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Magical Reve ~Dreams and Newlife~  作者: 柏木 桜
第一章「変態紳士 アルバート伯爵」
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十二話 救出

「…うぅ…ここは…?」


私は、鼻を突き刺す様な胃酸のきつい臭いで目を覚ました。

おそらくここは化け物の体内のどこか。

体に付着した液体のせいだろうか、少しピリピリと痛痒く、親指と人差し指をくにくにと触ってみるとぬるぬるする。

皮膚が溶け始めてるのだろうか。


「まずいな…。でもどうしよう…弓はあの時手放したままだし…」


私は武器の代わりになればと思い、ネックレスに矢を出すよう念じるが、出てこない。

仕方なく鋭い何かと念じてみると、ナイフぐらいの長さのガラスの破片がポチャンと足元を浸す体液の上に落ちた。


「これでどうにかするしかないのか…」


手を切らないようにそーっとガラスを拾う。

厚いガラスだから意外と耐えそうではあるが、ガラスはガラス。耐久性に不安を感じる。


「うぅ…」


「っ…!?」


ポケットに入れていたハンカチをガラスに巻き、簡易的な持ち手を作っていると、正面から誰かの唸り声のようなものが微かに聞こえた。


「誰かいるの!?」


私はザバザバと歩き進める。

すると、化け物に取り込まれているかのように肉塊に胸元まで体を出している少女「メアリ」がいた。


「メアリちゃん!今助けるから!」


私は急いで彼女の元へ駆け寄り、そう告げたが突然ガラスの破片で肉塊を切れるのか…救えなかったらどうすれば…といった不安と恐怖が襲い始める。

だが、今はそんな事を考えている暇はない。

私は覚悟を決め、ガラスの破片をナイフの様に持ち肉塊に刺した。


「いっ…つ!」


ドスっと刺した時の感覚はとても気持ち悪く、肉塊は思ったより固い。ガラスの破片を動かすには力がいるようだ。

ゾリゾリとゆっくり切れていく肉塊。

力強く握られた右手のひらにガラスの破片が食い込んでくる。

右手からは血がポタポタと滴り始め、弱酸が傷口に染みて痛い。


なんとか片側を切り終え、両手でメアリを覆っている肉塊をブチブチと音を立てながら力一杯剥ぎ取っていく。

剥ぎ取り終えると、メアリはガクンと力無く私の体に身を任せた。


「大丈夫っ…!なんとかして外に…」


「助けないで…」


私はどうにかしてメアリと共に外に出ようと試みるも、メアリは何故か否定的な事を言ってきた。


「どうして…?」


「背中を見れば分かるよ…」


疑問に思った私は、メアリに質問をすると背中を見るよう言われたので、彼女を肉塊から離すようにして彼女の背中を見た。


「なに…これ……」


私は彼女の背中を見て驚愕し、言葉を失った。

彼女の背中から何本か生えたチューブのようなもの。

それは化け物の肉塊に繋がり、彼女は何かの役目を果たしているようだった。


「だから言ったでしょ…。私は…この化け物の心臓の役割を果たしてるの…。切り離せば化け物は死ぬけど…私も一緒に死ぬ…。だから、私を…ころ…して…」


メアリは絞り出すような声で言った。

彼女を助ける為にはチューブを切らなければならないが、彼女は助からない。


だが、ロゼッタならきっと助けてくれる…と言う希望を持ち私は彼女の背中のチューブを引き抜くようにしてメアリを引っ張るが、体液で滑り中々上手くいかない。

仕方なく、ガラスの破片を使いゾリゾリとチューブを切り離していく。


「ああああ……っ!いたい……!いた…い…!」


メアリはあまりの痛みに、私に爪を立てながら抱きつくようにして必死に耐えているが、一本切れると爪を立てていたのが徐々に弱まり、切り進めていくと生命力が無くなっていくかのように抱きつく力が弱まっていくのを感じた。


そして、一番太いチューブにガラスの破片を切り込んでいくと抱きついていた両腕はダランと力無く垂れ下がり、私に体重を預けている形になった。


ブツンとチューブがメアリの体から切り離されると、肉塊と化け物の体は固形物が含まれている泥水のようにビタビタと音を立てながら崩れ落ち、私達は外へ出る事ができた。


顔に付いた化け物の粘液を手のひらで拭い取り、なぜか剣を持っているロゼッタと目を合わせるとロゼッタは嬉しそうに笑っていた。


「なぜだ…」


私達のことを見た伯爵は数分前の余裕しかない表情とは違い、窮地に立たされた時のような表情をし、ロゼッタから少しづつ距離を取る。


「なぜだ…「グレッタ」から授けられたものを使ったのに…失敗だと…?」


伯爵はタキシードのポケット全てに手を入れ必死に何かを探すが、目的の物がもう無いと分かると酷く絶望し、そう言った。

「グレッタ」という誰だか分からない人名が出てきた。ロゼッタはそれを聞いて何か心当たりがあるのか、ピクッと反応する。


「あなた…グレッタの事を知ってるの?」


「ああ、知っているとも…あの方は…」


カタカタと肩を震わせながら説明を始める伯爵だったが、私達の事を見るなり「何か」が視界に入ったのか話すのをやめた。


「ああああああ!グレッタ!グレッタ!あなたの言われた通りにやりました!なのに!なのに!どれもこれも失敗しました!あはははははは!ああああああああああ!どうして!どうして!」


「ちょっと…あなた大丈夫?」


突然狂ったかのように伯爵は存在しない「何か」に大声で叫び始め、ロゼッタの心配する声を無視する。

無視と言うより全く聞こえてないし私達の存在すら今の彼には無いに等しいのだろう。


何に話してるのか気になった私は伯爵の見る方を見てみるが、そこには誰も居なかった。


「ああははははははははははははは!!…んふー!ん゛っ!」


明らかに様子のおかしい伯爵は、持っていた杖のような剣を自身の喉元へ当てるとなんの躊躇いもなく突き刺した。

喉から流れてくる大量の血。だが伯爵は痛みを感じないのか、それか我慢しているのか、錯乱でそうなっているかは分からないが刃先を奥へ奥へと表情を変えずに笑いながら入れていく。


ゴリ…ゴリュ…ベキ…ゴギュ…


徐々に笑い声がこもり気味になってくると同時に刃先が骨まで達しているような鈍い音が響き渡る。

無理矢理剣で切り落とそうとしてるようだ。


「あははは…」


カランカランカラン…ゴト…


剣と切り落とした頭が力無く血溜まりに落ち、伯爵の亡き骸も共に倒れた。


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