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10-10 アリアドネの戸惑い

 アリアドネは荷馬車の中で毛布をかぶり、なすすべもなく座っていることしか出来なかった。


(一体ダリウスは私を何処に連れて行こうとしているのかしら。ミカエル様とウリエル様は今頃心配しているかもしれないわ。それにヨゼフさんだって…)


ヨゼフは長年の御者の仕事がたたってか、腰を痛めている為に仕事場に顔を出すことは一度も無かった。

けれども週に1度必ず2人は会って、お茶を飲みながら会話を楽しんでいたのだ。



(私がいなくなったら、きっとヨゼフさんは悲しむに違いないわ。それにマリアさんたちだって…)



その時―。



ガタンッ!


突然荷馬車が大きく揺れて停車した。


「止まった…?」


すると幌をまくり上げてダリウスが姿を見せた。


「さあ、着いたよアリアドネ。荷馬車から降りよう」


ダリウスは手を差し伸べてきた。


「…」


しかし、アリアドネは黙ったまま身動きしない。どう反応すれば良いか分からなかったからだ。


「困ったな…だんまりなんて。そんなに俺のことを怒っているのかい?」


「べ、別に怒っているわけでは無いわ」


視線をそらせながらアリアドネは返事をした。


「良かった…口をきいてくれて。もしこのままずっと俺との会話を拒まれたらどうしようかと思っていたんだ。やっぱりアリアドネに無視されるのが…俺には一番堪えるからさ」


「ダリウス…」


どこか寂し気に訴えられ、アリアドネは罪悪感を抱いてしまった。


(よくよく考えて見れば、私はアイゼンシュタット城でダリウスに色々お世話になっていたわ…。確かにこんな態度では…彼に悪いわよね…)


「さ、降りておいで。いつまでもそんな場所にいたら寒いだろう?ここで休憩を取ろう?」


「分かったわ…」


アリアドネは素直に言うことを聞き、荷馬車から降りることにした。



ダリウスの手を借りて荷馬車から降りると、そこは小さな集落だった。

馬車道を挟むように土壁の小さな家々が点在し、村の中には小さな小川が流れて水車小屋からはカラカラと水車が回る音が聞こえている。


まだ雪深い為か、外を出歩く村人の姿はない。


「ここは…?」


馬車を降りたアリアドネはダリウスに尋ねた。


「ここは『アイデン』の領地で宿場村の一つさ。今日はここの宿屋に宿泊してから先へ進もうと思ってね」


「ま、待って。先って一体…」


アリアドネが口を開きかけた時―。


「ダリウス様っ!」


マント姿の青年がどこからともなく駆け寄って来た。


「どうした?」


「はい、宿屋の手配が終了しましたのでもう中に入れます。馬と荷馬車の管理は我らにお任せを。ダリウス様はアリアドネ様と先に中にお入り下さい」


「ダリウス様…?」


アリアドネは小さく呟いた。


(一体どういうことなの?この人は何故そんなにダリウスに腰を低くしているの…?)


「ああ、分かった。それでは後のことは頼むぞ」


「はい、承知致しました」


青年は敬礼すると、去って行った。



再び2人きりになるとダリウスはフッと小さく笑みを浮かべ、アリアドネの肩を強引に抱き寄せた。


「さぁ、アリアドネ。疲れただろう?まずは宿屋に入って冷えた身体を温めた方がいい。行こう」


妙に甘い声で顔を近づけて語りかけられるので、アリアドネはダリウスから身をよじって距離を取った。


何故なら強引に自分をここまで連れて来たダリウスが少し怖かったからだ。


「アリアドネ…?」


「だ、大丈夫。そんなことをしなくても…1人で歩けるから」


「分かったよ…それじゃ行こう」


ダリウスはため息交じりに返事をすると、先に立って歩き出した。


そしてその後ろを少し距離を取って、アリアドネはゆっくりとついて行く。



(宿屋に着いたら、ダリウスにアイゼンシュタット城に帰してもらうようにお願いしなくては…)


この時のアリアドネは自分が何故ダリウスに拉致されたのか、まだ何も理解していなかった―。


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