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7-14 シュミットの憂鬱

 ゾーイがエルウィンのベッドに潜り込むという無礼を働いた罪で、ミカエルとウリエルの侍女の任を解かれたと言う話はその日の内に一瞬でアイゼンシュタット城を駆け巡った。

そしてゾーイは越冬期間が終わるまではメイドとしてこの城で働き…雪解けと共に城を出ていく事を命じられたのであった―。



****

 


 美しいドレスから黒いドレスに白いエプロンというメイド服に無理やり着替えさせられたゾーイ。

彼女は早速オズワルドに助けを求めに地下鍛錬所に押しかけてきた。


「オズワルド様!どうかお助け下さいっ!」



涙目になって、自分の元に押しかけてきたゾーイをオズワルドは呆れた様子で見降ろした。


「…」


「私…シュミット様から侍女の任を解かれてしまって…メイドにされてしまいました!お願いです!どうか…どうか、今一度私にチャンスを下さいっ!私は仮にも子爵家の娘です。メイドなんて…そんな仕事は出来ません!」


涙目になり、必死になってゾーイはオズワルドに訴えてくる。

このような目に遭いながらも、気位の高いゾーイはまだ諦められずにいたのだ。


そんなゾーイをオズワルドは忌々しげに睨みつける。


(全くこの娘は…。もともと侍女を解任されたのはミカエルとウリエルの世話をしてこなかった為に2人からの信用を得られなかったからだと言うことにまだ気付かないのだろうか?ミカエルとウリエルがゾーイを慕っていれば解任を反対しただろうからな)


「オズワルド様!黙っていないで何かお答え下さいっ!」


オズワルドはため息をつくとゾーイを見た。


「ゾーイ、お前はもう終わったのだ。おまけに…一体今、俺がここで何をしているのか、そんなこともお前には分からないのか?」


オズワルドの背後には彼が率いる騎士団の者達が剣の鍛錬をしている真っ最中だったのだ。そして騎士たちは鍛錬の手を止め、全員呆れ顔でゾーイとオズワルドのやり取りを見ている。


「分っております!分っておりますが…このような酷い処遇…到底受け入れられません!お願いです!どうか力を貸してくださいっ!もう一度私が侍女に戻れるようにどうかお力添えをお願い致します!」


ゾーイはしまいにオズワルドのマントの端を握りしめて懇願した。


「ええいっ!放せっ!いい加減に諦めろ!ここから今すぐ追い出されなかっただけありがたく思うのだ!」


「そ、そんな…」


ゾーイは今や人目も憚らず、涙を流している。そんなゾーイに侮蔑を含んだ視線でオズワルドは見下した。


「…とにかくこれ以上訓練の邪魔をするなっ!早くここから失せろっ!」


「…!」


ゾーイは顔を覆うと泣きながら地下鍛錬所から走り去って行った。

その姿をざわめきながら見ている兵士たち。


「よし!邪魔者はいなくなった!訓練の続きを始めるぞっ!」


『はいっ!!』


よく通るオズワルドの掛け声に兵士たちは一斉に声を揃えて返事をした―。



****


その頃、エルウィンの執務室では―。



「良くやったな、シュミット」


執務室に戻ってきたシュミットをエルウィンは笑顔で迎えた。


「…珍しいこともあるものですね。エルウィン様が笑顔で私を迎えるなんて…」


精神的に疲れ果てたシュミットがため息混じりに返事をした。


「そうか?気のせいだろう?」


しかし明らかにエルウィンが楽しげにしているのは見て取れた。


「そんなに嬉しいですか?ゾーイ様を侍女から解任したことが…」


「ああ、当然だ!くそっ…あの女…思い出しただけでも腹が立つ。俺のベッドに勝手に潜り込むとは…。女でなければ叩き斬ってやるところだった」


「それは確かに男性がベッドに潜り込んでいればそうなるでしょうね」


ポツリというシュミットの言葉にエルウィンは鳥肌を立てた。


「こ、この馬鹿っ!変なことを言うなっ!鳥肌が立っただろうっ?!」


エルウィンは万年筆を握りしめながら怒鳴りつけた。


「申し訳ございません。決して変な意味で申し上げたわけではありません。ですがミカエル様とウリエル様の侍女の件は再度考えたほうが良いと思います」


「ああ、その件ならお前に任せる。俺は執務で忙しいからな」


エルウィンはそう言うと、傍らに置いた剣の手入れを始めた。


(全く…エルウィン様にも困った方だ…)


こうしてシュミットはミカエルとウリエルの侍女候補の件で再び頭を悩ませることになるのだった―。

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