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11-6 ロイの過去 3

「…もう出てきても良いぞ」


不意に騎士がロイの隠れている納戸を振り向いた。



(え…?僕に話しかけているの……?)


躊躇っていると、さらに声を掛けられた。


「…敵を討ちたくは無いのか?」


「!」


その言葉にロイは扉を勢いよく開き、納戸から出て来た。


「…‥‥」


ロイはじっと騎士を見つめた。


「…良い目をしているな‥‥」


騎士はフッと笑うとロイに短剣を差し出してきた。


「銀製の短剣だ。お前のような子供でも扱えるだろう」


「……」


ロイは震えながら騎士に近付くと短剣を受け取った。


「お前の敵は全員そこにいる」


騎士の背後には血まみれの山賊たちが床に転がっていた。


「……まだ生きているの…?」


「ああ、最も殆ど虫の息だが。お前に止めを刺させてやろうかと思ってな」


「!」


騎士の言葉にロイは顔を上げた。

そして震える手で短剣を受け取ると、息も絶え絶えな山賊たちの元に向かった。


「た…頼む…た、助け‥‥」

「い、命だけは‥‥」

「死にたく…ない…」


3人の山賊たちはヒューヒューと喉笛を鳴らしながらロイに命乞いをする。


残り2人はピクリとも動かない。


「チッ…2人は死んだか……お前に敵を討たせてやろうかと思ったのだがな……」


ロイの背後で騎士が舌打ちする。


「どうする?殺れそうか?」


騎士の言葉にロイは無言で頷くと短剣を両手で持ち、ためらうことなく山賊の胸に剣を突き立てた。



ザクッ!!


「ヒッ!」


山賊の身体がビクリと跳ねる。けれど、心が麻痺していたロイには何も感じない。

そのまま剣を身体から引き抜くと、残りの2人も同様に刺していく。


ザクッ!

ザクッ!!


最期の1人を刺した頃にはロイの身体は返り血を沢山浴びていた。


「はぁ…はぁ‥‥」


荒い息を吐きながら刺殺した山賊たちを見下ろすロイに騎士は声を掛けた。


「どうだ?初めて人を殺した気持ちは?」


けれど、ロイの心は何も感じない。ただ姉のことだけが頭をしめていた。


「お…お姉ちゃん……」


「姉……?そうか、あの娘は……お前の姉だったのか?お前の姉ならそこだ」


騎士が指さした先にはテーブル近くの床の上に倒れているミルバの遺体があった。

遺体にはマントが掛けてある。

ロイはミルバの遺体に駆け寄ると、ひざまずいた。


ミルバの身体はあちこち青あざだらけだった。口元からは乾いた血がこびりついている。


「気の毒に……さぞや辛く、苦しかったことだろう……」


騎士の言葉がロイに投げかけられる。


「う……お、お姉ちゃん……」


先程までの激しい憎しみの気持ちから一転、今度は猛烈な悲しみがロイを襲った。


「お姉ちゃーんっ!!目を開けてよっ!!僕を…僕を1人にしないでよーっ!!」


ロイは冷たくなったミルバの遺体にしがみつき、泣きじゃくった。

いくら揺すっても目を覚まさない。

傷だらけで冷たくなったミルバの遺体を目の当たりにしたショックはまだ7歳の少年には耐え難い程だった。


ミルバの遺体にすがりついて泣き続けるロイに騎士は声を掛けた。


「少年よ、行く当てが無いなら私と一緒に来るか?」


「……」


ロイは返事もせずにその言葉を背中で聞いている。


「お前には才能がある。何しろ奴等を躊躇いもせずに刺殺したのだから。私がお前を鍛えて……騎士にしてやろう。弱い者を守れる力を身につけたいとは思わぬか?」


「……なれるの……?」


その時、初めてロイは返事をした。


「ああ、お前ならきっと強い騎士になれる。どうだ?一緒に来るか?」


ロイは立ち上がると涙を拭い、騎士を見た。


「……行く」


「よし、なら来い。私の名前はオズワルドだ。お前の名は何という?」


「ロイ……」


「よし、ロイ。では行こう。その前にお前の姉を埋葬してやろう」


「うん……」


ロイは力なく頷いた。




その後、ロイはオズワルドが山賊を捕らえる為に10名の騎士を連れてきていたことを知る。



村の家屋はほとんど燃やし尽くされ、逃げ送れた若い娘たちは陵辱された挙げ句、殺害されていた。


殺された村人たちはオズワルドの騎士団によって、埋葬された。

その中には……ロイの姉、ミルバの姿もあった。



全て事が終了すると、オズワルドはロイを連れてアイゼンシュタット城へ戻った。


そしてロイは厳しい訓練を受け、オズワルドの腹心とも言える凄腕の騎士へと成長を遂げたのだった――。

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