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11-22 オズワルドの最期

「どうした?オズワルド。貴様……それほど弱い男では無かっただろう?」


オズワルドの傷付いた腹を踏みつけ、剣の切っ先をオズワルドの首筋にピタリと押し当てるエルウィン。


「ぐ…」


弾丸が内臓に食い込んだ腹を踏みつけられているオズワルドは苦し気に呻くしか出来なかった。


「ん……?」


その時になって、エルウィンは初めて異変に気付いた。

オズワルドの身体から、濃い血の匂いが漂っているからである。おまけにオズワルドの苦しみ方は尋常ではない。


「オズワルド‥‥貴様、もしや‥‥」


エルウィンは踏みつけていた足をどかすと、オズワルドのマントだけを剣で切り裂い

た。


「何?」


切り裂かれたマントの下から軍服姿のオズワルドが現れた。そしてエルウィンは見た。

オズワルドの腹は切り裂いた布で締め付けられていたが、そうとう出血が酷いのだろう。布は血でどす黒く染まっていた。


戦場で数えきれないほどに血生臭い経験をしてきたエルウィンにはすぐに分かった。

これほどの傷を負っていれば、恐らくもう助かることはないだろうと。


「オズワルド。貴様‥‥傷を負っていたのか?」


オズワルドに尋ねた。


「‥‥…」


しかし、素直に答えるオズワルドではない。


「…ふん」


返事をしないオズワルドに左程興味が無かったエルウィンは剣を収めた。それがオズワルドには気に入らなかった。


「エルウィン…な、ぜ…剣を…収める…ゴフッ!」


傷つけられた内臓を踏みつけられたうえ、無理に話をしたせいでオズワルドの口から大量の血が溢れた。

もはやオズワルドは立ち上がる気力すらなかった。


「知れたことだ。それほど傷付いたお前と闘う気など、俺にはない。どうせお前はもう助からないからな。そのまま死を待つがいい。全く…哀れな奴だ」


「な、なん…だ…と…」


オズワルドにとって、その言葉は我慢ならなかった。

憎いアイゼンシュタットの血を濃く引き継ぐエルウィンに同情されるのは我慢できない事だった。


「き、貴様…お、俺を馬鹿にする気か…?」


「いや。馬鹿にする気は一切ない。ただ死にかけている奴をわざわざ手にかけるほどでは無いということだ」


「な、何だと…!」


エルウィンの言葉は騎士として生きて来たオズワルドにとっては最大の侮辱の言葉だった。


(こんな‥‥奴に…同情されるくらいなら…!)


その時、オズワルドに良い考えが浮かんだ。


(そうだ…あの話をすれば…流石のエルウィンも…)


「エ…エルウィン…貴様…この傷が…何で出来たか…気にならないのか‥‥?」


「大方、戦いの最中に誰かにやられたのだろう?」


「あ、ああ…そ、そうだ‥‥ロイと…銃で撃ち合って…やられた…」


「何?ロイだと?」


そのとき、エルウィンの眉が上がった。


「あぁ…奴を挑発したうえで…撃ち合いになった…。ロイは動揺していたのだろうな…。打ち損ねて俺の腹に当てたのだ…。だが、俺は…違う。正確に…心臓を撃ち抜いてやったわ…」


「何だとっ?!それではロイは……っ!!」


エルウィンの顔が青ざめた。


「ああ…殺して‥‥やったわ…。ロイの奴‥‥俺がアリアドネを…ダリウスに売ったのが相当…気に入らなかったのだろう…。師である俺を殺しに来たのだからな…。だが、返り討ちにしてくれたわ…」


「黙れ…オズワルド‥‥」


エルウィンは怒りに身体を震わせながら再び剣を抜いた。

血にまみれながらも、口角を上げて淡々とロイを殺したことを語るオズワルドが許せなかったのだ。


「フハハッハハ…愚かな奴だ…アリアドネに特別な感情を…持ったばかりに…俺に殺されたのだから…な…」


「黙れと言っただろうっ?!」


ザクッ!!


エルウィンはオズワルドの心臓に剣を突き刺した。


「貴様のような男に…ロイの死を語る資格は無いっ!!」


しかし、オズワルドはもう返事をすることは出来なかった。


ただ目前に迫る死を意識しながらオズワルドは最期に思った。


あの世でロイに再会して…謝罪することが出来るだろうか…と。



そして、オズワルドはエルウィンにとどめを刺され…この世を去った。



自分の野望を叶えることなく――。


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