ステータス
一階の端、階段のある場所はT字になっており左に行けば昇降口や正門に、右に行けば体育館とグラウンド、裏門に行けるようになっている。
あいつらが身代わりにした二人って誰なんだ? 助けが間に合えばいいけどここで走って探して大量のゴブリンに見つかったら困るからな。
壁伝いに足音を立てないように血だらけの通路をゆっくり歩いていると体育館の近くから助けを呼ぶ声が聞こえた。
この声ってもしかして……
できる限り急いで声のする方へ向かい、通路の陰から様子を窺う。そこには体育館の陰から上半身だけが見えているクラスメイトの姿があった。
「やめでぐれぇぇぇぇえ」
やっぱり康平だったか。でももう一人の姿が見えないな。あと一人は誰なんだ? って今はそれどころじゃないか。とにかく助けよう。そう思った、次の瞬間だった。
「ッグァァァァァア、じ、じにだぐな……い」
陰で見えていなかったゴブリンが出てきて康平の首にかぶりつき、肉を喰いちぎった。何とか自分からゴブリンを引き剥がそうとする康平がこっちを見た。思わず目を逸らしてしまった。
もう助からないだろう。康平には悪いが俺にとってはチャンスだ。絶対にこのチャンスは逃さない。
慎重にゆっくりと背を向け人肉を喰らうゴブリンに近づく。
——今だ!
姿勢を低く構え、思いっきり踏みしめて地面を蹴りゴブリンとの間合いを詰めた。
「ギィ?」
「遅いッ」
今更気づいたところで無駄だ。ゴブリンが振り向いた瞬間に俺は持てる力を込めて剣で胸を貫き、捻った。
「——ッ⁈」
ゴブリンは反撃することなくこの一撃で絶命した。たまたまか、それとも一撃で死ぬほど弱いのか。サティーからゴブリンは弱いと聞いているがこんなにあっさり倒せるのかは分からない。とにかく無傷でいられてよかった。
それより康平は——だめか。もう死んでる。
もう一人は体育館の陰に隠れて見えなかっただけだった。結局確認してその人もクラスメイトだった。
悲しいけど異世界化した時点で自分以外を心配している余裕はない。とにかく生きるために必死にならないと。
そうだ。モンスターを倒したからやっと確認できるな。まずその前に周囲の安全確認をしてから。
「よし、オープン"ステータス"。うわ——っとすげーな」
名前 オウガ リキヤ
Lv : 1
HP : 24
MP : 9
体力 : 41
筋力 : 26
防御力 : 20
敏捷 : 28
魔力 : 13
器用 : 25
パッシブスキル : 鑑定Lv1、剣術Lv1
アクティブスキル : 剣技Lv1
エキストラスキル : サティーの祈り
目の前にはスクリーンのようなものが浮かんでいる。しかも触れることができる。
「これが今の俺か」
このステータスがどれほどのものなのかは対象がないと具体的には分からない。でも初期値がこれでも高い方なのは知っている。確かサティーは普通の人の二倍くらいだって言ってたな。これは俺がサッカーの日本代表に選ばれていることからそもそもの素質が高いことに由来しているらしい。後はサティーからのサービスでステータスの20%上乗せに、スキルの鑑定と剣術、剣技、そしてサティーの祈り。これらが全て俺の身体に反映される。つまりやっとこの世界に対応したことになる。これからの俺はさっきとは比べものにならないほど動きが速く、力も強くなっているはずだ。
ステータスはモンスターを倒さないと確認することができない。確認しない限り、自分の身体に反映されることはないしスキルを得ることもできない。だが初めてモンスターを倒した時にスキルを獲得している時がある。それは職業に就いていてそれに該当スキルがある場合のみである。ステータス確認後のスキル獲得についてだが武器であれば一度使用すれば基礎スキルが、耐性ならその状況を一定時間耐えると得られる。経験によって得られないスキルはモンスターを倒した時に稀に獲得することができるらしい。
スキルは三つに分かれているがパッシブスキルは常時その恩恵を受けられ、アクティブスキルはMPを消費して使用した場合に恩恵が受けられる。最後にエキストラスキルは前の二つのスキルが混在しているが世界に一つしかないため特別枠となっている。
ステータスはレベルアップ時に3から10ランダムでそれぞれ上昇する。こればかりは運らしい。とにかく祈れってサティーがヘラヘラしながら言ってた。あの時は腹立ったな。
まぁでもサティーには本当に助けられてる。エキストラスキルまでくれてる。この欄のスキルは世界に一つしか存在しないもので強力なスキルばかりらしい。一体どんなスキルなんだろう。
スキルの文字に触れると説明が出てきた。
『サティーの祈りとは……
サティーより継承されたオリジナルスキル。手を握りしめ"ザバス"と声に出し、強く祈ることで気合いが入り何となくこの先の状況が良くなる気がする。消費MPは1』
……あいつふざけてんのか? 何だよこれ。全然強力じゃねーじゃんかよ! しかもMP消費すんのかよ! 良くなるならまだしも、気がするって気持ちの問題だろ! ったくすげー期待したのにな。
とりあえず校内に戻ってこの状況をどう切り抜けるか考えなきゃな。
「康平、雄太。助けられなくてごめんな……」
グチャグチャになった二人のクラスメイトに謝り、来た道を引き返す。
最後まで読んでくださりありがとうございました!
また次も読んでいただけると嬉しいです!