安全地帯
尖ったもの―とくに包丁など身近にある尖ったものを見ると、よからぬ妄想をしてしまう癖が時々現れるので、その折、そういうものがないところに暮らしたいと思われる。
机の角や刃物の鋭さ、あるいは単に硬いものなど、それらとは縁遠いところに住んでいたなら、幾分思想が穏やかになるだろう。
理想を言うならば、地面がコットンのようにふわふわで、高低差がなく平坦なところに、壁がマシュマロでできたお菓子の家なんかをたてたい。
地震が起きた時を考えると、屋根も要らない。
虫がいないのも必要条件だ。
こういう卑しい妄想をしていると、おのずから危険な思考も立ち去ってくれるのだが、少しして忘れた頃にまた奴は幅を利かせてくれるので、わたしはまた安全地帯主義を着々と完成させていくのである。