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9-4 届かない報告

 今日は久々に吹雪が止んでいた。



ミカエルとウリエルの部屋では、今ではすっかり恒例となっていたトランプゲームで遊ぶ4人の姿があった。


「あがりだ」


ロイがテーブルの上に揃ったカードをパサリと置いた。


「あっ!またロイの1人勝ちだ!」

「ずるい!ロイばかり!」


ミカエルとウリエルが口をとがらせてロイに文句を言う。


「ロイ…ミカエル様とウリエル様に少し手を抜いてさしあげたらどうなの?」


アリアドネが呆れた様子でロイを見た。


「そうだよ!いつもいつもロイばかり勝って…1度位勝たせてくれたっていいじゃないかっ!」


まだ幼いウリエルは唇を尖らせた。


「何を言ってる?戦場では手を抜けば命取りに繋がるかもしれないだろう?それが例えゲームの世界でも一緒だ」


「命取りって…カードゲームの話なのに…」


アリアドネが呆れた様子でため息をついた時…。



ボーン

ボーン



午後2時を告げる部屋の振り子時計が部屋に鳴り響いた。


「あ、大変。もうこんな時間ですね。ミカエル様とウリエル様は15時からは歴史の授業でしたよね?その前におやつに致しましょう。今から厨房に行って参りますね」


カードを置いてアリアドネが席を立つと、ロイも立ち上がった。


「俺も一緒に行こう」


「ロイ…いつも言ってるけど、貴方はミカエル様とウリエル様の専属護衛騎士なのよ?私についてどうするの?」


呆れたようにアリアドネはロイに声を掛けた。


「だが、まだ城の見取り図が無ければお前は厨房まで行けないだろう?」


「だ、だけど…」


アリアドネはチラリとミカエルとウリエルを見た。


「僕たちは平気だよ」

「うん、リアについて行ってあげて」


するとミカエルとウリエルは笑顔を向けてきた。


「ほら、お2人もそう言ってるんだ。行くぞ」


ロイはアリアドネの手を掴むと、強引に連れ出していく。


「ミ、ミカエル様、ウリエル様。少しだけお待ちくださいね」


アリアドネはロイに手を引かれながら、部屋を後にした。




 廊下に出るとアリアドネはロイに声を掛けた。


「ねぇ!ロイッ!待って、1人で歩けるから手を放して」


未だにアリアドネの手を繋いだまま離さないロイにアリアドネは声を掛けた。


「駄目だ、手を放して迷ったりしたら大変だ。未だに城の見取り図が無ければ1人で城内を歩けないだろう?」


「そ、それは…」


思わずことばが詰まるアリアドネ。


「だからお前は俺についてくればいい」


「…分かったわ」


こうして、今日もアリアドネはロイと一緒に城の中を移動し…いつしか2人の仲は

城の中で有名になり、噂の的になっていた。


しかし、肝心な2人はその事実に気付いてはいなかった―。




****



 その日の夕方の事―



オズワルドがエルウィンの執務室を訪れていた。



「エルウィン様。これが、今月分の私の部隊の訓練スケジュールです」


オズワルドが椅子に座るエルウィンにスケジュールを描いた記録用紙手渡した。

今日は月に1度の部隊の訓練状況を報告する日であったのだ。


「…ああ。分かった」


オズワルドから記録用紙を受け取ると、エルウィンは目を通し…頷いた。


「うん、今後もこの調子で頑張ってくれ。越冬期間中はどうしても士気が下がるし、訓練を怠りがちになるからな…ご苦労だった。もう戻っていぞ」


「はい。分かりました。ありがとうございました…。ところでエルウィン様。こちらへいらしてからのミカエル様とウリエル様のその後のご様子はいかがですか?」


オズワルドは探りを入れるべく、エルウィンに尋ねた。


「…さぁな。俺は殆ど2人に会っていないからな」


その意外な言葉にオズワルドは少しだけ意外に思った。

さぞかし、エルウィンは2人の元…と言うよりは、アリアドネに会いに部屋を訪れているかと思ったからだ。


「そうなのですか?…一体何故です?」


「何故と言われても…もともと生活時間が違うから食事を一緒に取ることも無いし…第一…」


そこでエルウィンは言葉を切った。


「第一…何ですか?」


オズワルドは先を促す。


「お前が護衛騎士につけたロイが1日中、部屋の中で2人を見守っているのだから俺が行くまでも無いだろう?おまけに、あんな噂まであれば…」


「噂?噂とは一体何です?」


オズワルドは追及した。別塔に住んでいたオズワルドの耳にはロイとアリアドネの噂が、耳に届いていなかったのだ。


「う、うるさいっ!ロイはお前の部下だろう?!ミカエルとウリエルの事を知りたければロイに尋ねろ!俺は知らんっ!さっさと出ていけっ!」


「え?エルウィン様?」


しかし否応も無く、オズワルドは部屋から追い出されてしまった。



バタン…


部屋を閉め出されたオズワルドは顔を歪め、親指を噛んだ。


「ロイ…この私に何の報告もしないとは…一体何を考えておるのだ…?」


そしてオズワルドは思った。


今夜…ロイを呼びつけて話を聞こう―と。



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