……?そうだったのですか……?」


「ああ、そうだ。しかも大将も人が悪い。初めてアリアドネを見かけた時から気付いていたって言うんだからな?」


スティーブはウィンクした。


「そ、そんな‥‥」


(初めから私はエルウィン様に正体がばれてしまっていたなんて…!)


そして今までそうとは知らずに、素知らぬ顔でエルウィンの前に姿を見せていた自分が恥ずかしくなってしまった。

そして思った。


(やっぱり……アイゼンシュタット城に戻ったら…ヨゼフさんと会って話をして…もし、ヨゼフさんが城に残ると言っても私だけはここを離れよう…‥)


しかし、アリアドネが城を出ようと考えているとは思いもしないスティーブは声を掛けた。


「アリアドネ。全て片付いた。大将が勝利したんだ。と言うわけで…城へ戻ろう?」


「はい、戻ります」


アリアドネは頷いた――。



****


(ダリウス……ッ!)


スティーブと一緒に教会の外へ出たアリアドネは驚いた。

荷馬車の前には体中傷だらけのダリウスが両手を後ろ手に拘束された状態で立たされていたからだ。

ダリウスの左右には兵士達がそれぞれ見張りの為についていた


ダリウスを一目見たその瞬間、アリアドネに先ほどの恐怖が蘇る。

力強い手でベッドに押さえつけられたあの時の恐怖が‥‥…。


「アリアドネ‥‥」


ダリウスはアリアドネの姿を見ることが出来たので嬉しそうに笑みを浮かべた。

けれど、ダリウスに襲われかけたアリアドネにとっては、もはや彼は恐怖の対象

でしかなかった。


「…!」


アリアドネがこわばった表情を浮かべると同時に、隣に立っていたスティーブがアリアドネを自分の背後に隠した。


「アリアドネに声を掛けるな。分からないのか?どれほどお前のことを恐れているのか!」


「恐れる?俺はそんなに怖がらせるようなことはしたつもりはないけどな?ただ可愛がってやろうと思っただけさ。なぁ?アリアドネ?」


ダリウスの言葉にアリアドネの肩が跳ねた。


「貴様が王子でなければ‥‥殺してやるところだ」


スティーブは怒りでギリギリと歯を食いしばり、近くにいた兵士たちに命じた。


「その男を荷馬車に放り込めっ!」


「「はいっ!」」


兵士達は返事をすると、ダリウスに口々に命じた。


「早く荷馬車に乗れっ!」

「ぐずぐずするなっ!」


「やれやれ…全く口が悪い連中だ…‥」


ダリウスはため息をつきながらもおとなしく馬車に乗り込んでいく。


その様子を見届けたスティーブはアリアドネに声を掛けた。


「アリアドネ、アイゼンシュタット城へ戻ろうか?」


「はい」


アリアドネは頷いた。


ある決意を胸に――。







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