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8-7 引き止める男

「スティーブ様…」


すると、ダリウスはスティーブの視線からアリアドネを隠すように立ち塞がった。


「…一体ここに何の用があっていらしたのですか?」


「別に。お前に用があって来たわけじゃない。アリアドネを迎えに来たのさ」


スティーブは腕組みしながら挑戦的にダリウスを見た。


「迎え…?」


ダリウスは眉をしかめた。


「ああ、そうだ。アリアドネ、部屋の用意が出来たから一緒に城へ行こう」


「はい」


アリアドネは返事をするとダリウスの側を通り抜けようとした…その時。


「行くなっ!」


ダリウスがアリアドネの腕を掴んだ。


「ダリウス…」


アリアドネは驚いたようにダリウスを見た。


「おいっ?!お前何してる!」


それを目にしたスティーブは声をあげた。


「何してる?決まってるじゃないですか。アリアドネを城にあげられるはずないでしょう?あんな…風紀が乱れきった城になど」


ダリウスのどこか嘲笑ったかのような言葉にスティーブの眉が険しくなる。


「何だと…?今…アイゼンシュタット城の事を何と言った…?」


「ええ。いくらでも言いますよ?越冬期間中のアイゼンシュタット城はまるで巨大な娼館と同じだ」


「何だってっ?!そんな口を叩くとは…貴様…!それでもここの領民かっ?!」


「あいにく、俺は最近までは別の土地で暮らしていたのでね。まだ領民としての自覚が持てないんですよ」


まるで小馬鹿にしたようなダリウスの態度にスティーブはもはや我慢の限界だった。


「貴様…っ!」


思わず腰の剣を抜こうとしたその時―。


「やめて下さいっ!」


今迄口を閉ざしていたアリアドネが声をあげた。


「「!!」」


その時になって初めてダリウスとスティーブはハッとなった。2人とも一瞬アリアドネの存在を忘れていたのだ。


「アリアドネ…」


ダリウスはアリアドネを見た。その手はまだアリアドネの腕を握りしめている。


「ダリウス…腕が痛いわ…離してくれる…?」


ダリウスの目をじっと見つめるアリアドネ。


「あ…ご、ごめん…」


手を離すと、アリアドネはすぐにスティーブの元へと歩いていく。


「ま、待ってくれ!アリアドネッ!」


けれど、アリアドネは足を止めない。


「スティーブ様。案内して頂けますか?」


アリアドネはスティーブの前で足を止めた。


「あ、ああ。行こうか?」


スティーブは笑顔でアリアドネを見た。


「行くなっ!アリアドネッ!」


ダリウスはまだ諦めきれずに名を呼んだ。


「…ごめんなさい。ダリウス。私には…責任があるの」


アリアドネは振り向くこともせずに言葉を口にした。


「責任て…!」


尚も引き下がろうとしないダリウスにスティーブが口を挟んできた。


「いい加減にそのへんにしておけよ。しつこい男は嫌われるぜ。それじゃ行こうか。アリアドネ」


「はい、行きましょう」


「!」


その言葉にダリウスの顔が青ざめる。

焦った様子のダリウスを見たスティーブはニヤリと口角を上げると、アリアドネを伴って、作業場から去っていった。


「…クッ…!」


後に残されたのは悔しそうなダリウスと、心配そうな顔で3人のやり取りを見つめていたマリア達だった―。



****



「…先程はダリウスが失礼な事を言って、申し訳ありませんでした」


歩き出すとすぐにアリアドネは謝罪してきた。


「何もアリアドネが謝ることはないさ。失礼な言い方をしたのはあの男だろう?」


「そうですけど…」


「まぁ、あいつの言うことも確かに一理あるけどな。現に城には男たちの夜の相手をするメイドもいるし、娼婦まで今はいる。けれど安心しろ、アリアドネ。メイドとして暮らす塔は南塔なんだ。そこはさっきの男が言っていたような風紀が乱れた場所ではないからな。いかがわしい奴らは一切いないから安心して暮らしていけるぞ?」


スティーブは笑みを浮かべながらアリアドネに説明した。


「本当ですか?」


その言葉を聞いたアリアドネに安堵の表情が浮かぶ。


「ああ。ランベール様が居住を構えていたのは東塔なんだ。その場所が問題だったんだよ。大将は娼婦を激しく嫌っていたからな…それで余計にあの2人は対立していたんだ」


「そうだったのですね…」


「ああ、大体まだ幼いミカエル様とウリエル様にとっても良い環境じゃないからな。だが、今回オズワルドは2人を我々に託してきたんだ。だから大将は喜んでいたよ。東塔は子供が暮らす場所じゃ無いと前々から言っていたからな」


「それは良かったですね…」


(エルウィン様はミカエル様とウリエル様の事を本気で心配してたのね。私もメイドとして選ばれたからには精一杯お世話しなければ…)


アリアドネは心に誓った―。

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