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7/7

相棒

読んでくださっている方、ブックマークや評価をしてくれた方ありがとうございます!

 教室に行けば混乱した奴らがいる。そんな所で冷静に何かを考えることができるとは思えない。それならどこで考えるか。俺の中ではもう決まっている。


「やっぱりここだよな」


 二階の廊下の一番端、俺のお気に入りの場所である資料室だ。ここなら殆どの人が存在すら忘れているし、物も色々と置いてあるからな。まぁ俺も勝手に家から持ってきて置いてたりするし。


「ん⁈ 嘘だろおい。ンッ、くっそ」


 なんで開いてないんだよ! 鍵なら朝開けたはずだぞ。鍵は俺のバッグに入ったまま教室にあるし、鍵が閉まることなんて……


「おい。誰かいるのか? いるなら返事しろ。近くにゴブリンはいないから安心してくれ」


 ん? 今物音がしたぞ。


「誰でもいいから中に入らせてく——」


「リッキー? その声リッキーだよね?」


「優雅か⁈ そうだ、ここ開けてくれ」


「わかった!」


 優雅の返事を聞いてから中で物音が激しくなった。絶対にゴブリン達が入ってこれないように必死だったんだろうな。

 資料室の扉が開いたのは五分経ってからだった。そして部屋に入るなり、優雅が俺にすごい勢いで抱きついてきた。


「よかった…… ううっ…… くっ、みんな殺されたから力也が無事でよかった……」


「そんなに泣くなよ」


「泣くよッ! 目の前で友達が殺されて僕も殺されそうになった。これから僕もリッキーも殺されるかもしれないんだよ! あんな大量の化け物に! どうしろっていうんだよ」



「落ち着け。優雅はもう一人じゃない。俺がいるだろ?」


「一人が二人になったところで何か変わるの? 人数が増えたら助かるの? それだけで死なずにすむの?」


 きっとこれが普通なんだろうな。あんな異常な平和から間近に死を感じる世界に一変すれば恐怖で押し潰される。それでなくても今までに自分の死を感じる場面に遭遇することなんてほとんどない。だからこそ死にたくない、その思いに支配されて自分が助かることしか考えられなくなる。

 

「現状は変わらないだろうな」


「じゃあ意味ないじゃんか」


「何かが変わるのを待つなよ。優雅、お前が変われ。誰かに助けてもらおうなんて考えるな。自分で生き抜こうとしろ」


「何言ってんだよッ! あんなのと戦えっていうのかよッ!」


「そうだよ」


「無理に決まってるだろッ!」


「俺は殺したぞ? それでも無理だって言うか?」


 深緑色の液体が付着している剣を見せる。もしサティーに何も教わらなければ俺は優雅や他の人と同じように最初から諦めてただろう。だがそれはもしもの話で、実際俺は全てを知っている。だから生きるために行動できる。

 俺は幼い頃からずっと一緒だった優雅には生きてほしい。


「は……? リッキーあの化け物と戦ったの? そんなもの何で持ってるの?」


「戦って殺した。生きるためにな。これは拾ったんだよ」


「リッキーはその凶器を持ってるから戦えるんだよ。僕にはない。それなら警察とか自衛隊とかが助けにき……あ」


「分かったか? 助けなんて来ない。自分でやるしかないんだよ」


 異世界化した瞬間に世界中の人が二ヶ月前の、おかしくなる前の自分に戻った。その証拠に俺はサティーの広告のことを忘れていたこと、自分が二ヶ月間おかしくなっていたことに気づいた。他の人達はおそらくゴブリン達に襲われ死に直面し、この二ヶ月間で世界が大きく変わったことなど気にもしなかったはずだ。しかし助けを求める今、その異常な変化に気づき絶望しているだろう。目の前の優雅のように。


 犯罪を取り締まる法はなく、司法や国の安全を守る職は廃業となっている。警察や自衛隊はもう存在していないし、犯罪や争いが全くなかったために武器も使うことがないのでそれぞれの国は廃棄した。今やこの異世界化した地球に安全などない。安全がほしいのなら俺が手に持っている剣のように世界中に配布されたものを使うかもしくは料理包丁や鈍器を武器として自分で確保するしかない。


「何でだ…… 何で警察とか自衛隊がいないんだよ…… 何で誰もおかしいって思わなかったんだ」


「今更過去のことを言ってもしょうがないだろ? 誰かがやってくれる、助けてくれるなんてことはもうないんだ。自分でどうにかするしかないんだよ」


「無理だ…… 僕は戦えない」


「妹の由希が死んでもいいんだな?」


「え……?」


「母さんや父さんが死んでもいいんだな? お前がそうしている間に家族はゴブリン達に殺されるかもしれないんだぞ? もしかした——」


「ふざけるなぁぁぁぁぁ‼︎」


 俺の顔面に向かって優雅の強く握り締めた拳が飛んでくる。普通なら避ける前に当たるだろうが今の俺には当たらない。この世界に適応すればステータスが全てだ。それが反映されていない優雅の攻撃なんて簡単に避けれる。飛んできた拳を避けて、俺の拳を優雅の頬に打つ。加減したがそれでも少し身体が飛んでいった。


「ふざけてんのはお前だろ、優雅。お前は運良く生き残ったけどお前の家族は同じように生き残ってるとは限らないぞ? 死んでるかもしれない。それが現実だ」


「……ううっ……」


「泣いても何も変わらないぞ。生きててほしいと願うなら少しでもその可能性が上がるようにお前が助けに行け。誰かじゃなくお前が助けに行くんだよ」


「化け物に囲まれてるのにどうやって助けに行けっていうんだよ…… それに武器もないし」


「ならこれ使えよ」


 俺は自分の剣を差し出す。


「それじゃあリッキーはどうするんだよ。戦えないじゃんか」


「戦えるよ。俺はこの剣じゃなくても戦える。例えば……」


 部屋の中を見渡して武器になる物を探す。


 何かいい感じのものないかな。んー、あ。確かあそこにあれがあったはず …………見つけた。


「これとかな」


 俺が手に持つのは三十センチの竹尺。俺と優雅はこの資料室に、授業で使う物で忘れそうな物を置いていた。その中に数学で使った竹尺があったのだ。


「そんなのであの化け物は倒せないでしょ」


「勝手に決めつけるなよ。俺は戦った上でこれでも殺せるって言ってんだ」


「ごめん……」


「で? どうするんだ? 俺と一緒に戦うか?」


「……本当に倒せるの?」


「もちろん」


「分かった。俺も戦うよ」


 優雅の目にはまだ迷いがあるようにみえた。だとしても大きな一歩を踏み出した。優雅を死なせないように頑張るしかない。とはいえ俺もまだ駆け出しなんだが。


「オッケー。にしても普段は強気の優雅がいつになく弱気だな」


「こればっかりは強気とかそういう話じゃないでしょ! こんな状況で立ち向かおうなんて馬鹿はリッキーだけだよ。漫画の中の話じゃないんだし」


「いや、どう見ても漫画の中の世界だろ。窓から外見てみろよ。ゴブリンとかオークとかいるだろ?」


「本当だ…… ちゃんと見たらあれゴブリンだ。全然気付かなかった」


「モンスターを一体倒したらさらにびっくりするぞ」


「な、何が起こるの?」


「それはお楽しみ。じゃあこの学校から脱出するために話し合うか」


「勿体ぶらないで教えてよ!」


 夜が来たら動きづらくなる上に、ゴブリン達が有利になってしまう。それに優雅の家族を探すのも難しくなる。今日の夜から電気が一切使えなくなるからな。


 こうして俺は学校から出るために優雅と話し合いを始めた。

最後まで読んでくださりありがとうございました!


次も読んでいただけると嬉しいです!

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