表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/7

異世界化した日

「一体どうなってんだッ」


「何も見えねーぞ!」


 時刻は十二時、例え停電したとしても周りが見えなくなることは絶対にない。しかし確かに一瞬真っ暗になり何も見えなくなった。女子の悲鳴や男子の慌てた声が聞こえたが、すぐに視界は戻った。するとクラスメイトの一人がふと呟いた。


「なぁ、さっきまですげー晴れてたよな? 何かおかしくね?」


 先程まで雲一つなく太陽の光が容赦なく地面を照りつけていたはずなのに、今では分厚いドス黒い雲がどこまでも広がり雨が降りそうな天気に変わっていた。みんなが教室の窓の外に注目していた。


 この時俺はあの広告のことを思い出した。サティーの言葉が一つ一つ明確に浮かんでくる。


『……時が来たら思い出すわ』


「あれ本当だったのか…… でも何でこの二ヶ月間あの広告のこと忘れてたんだ?」


 一人自問自答するが、その時女子の悲鳴が教室に響いた。


「あ、あれ」


 指差す先には学校周辺に住んでいる人が得体の知れない生命体に追われ、殺されていた。俺はその生命体を知っている。


「ちょ、ちょっと待ってろッ。すぐに確認してくるからお前らは教室にいろよ」


 担任は慌てつつもこの状況を確認すべく、職員室へと向かおうとするがそれに朱莉が異議を唱えた。


「あの変なのが敷地内に入ってきてるのにここで待っていうの⁈ 私は死にたくないわ。亮逃げよう」


「そうだ、裏門から出れば殺されずに済むな。大貴も行くぞッ」


 校門前に見えるだけですでに六つの死体があり、殺人鬼であるゴブリンとオーク、スライムが学校の敷地内に侵入してきていた。朱莉はこの教室にいたらいずれ殺されると考え逃げることを選択したのだろう。担任は落ち着けと声を掛けるがこの状況で落ち着いてられる人間がいるだろうか。朱莉の言葉がきっかけとなり、クラスメイトは我先にと教室から出て行った。そして便乗するかのように担任も逃げて行った。こうして教室に残った俺は窓の外を眺めながらこれからどう行動すべきか考える。


 とりあえず安全の確保しなきゃいけないのと、できるだけ早く生活環境を整えるのが最優先だ。この新しい世界のことを知ってる俺は他の人よりもズバ抜けて有利だ。だからこそこれからは自分で何事もやっていかなければ生きていけないということも一番分かっている。

 

「そのためには…… っと」


 俺は教室の後ろにある自分のロッカーを開ける。そしてあるものを手にする。


「そりゃあるよな」


 俺が手に持っているのは40センチ程の、これといった装飾はない鉄製の剣だ。

 異世界化した時に世界中にはモンスターを倒すための武器や身を守るための防具が適当に配布されている。当選者である俺にはサティーがサービスとして武器を特定の場所に三つ配置してくれていた。そのうちの一つが学校の俺のロッカーの中だ。異世界化するのは学校にいる時だろうからというサティーの配慮によってここが選ばれた。しかしこの場を乗り切るための武器なだけに格別良い武器というわけではない。この先いくらでも手に入るような剣だ。それでも今の俺には心強い。


「そろそろ行くか」


 俺は教室を出て一階まで行くため階段へ向かうが、ついさっき教室を出て行ったはずのクラスメイトや他の生徒がやってきた。中には服に血をつけた人もいる。


「どけよッ!」


 その表情からは死から逃げようとする必死さが伝わってくる。他の人よりも少し冷静でいられるのは起こっていることを理解できているからだろう。俺はクラスメイトが駆け上がってきた階段を降りるためにこの人の波に逆らうように走っていく。


 そうして二階へ降りていくとそこはすでに血の海となっていた。一気に心臓の鼓動が早くなり、思わず剣を握る手にギュッと力が入る。廊下には死体がいくつもあり、そこにぶちまけられた内臓と血の合わさった臭いが充満していた。


 ッ⁈ 何だこの臭い……! 気持ち悪ッ……


 鼻を塞ごうとする前に入ってきたその臭いと悲惨な光景にやられ、俺は膝に手をつき喉元まで込み上げてきたものを我慢することなくその場に吐いた。


「ハァハァ…… ッヴ、だめだ、うっ、グオェェ」


 結局一度では収まらず、何も出てこなくなるまで吐き続けた。そして吐いていた数分の間でこのむせ返るような臭いに少し慣れてきた。だが完全に我慢できるわけではない。俺は催す吐き気に耐えながら階段を降りていくと、一階も二階と変わらない酷い状況だった。そこで俺は少し違和感を覚えた。


「何で襲ってこないんだ……?」


 二階と一階は死体だらけだった。それにクラスメイトや他の生徒が三階まで上がってきたってことはそこまで迫ってきたからなはずだ。それじゃあ一体どこに行ったんだ……?


 すると突然外で大きな金属音がした。俺はその音に聞き覚えがあり、嫌な予感がした。静かに移動し、そっと昇降口の陰から外を覗くとその予感は的中していた。


「やっぱり校門が閉められたのか……」


 あの大きな金属音は門を閉めた際に金属と壁がぶつかった時のものだった。それを実行したのはオークだった。門の前にはゴブリンによって運び込まれた瓦礫が積み重なっていた。そして逃さないと言わんばかりに集まって包囲網を形成していた。


「お、おいッ! こいつら俺たちを外に出さない気だ」


「あり得ない。あいつらは知能が低いはずなんだッ!」


 おそらく三階の教室の窓から覗いてるんだろう。その怒鳴り声が俺のところまで聞こえてきた。誰かは分からないがその情報は間違ってる。おそらく何かの小説内ではゴブリンは知能が低かったんだろう。だがこの世界では違う。


 この世界には階層の異なるダンジョンという迷宮が地下と地上のどちらにも誕生した。そのダンジョン内にはモンスターが存在している。そしてそのモンスターはダンジョン外に出ることはない。

 では今外にモンスターがいるのか。それは水道や電気、ガスなど俺たちの生活に欠かせないものを供給している場所を破壊するために出現させたかららしい。誰が? と俺もサティーに聞いたが答えてくれなかった。


 ダンジョン内のモンスターは無限に湧いてくるが、外にいるモンスターは破壊するために出現しただけだから有限だとサティーは言っていた。

 破壊するために出現したモンスターは、目的を達成するためにある程度の知能を有している。だが人間が全滅しないように俺たちが倒せるくらいにはなっているらしい。

 ただ小説やアニメのような想像上に創られた気持ち悪い化け物に目の前で人が殺されれば倒すというより逃げることを選択するのは明白だろう。

 一旦冷静になることができない限り、反撃して倒そうという気にはなれないだろう。冷静になっても倒そうと思わない人が大半だろうけど。

 

 だが俺は倒すつもりでいる。それはまずは一体は倒さなければ俺自身を知ることができないから。


「単体のゴブリンを探そう」

 

 俺は校舎内に戻り一階でゴブリンがいないか探す。


「ゔっ…… やっぱキツイな……」


 さっきは外に出たからマシだったけど校舎内に戻ったら臭いがこもっててすぐ吐きそうになる。

 一体どれだけの人が殺されたんだよこれ。初めて死体を見た時よりはキツくないが、倒れているのが友達かもしれないと思うと心が抉られるように苦しくなる。


 俺が廊下を歩き始めて端にある階段に辿り着きそうになった所で数人の駆ける足音が聞こえてきた。


「ッつぁぁあ⁈ んだよッ! 驚かせんなよ!」


「ったくビックリした…… って驚いてる場合じゃないよッ! 早く教室に戻らないと」


「亮、早く三階に行こう」


 俺が出会ったのは真っ先に教室を出て行った亮と朱莉と大貴だった。

 確かこいつら裏門から逃げようとしてたはず。戻ってきたってことはこの学校はゴブリンとオーク、スライムによって完全に包囲されたと考えるべきか。

 頭の中で情報をまとめていると残酷な話が階段上から聞こえてきた。笑いを含んだその声に俺はゾッとした。


「あの二人が身代わりになってくれて助かったね」


「俺たちの方が生きる価値があんだよ」


 この状況で自分が生きる為なら他人を見捨てるというのは本能だと思うししょうがないと思うが、こいつらは必死だったからというよりも意図的にそうしたような気がした。

 

 俺はモンスターに襲われているであろう二人を探しに裏門の方へ向かった。

最後まで読んでくださりありがとうございました!


また次も読んでいただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ