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「あっせーんぱい、おはようございまーす」


 その大きな声が聞こえたなと思った瞬間に、俺は後ろから衝撃を感じる。その後、温かく少し柔らかな感触を背中に感じる。


「朝からうるせえ、あと抱き着くな」

「えーなんでー、かわいいかわいい女の子に抱き着かれてうれしくないんですか」


 不服そうな声が後ろから聞こえてくる。俺を離すそぶりはなく、むしろ力が強まっているように感じる。俺は、はあとため息を一度つく。


 俺の名前は長谷川新、とある私立高校に通う3年生だ。先日、所属していた部活を引退して、受験に専念し始めている受験生だ。


 そして、俺の背中に抱きついているのは、進藤柚葉、俺が前に所属していた部活の後輩で今1年生だ。かかわった期間はすくない、そう少ないのだ。進藤とは、部活に入部してきた際に始めて出会った。その瞬間、俺に一目惚れしましたとか言って、こんな風にどこでもいつでも付きまとってくるようになった。何回か告白もされた。いやまあテンション的にはがちのもののように感じはしなかったものが大半だったが。一応全部俺は振った、まあ無視したのもあるが。


 なぜなら、意図が不明であったからだ。自分で言うのは悲しいが、俺は決してイケメンと言える部類じゃない。自己評価も入り、若干甘めだとおもうが中の下くらいだろう。それに対して、柚葉は美少女と言える部類だ。進藤に恋してる連中はいっぱいいるだろう。時折、俺に脅しの手紙とか怨嗟のこもったのろいの手紙のようなのものとかが来るくらいなのだから。それだけでなく正面切って彼女から、離れろとか言ってくるやつもいる。だいたい、俺から近づいているわけではないのにな。理不尽すぎる。


 まあだからそんな彼女が俺に付きまとってくる理由は全くの不明だ。一目惚れとか言ってるがそんなの信じられない。何回か理由を聞いても、一目惚れって言ったじゃないですかーと言ってくる。俺が進藤を嫌がっているような態度と言動をしても恥ずかしがらなくてもいいですよ、とか言って俺から離れようとしない。俺の対応が微妙なのかもしれないが、だってきつく何か言おうとすると、というか言ったことはあるが、すっごい悲しい表情をされたのだ。それでつい日和ってしまい、中途半端な態度しかとれないのだ。


 それに、俺は前にひどく進藤を傷つけてしまったことがある。だから、俺はそこまで冷たくできなかった。あの時の傷ついた表情の進藤の顔が忘れないのだ。


 まあそんなこんなで俺にとっては、進藤は正直言えば面倒な相手というわけだ。


 まあ俺の今の状況はそういうわけだ。とりあえず、俺は体を動かし、彼女を振り払おうとしながら返答する。


「うれしくねえから離れろ」

「そんなこと言ってー、恥ずかしがらなくていんですよぉ」


 ああくそ、またいつもの調子だ。今周りには人はいないが、いずれ誰か来る。ここは通学路なのだから。まあ進藤が俺に抱きついている光景はもう何度か見られたことはあるが、さすがにこれ以上数を増やしたくない。 


「いいから離れろ、誰かにみられたら面倒だろうが」

「いいじゃないですかー、見せつけましょうよ、先輩と私がラブラブなと・こ・ろ」


 わざわざ最後のほうは俺の耳元で囁くように言ってきやがった。正直こいつのこういう技術には恐れ入る。自分の武器を理解しているというか、どうすれば自分の魅力をアピールできるか知ってやがる。くそが、毎回やられているのに心臓がいつもより少し早くなっているのを感じるし、自分の体温も少し上がっているかのように感じる。


「せーんぱい、私のこと好きすぎませんかぁ。耳元でささやかれただけでー、ドキドキしてるんですからー」

「してない」


 俺は即答する。進藤に見破られているのはわかってはいた。だが即答する。そうしなければこいつを喜ばせることになる。まあ無駄だと思うが。


「先輩って素直じゃないですよねぇ。まあそういうとこも好きですよ。だーかーら、付き合いましょ、先輩」

「付き合わない。言っただろ俺は年上好きだって。年下には興味ねえ」


 俺は即座にそう返答する。言ったことはまあほぼ事実だ。そう俺は年上好きなのだ。まあ進藤に惚れないようによりそう思うようにしているというところは少しあると思うが。進藤に惚れるなんて事態になったらもう最悪中の最悪だから。


「年下でもいいでしょー、そもそもー年齢なんてどうでもよくないですかー。相手が好きなら関係ないでしょ」

「俺はお前を好きじゃねえって言ってるだろうが」


 そう俺は返答するとさっきよりも力を入れて、なんとか進藤を引き剝がす。俺はふーと息を吐くと、進藤のほうを見る。すると、進藤は下を向いていた。そして、小さな声で弱弱し気な声で言う。


「先輩、私のこと嫌いなんですね」


 そういった直後、進藤からまるで泣いているかのような雰囲気が出てくる。それのか細く泣いているかのような嗚咽が聞こえてくる。


 ああもういつもの手だ。絶対嘘泣きだ。そう噓泣きなのだ。もう何回もやられている。それなのはわかっている。でも、俺は。


「嫌いではねえよ」 


 そうぼそりといった。その瞬間、ぱっと進藤は顔をあげる。物凄いうれしそうな表情だった。しまった、と思った瞬間にはもう遅い。進藤は俺に抱き着いていた。


「えへへ、つまり好きってことですよね。私も好きですよーせーんぱい」


 俺は頭を抱える。状況がもとに戻った。というかより最悪な状況になった。そして、俺が進藤を引きはがそうとした瞬間、俺は視界の先に人をとらえる。


 そいつは俺の友達、友達?いや友達か。そいつは高校入ってからクラスがずっと一緒な中崎俊ってやつだった。俊は俺が進藤に困っていると相談したこともある。まああいつはいいじゃん、あんな可愛い子に迫られるとか最高じゃんとか言った。そして、俺は進藤を応援するぜとか言って、俺が進藤に迫られていることをクラス中に言いふらした。そのせいで、学校中に広まったのだ。あとちょくちょく俺が知らないところで、進藤に俺に関する情報を流しているようだ。


 そう一番見られたくないやつに見られたのだ。あいつは親指を立てウインクをすると、何か勘違いした様子でそのままどこかへと行く。俺が待て、とかいおうとした直後にはもうその場から消えていた。


「最悪だ」


 俺がぼそりとつぶやく。すると進藤はどうしました?と上目遣いで問うてくる。正直可愛いと思った。そんな思考が出てくる時点でかなり疲れているのだろう。朝からなぜ俺はこんな疲れなきゃいけないのだろう。


 そして、もう進藤を引き剝がすのが面倒になった俺はそのまま学校へ行くことにした。進藤はちょいちょい話しかけてきたが、適当に相槌をうった。それでも進藤はすごいうれしそうだった。玄関でようやく離れた進藤は、では先輩、また、と言うと自分のクラスへと消えていった。


 俺はそこに着くまでに多くの人に俺が進藤に抱き着かれながら学校に来るまでの様子を見られた。ちょくちょく殺意のようなものが向けられた気がした。気のせいだと思いたいが、おそらく気のせいではないであろう。


 俺は自分の教室に着くと、自分の席に座る。そして、そのまま突っ伏す。もう今すぐ寝れそうであった。その時、俊の声が聞えてくる。


「朝からラブラブだねえ、新」


 俺はその声を聞いて、顔を上げる。俊は明らかににやにやしていた。俺は変な勘違いをしていることはわかるが、突っ込む気力が失せていた。とりあえず、違う、とだけ一言言う。自分でもわかるくらい覇気がない。


「しっかし、新があんなにも堂々とするなんてね」

「堂々?」

「そうだろう、だってあんな人目があるところでね」


 俺は、そこで、ああなるほど、今日抱き着かれたまま一緒に来ていたことだろうと判断する。いつもは俺がいやそうにしているのはわかっているだろうし、俺はなんとか引きはがしてくるから、そこが確かにいつもと違うところだろう。


「仕方ないだろ、もうああするしかなかったんだ」


 俺がそう言った瞬間、俊はわーおとか言う。一体どうしたんだ?と思うと、耳を疑うような言葉が出てきた。


「ついに新も進藤ちゃんの想いに応えるんだな、だって朝から抱き合ってたもんな」


 抱き合ってた?どういうことだ?と俺が考え込んでしまった瞬間、周りがざわめきだした。おそらく俺と俊の話を聞いていたらしい。俺はまずい、と思いながら疑惑を晴らそうと思う。


「待て、抱き合ってなんかないぞ」

「恥ずかしがるなよ、進藤ちゃんが真っ正面から抱き着いてきて、そんな彼女をお前が抱きよせてただろうが」


 俺は俊が盛大な勘違いをしていることを理解した。進藤が抱き着いてきて、俺が引きはがそうとしたときに、あいつは現れた。それがどうやら抱き合っているように見えたらしい。


「違う。あれは引きはがそうとしただけだ」


 俺がそう大声で立ちあがりながら、否定をすると、俊は俺の肩に手を置き、俺はwかあってるぜ、とでも言いたげな表情しながら言う。


「照れんなよ」


 俺は違-うと大声で叫ぶ。そして、しばらく誤解を解こうと努力するが、それは、無駄になった。俊は誤解を解かず、むしろ俺が見られたことを恥ずかしがって、隠そうとしているみたいになった。クラスメイト全員もそう思ったようだった。

 俺はそのような誤解を周りにされたまま、授業を受けることになった。妙に温かい視線と明らかに冷たい視線を俺が周りから受けながら、昼休みまで過ごすことになった。

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