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出会いがしらの衝撃 (前篇)  3


「__改造人間?」

真実の目の前で、若者が無言で頷いた。

「って、サイボーグの事?」

「いや__」

若者がかぶりを振った。

「サイボーグと言うのは__サイバネティックス・オーガニズム、つまり脳に直結された人工有機組織の事を指した言葉なんだ」

「……ふうん……」

真実が若者の言葉に生返事を返した。

「サイボーグと言う場合、生存に必要な器官を人工臓器にリンクして生命活動を維持する。確かにその技術がベースにはなってはいるけれど__」

若者の説明に対し、合の手を入れるように頷く真実だが、その表情は呆けたように曖昧であった。

「あの怪人は更にそれ以上の機能強化を施されている。つまり、サイボーグより更に強力な改造を受けているんだ」

正直言って真実には彼の説明の内容が全く理解できなかった。

「そこで、ああ言った存在はベーシックなサイボーグとは区別して、ズバリそのままフォーティファイド・ヒューマンと呼ばれているんだ」

「フォーティファイ……?」

「フォーティファイド・ヒューマン。日本語に直訳すれば改造人間だよ」

「……そのまんまなのね……」

余り気の利いたツッコミとも言えなかった。要するに話の内容が理解できずに、取り合えず答えられることだけ答えたという訳だろう。

「……そこでだ……」

いよいよこれからが話の本番と言うように、若者が改めて真実の方を伺った。

「一体何処の誰があんな改造人間を創り出したのか__」

今までの説明だけでも常識で言えば荒唐無稽な話だった。しかし、その現物を見せ付けられた真実としてはこの話を受け容れない訳には行かない。黙って次なる説明を待ち受けるだけである。

「この宇宙には無数の天体が存在する。銀河系だけでも太陽に似た恒星が数億もあるし、それぞれが惑星を抱えている」

真実が黙って頷いた。

「その幾つかには当然生命体も存在するだろう__僕等の住む地球がそうであるように」

真実は大きく目を見開いた。

「それじゃ……」

真実が恐る恐ると趣で言葉を発した。

「さっきの改造人間……あれって、宇宙人が作ったの?地球侵略の為に?」

「いや__」

妙に悪戯っぽく若者が顔を横に振った。

「あの怪人を作ったのは地球人さ、僕等と同じ」

肩透かしを食らったような言葉に、真実は一気に力が抜けた。

「それじゃ__」

真実は眉根を釣り上げて肩を怒らせた。

「さっきの前振りは一体何なのよ?!」

「あわてるなよ」

いやに勿体つけた感じで、若者が真実に言い聞かせた。どうやら真実の反応を予め予測してそのように話を持って行っているようである。

「話を急がないで。あの改造人間を作ったのは確かに地球人さ。でも……」

若者が、覗き込むように真実の目を見詰めた。

「考えてごらん。地球人の科学力で、あんな怪物を作る事が出来ると思うかい?」

「そう言えば……」

真実が、不思議に納得したような気分で頷いた。

「でも……」

真実が抗議するような気分で言い返す。正直、何が何やら判らなくなっているのである。

「もお、ちゃんと判るように説明してよ!」

明らかに若者は真実をからかっている。癇癪を起して真実は大声を出した。

「判った判った、そう怒らないで」

大分打ち解けてきたのか、妙に安心した様子で若者が手を振って真実を制止した。

「そう、この宇宙には僕等の地球以外の星にも知的生命体が存在する。それも、地球なんかとは比べ物にならないほど高度な文明を持ったエイリアンがね」

ズバリと言い切る若者の言葉に、今再び真実は絶句した。

「そして彼らは地球にもやって来た」

「やっぱり……」

「その目的は判らない。どうやら地球の生物の調査及び遺伝子サンプルの採集、それから色々実験も繰り返していたようだ」

良く聞く話では有る。しかし、何れもいい加減で信用の置けない只の与太話でもある。だが、今は違う。先刻目の前で起こった、信じ難い光景がそれまでの真実の世界観を一変させていた。

「一体何が目的なのか……只の調査か、それとも何かの兵器に使う為、様々な星の生物から遺伝子サンプルを採集していたのかも知れない。所謂生物兵器として。それとも……」

若者が言葉を継いだ。

「或いはグルメが異星の食材を求めて宇宙を調査して持ち帰るのが目的なのかも」

「ちょっと__」

「いや」

なんと答えてよいか判らないような言葉に真実が口を挟んだが、若者は顔を引き締めて言った。

「言いたい事は判るよ。だけど、考えられない事じゃない」

「地球を侵略しに来たんじゃないの?」

「侵略してどうするのさ」

若者が小さく笑った。

「相手は僕等より遥かに進んだ文明を持っているんだ。もし居住地が必要ならばわざわざ地球を侵略しなくても、銀河系にはそれこそ星の数ほどの天体が存在するんだ。その中から幾らでも住む場所は捜せる」

「それじゃ、宇宙人は地球にグルメツアーに来たって言うの?」

「あわてるなよ」

若者が笑いながら言った。

「別にそうと断定は出来ないよ。でも、決して有り得ない話じゃない。現にキャトル・ミューティレーションと言って家畜が解体された事件もある。可能性は高いかも知れない」

真実にはなんとも言い難い話だった。

「その事自体は大した問題じゃない。彼等の目的がなんなのかと言う事はね。問題なのは、彼らが現地のスタッフを採用した事だ」

「__?」

真実には彼の言う意味がわからない。

「エイリアンたちは__地球での調査及び実験を行うに当たって、現地の先住民、つまり地球人に協力を要請した」

「ええ?!」

「地球人の中から、何人かの科学者が選ばれて、彼等の研究に協力したらしいんだよ」

「__うそ……」

真実が、思わず呟いた。

「嘘じゃない。君だって観ただろう、あの怪人を。あれは宇宙から齎された超科学(オーバーテクノロジー)の産物さ」

若者が、言い聞かせるように真実の目を見詰めた。

「そうやって、数多くのサンプルを採集し、実験を繰り返し、そして__どうやら彼らは目的を達成したらしい」

「え?」

若者の意外な言葉に真実は目を丸くした。

「彼らは__エイリアン達は、地球から去って行った」

「どう言う事?」

真実には話の繋がりが掴めない。

「どう言うもこう言うも、そう言う事さ。宇宙人達は実験を終了し、地球から立ち去ったのさ」

「それじゃ……」

あの怪物は__その答えも、若者は既に用意していたらしい。まるで最初から台詞を決めていたように澱み無く話を続けた。

「言っただろう、彼らは__地球圏外生命体は、現地人を研究員として雇ったって。エイリアン自身は地球を離れても、その研究員たちまで連れて行った訳じゃない」

地球に残してくれたから良いものの、何やら怖い話ではある。真実は思わず身震いした。しかし、或いは彼等の中には連れて行って欲しいと願うものも居たかも知れないが、どうやらその希望は叶わなかったらしい。

「そして、当然この地球に残されたのは……人類が触れてはならないタブー__まさしくアダムとイブが楽園を終われるきっかけとなった禁断の果実__」

どうも、今この場で創作したフレーズではなく、前々から既に何度も口にしたか耳にした台詞なのだろう、妙にスムーズで、且つ持って回ったように芝居の掛かった台詞だった。

「人類のレベルを遥かに超えた超科学が残されたのさ、この地球に」

真実はボーっとした表情で聞いている。相手はこのくだりを話のクライマックスに持ってきたかったらしいが、今までの話だけでも充分に衝撃的で、正直真実にはそれ程重大な結論とは感じられなかった。

「……で、でも……」

若者の期待に添えなかった代償に、等とはっきり意識した訳ではないが、妙に浮き足立った気分で真実は言い返した。しかし、真実の気遣いとは裏腹に相手はそれ程気にしていないようである。或いは、自分の話に夢中でそう言うギャップを読めないらしかった。真実としては、やや間の悪い空気を変えたかったのかも知れない。

「それって、素晴らしい事なんじゃない?」

「なんで?」

「だって、宇宙人の凄い科学力が手に入ったんでしょ?それさえあれば世界中の人達の為に役立てる事が出来るんじゃない?」

「役立てる、か……」

何やら含む所が有りそうな表情で、若者が真実を見詰めた。

「具体的には?どう言う風に?」

「どう言う風にって……」

真実には答えようが無い。

「成る程。確かに君の言うとおりだ。彼等……エイリアンの元で研究を続けていた連中も、そう言っていたらしい。少なくとも、言葉の上では同じ事を口にしたようだね」

「そ、そうでしょ?」

「所が……」

顎を引き、思わせ振りな態度と共に、また一頻り話が盛り上がりそうな気配を若者が漂わせた。

「さっきの質問だ。地球の為、人類の未来に貢献すると言ってもその方法は色々有る。具体的には一体どうする事だと思う?」

又同じ質問の繰り返しである。答えを考えていなかった真実は再び口篭った。しかし、別に彼女に答えを求めている訳ではないらしく、若者は構わず言葉を継いだ。

「人類の為、地球の為……どうすればその技術を世界の役に立てられるのか。彼らが導き出した結論は、その超科学を駆使して自分たちの手で混乱止まない人間社会を善導する、と言う事だったらしい」

「え?」

真実には、彼の言わんとする所が咄嗟に理解できなかった。

「他の人間達には手の届かない超科学技術を手に入れた一部の科学者グループ……彼等は自分たちこそが神、つまり人間以上の存在に選ばれたエリートだと主張し、愚かなる大衆を導く使命を果たそうと立ち上がったのさ」

真実は絶句した。まだ若者の言いたい事をはっきり言葉にして理解した訳ではないが、ここまで来るともう話の大まかな行く先が分かってきつつあった。

「それって、それって……あれ、やっぱり?」

若者が黙って頷いた。

「彼等は人類救済と言っている。しかし、その実態は__」

真実がゴクリと息を呑んだ。

「世界征服__こう言う以外に無いだろうね、結局」

今再び、気が遠くなるような思いの真実であった。

世界征服。

その言葉は、滑稽ともバカバカしいとも、異様とも禍々しいとも言いようの無い独特の響きに満ちている。

「そんな……世界征服、だなんて……」

どちらかと言えば、この言葉自体の持つ不条理なニュアンスに真実は動揺を抑えきれないようであった。

「……世界征服……」

若者が、独り言のように呟いた。

「……と言ってもね、テレビや漫画に有るような世界征服じゃない。と言うより、世界は既に支配されているとも言える」

「?」

真実には彼の言わんとする事の意味が判らない。

「世界を支配している……まあ、俗に言う勝ち組だね。彼等は或る意味ではもう世界の支配者になりおおせている」

「……」

真実の逡巡をよそに、若者は言葉を継いだ。

「エイリアンに協力していた科学者たち、彼等は最初その技術を自由に使う事なんて出来なかったらしいんだ。何せエイリアンにしてみれば地球の科学者なんて協力者というより只の道具に過ぎなかったみたいだからね。エイリアンたちの監視の元、彼等は極めて制限された活動だけを許されていた。勿論、自分たちが宇宙人と接触を持っている事なんて絶対に口外できない。もし外部に洩らせば消される恐れも有ったそうだ」

消される……その言葉に、真実は今再び身震いを禁じえない。

「しかし、そのエイリアンが去って行った。そして彼等の命令に従って研究を続けている間に身に付けた、地球人では想像もつかない超科学を自由に使えるようになったんだ。とは言っても、そう言った科学者たちも余り深刻に世界征服なんて考えていた訳じゃ無さそうだよ。寧ろ、差し迫った問題は研究資金を捻出する事だったみたいだ」

若者は話を続けた。

「そんな彼らに声をかけた連中が居たんだ。そう、豊富な資本を背景に社会を動かし、為政者を操り、世界を陰から支配しているグループが……」

真実の顔色が変わり始めた。

「尤も、こう言う陰の支配者たちはいつの時代にも存在したらしい。有史以来、人間社会は表の権力者、それからこう言った裏の権力者たちによって成り立っている」

陰の支配者__普段は考えた事も無い、精々SF的な好奇心程度の話でしかない。世界を影から支配する権力者グループと言い、改造人間と言い、宇宙人と言い、日常とかけ離れた話ばかりではないか。

「しかし、どんな強大な権力を振るった支配者も絶対に逃れられない敵が有る」

「敵?」

真実が聞き返した。

「そう、敵だ。その敵は__時間__生きとし生ける者全ての元にやって来る、避け難い運命__」

またまた真実にはすぐに判り難い話だった。

「それは“死” ……寿命だよ」

「寿命……」

真実は鸚鵡返しに若者の言葉を繰り返した。

「秦の始皇帝を始め、歴史上の支配者、権力者たちがこの世の栄華を極めた挙句に最後に求めた物……それが不老不死と言う奴さ」

「不老不死……」

次から次へと浮世離れした、凡そ突拍子も無いフレーズが続出し、全く着いていけない気分の真実であった。

「彼等はその諜報網を使って、エイリアンの手先になって研究を続けていた科学者の存在を知った。そして、研究資金の援助と引き換えに命じたんだよ」

「……不老不死の……研究?」

若者が頷いた。

「何も不老不死なんて極端な事は無理でも不老長寿、二百年位健康なままで生きられれば彼等は金に糸目はつけないだろう。権力者にとって一番怖い敵は外に居るんじゃない、自分たちの身に降りかかってくる老いだよ」

若者は話を続けた。最初は真実の方から説明しろと強硬に迫って始まったのだが、いつの間にか相手の方が夢中になってしまっているようにも見える。或いは、表向き抑えていたものの本音は誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。

「それで……」

真実は問い返した。

「あなたはどうしてあいつ等に追われていたの?」

若者が、ふっと顔を伏せた。

その仕草に、聞いてはいけないことを聞いたのかと真実は一瞬後悔した。そんな真実の気分を察したらしいが、若者が意味ありげな微笑を漏らした。

「僕が追われている理由__」

何かを、言いたくなければと言いかけたかも知れない真実を制止するように若者が一呼吸早く言葉を漏らした。

「__僕は__脱走者なんだ」

真実は身を起こすように身を強張らせた。

「僕も彼等の仲間……」

「__!」

更に、脅迫的なまでの笑顔が真実を見返した。

「僕も……あの怪人と同じ……」

その衝撃的な言葉に、真実は一瞬耳を塞ぎかけた。

「……そう、改造人間なのさ、この僕も……」



次回予告。

        ◆

「__ふふふふふふふふ……」

若者が頭から手を下ろし、そのの口から力無い笑いが漏れてきた。

「ふふふふふ……あははは__それは、自分の力じゃないさ。全ては借り物だよ」

その言葉の意味する所は真実にも判る。

再び沈黙した真実に代わって、若者が語り始めた。

        ◆



ひょんな事から不思議な若者と奇妙な怪人に出会った山本真実。

世界征服を企む謎の秘密結社、かつて地球に滞在していたエイリアンの存在、そして自分もまた改造人間だと告白した若者の秘められた過去に真実は衝撃を覚えた。しかし、それは更なる衝撃への序曲に過ぎなかった。

次回、『改人ハンターグラップル』__


出会いがしらの衝撃(後編)


に御期待下さい!



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