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 進藤は一目惚れです、と突然言ってきて、付き合ってくださいといきなり告白してきたあの日、俺はさすがに半信半疑だった。こんな俺に、こんなかわいい子が一目惚れするなんてありえないと思った。だから、俺はあの時、いたずらならやめてくれ、と言った。


 するといたずらじゃないです、本気ですと進藤は真剣な表情で言ってきた。あの表情を見て、本気なのではという風に気持ちが傾いた。だけど、それでも俺には信じ切れなかった。だから、俺は言った。言ってしまった。


『誰にでも言ってるのか、そういう風に。金はねえぞ、俺』


 ああ言った時の、進藤のひどく傷ついたような顔は今でも時折、頭がよぎる。俺はあの時、進藤を見ていなかった。向き合っていなかった。まさしく進藤を意識していなかった。目の前にいるのは、俺のことをからかってくる一人の女子だと思って対応してしまった。


 言い方はほかにもあった。いきなりじゃ信じ切れねえから、とりあえず、しばらく時間をくれとか、とりあえず、しばらく先輩後輩もしくは友人として互いのことを知ろうとか、一回考えさせてくれと言う一言だけでも良かった。


 俺は進藤の覚悟と想いを踏みにじってしまったのだ。あの時、進藤は勇気を出したはずだ。自分でもわかっていたはずだ、一目惚れなんて信じてもらえない。それでも伝えようと。


 だが、俺はそんな想いに気づかず、いや気づいていたのに、気づかないふりをした。


 だって、俺も進藤に一目惚れをしていたから。そして、同時に自分じゃ釣り合わないと。俺には勇気も覚悟もなかった。


 俺は最低なのだ。今でもずっと。


 俺は進藤をうっとうしく思っている。そういう風に思い込むようにしている。今更、彼女に向き合う気になれなかったからだ。そして、いつか彼女が俺のことを忘れてくれればいいと思っていた。自分では何かアクションを起こす気になれなかった。


 だら、結局すべてが中途半端になった。中途半端に優しくし、中途半端に離れようとしてきた。


 きっと、進藤は傷ついてきた。だけど、それでも俺を忘れようとすることはできず、また俺にも忘れてほしくなかったのだろう。


 だから、ずっと俺に付きまとってきた。そうすればいつか俺が向き合ってくれるのでは?と思ったから。


 だが、結局今日も俺はすべてが中途半端だった。いやいつもよりたちが悪かった。必要以上に優しくした。なのに、結局彼女の想いに答えようとしなかった。

 

 俺はまた進藤をひどく傷つけた。もうあまり傷つけたくないと思っていたのに。


 そんなことが俺の頭をループし続けていた。そして、いつの間にか、俺は自分のベッドに寝転がっていた。しかも、もう外が明るい。


 進藤と別れてからの記憶はほとんどない。家に帰ってきて、飯を食うと、自分の部屋にこもり、ベッドで寝ながら進藤のことを考えていたようだ。


 俺は起き上がると、自分のスマホを探す。そして、スマホを開くと、進藤への連絡先を探す。


「何してんだ、俺」


 そう言うと、俺はスマホをベッドに投げ捨てる。進藤に連絡して、何をしようと言うんだろう。


 俺の中で、進藤への思いは整理しきれていない。こんな状況で進藤と話そうと思っても、なんの意味もない。また彼女を傷つけるだけだ。また彼女を無理させるだけだ、本当になんの意味もない。


 その瞬間、スマホが鳴り始める。誰かが電話をかけてきたようだ。俺はスマホをとって、誰から電話が来たのかを確認する。それは進藤だった。


 俺は心臓をバクバクとさせながら、電話に出る。もはや反射的に、何を言えばいいのかも決まらないで。今電話に出ない方がいいとわかっていながら。


『先輩?』

「ああ、どうした?」


 自分の口の中が妙に乾いている気がする。進藤の声にはいつものような明るさはなかった。


『昨日のことは、全部忘れてください』


 進藤はそう言った。そして、電話は切られた。俺が何かを言おうとする間もなく。まあ時間があっても、何を言えばいいのかはわからなかった俺には、何も言えなかったと思うが。


 俺はその瞬間、妙に泣きたい気持ちになった。なぜだかわからない。だが、泣きたくなった。


 そして、同時に思うのであった。泣きたいのは進藤も一緒だと。いやきっと泣いていると。


「ああくそ」


 俺は吐き捨てると、進藤に電話を掛ける。進藤は数コールした後に電話に出てきた。その数コールのわずかな時間が俺には無限のように感じた。


「今日会えるか?」

『えっいきなりなんですか?』


 俺の問いに進藤はびっくりしたような声をする。俺はそれには構わず、もう一度尋ねる。


「今日いますぐ会えるか?」

『・・・えっと会えます』


 進藤はしばしの沈黙の後、そう返した。俺はわかった、と言うと、進藤の家の近くの公園に今すぐ来てくれ、と言う。そこはかつて、進藤が俺に告白した場所だった。


 進藤はわかりました、と言う。俺はじゃあな、とだけ言って、進藤が俺に尋ねようとする間もなく、電話を切ると、適当に上着を羽織ると、出かけてくる、と親に告げ家を出る。


 指定した公園に着くと、進藤はもうそこにいた。進藤はこっちを不思議そうな顔で見ていた。俺の息はかなり切れており、荒れていた。ここまでノンストップで10分ぐらい走ってきた。今までで一番真剣に走った気がする。


 進藤が大丈夫ですか?と心配そうに尋ねてくる。俺は一度息を整える。そして、進藤に向かって言う。


「好きだ、俺は進藤のことが好きだ」


 進藤は驚いた顔をする。まあいきなり、俺が好きだと言ってきたのだ、驚きもするだろう。俺は構わず続ける。


「ずっと前から、初めて会ったときから好きだ。一目惚れってやつだ」


 進藤は困惑している様子であった。


「だから、俺はお前が告白してくれて内心すげえうれしかった。だけど、俺はそれ以上に」


 ここから先を告げるのは俺には怖かった。でも、言わなければならない。そうしなければ、俺と進藤は前に進めないのだから。


「怖かったんだ。お前がいたずらで、思ってもいないことを言ってるんじゃないかって。だから、俺はお前にひどいことを言った。言ってしまった」


 進藤の顔が一瞬ゆがむ。あの時俺に言われたことを思い出したようだ。

 

「後悔してる。今でも。そして、俺はずっと、お前と向き合わないようにしてきた。お前から逃げてきた。だけど、もう俺はそれをやめにしたい」


 今から言うことは俺が言えることじゃない。大体言うべきことじゃない。だけど、それでも俺にはこんな言い方しか思いつかないのだ。


「許して欲しい、そしてもう一度チャンスが欲しい。今度こそ俺に向き合わせてほしいお前に」


 進藤はしばしの沈黙の後、口を開く。


「今さらです、今さらなんでそんなこと言うんですか。今の関係がちょうどいいんです。そのほうが、いいんです、私と先輩の両方にとって」


 進藤は思いを込めた様子で大声で言う。確かにきっとそのほうが互いにとって実はいいのかもしれない。でも、それは。


「いやだ、俺はこんな関係じゃいやなんだ。昨日の昼休みみたいに一緒に弁当を食いたい、昨日の帰りみたいに、お前を隣に一緒に話しながら帰りたいんだ。それにお前の笑顔がずっと見たいんだ、無理をしてない本当のお前と。もう辛い顔も泣きそうな顔もみたくないんだ」


 俺はそう言って、進藤に一気に近づくと、そのまま進藤を抱き寄せる。進藤はずるい、と一言言うと、俺の背中に手を回す。


「初めて先輩からきてくれましたね、先輩、言ってることわがままです、自分勝手です」


 俺は悪い、と一言いう。


「でも、嬉しいです。初めて先輩の本音が聞けた気がして」


 進藤はそう言った後、笑顔を見せる。そして、いつにもまして、かわいい綺麗な笑顔で言う。


「先輩、好きです、付き合ってください」

「ああ、俺も好きだ。付き合ってほしい」


 俺は即座にそう返答すると、二人して先ほどよりも力を強め抱き合うのだった。ようやく心が通い合ったことを感触で確かめるかのように・・・


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