1/プロローグ
初めての人もそうで無い人も、こんにちは、アバウトですっ!
沢山ある小説の中から、僕の小説に目を留めていただき、ありがとうございます!!!
ではでは、「姫と騎士と王の策略」お楽しみいただけたら幸いです。
昔々、ヨーロッパのある小さな王国に、2人のお姫様がいました。
姉のお姫様と妹のお姫様は、大の仲良しで、いつも一緒にいました。
ある日、妹のお姫様は護衛の一人と恋に落ちました。
しかし、王様はそれを許してはくれず、2人がもう会えないようにしてしまいました。
護衛は王国を追放され、妹のお姫様はとてもとても悲しみしました。
そして、数年後のある日、追放されたはずの護衛が王国を襲いました。
妹のお姫様を取り戻すために、いくつもの命を犠牲にしました。
しかし、そんな護衛を妹のお姫様は許しませんでした。
最後には、妹のお姫様の手で護衛は殺されました。
***
「レオナルド! 入るわよ?」
ここはヨーロッパのはずれに位置する小さな小さな国。
綺麗で沢山の飾りのついた真っ白なドレスを着た女性が、ドアをコンコンとノックした。20台半ばという年齢で、女性にしては少し高めの身長に、すらっとした体系。目は釣り目の二重で、整った綺麗な顔立ちをしている。頭に大きな宝石のちりばめられたティアラを着けているところを見ると、どうやらこの国の王女のようだ。
「はいはい、今開けます」
レオナルドと呼ばれた青年は、釣り目で少しきつい目つきなのだが、どこか気の抜けた雰囲気がそれをカバーしている。そして少し長い黒髪をなびかせながら、少しだけ面倒くさそうにドアを開けた。
「シュリア姫様、衛兵の部屋に来るとまた王に怒られますよ」
「そんなことは承知できてるの。それより、これ見てよ」
そう言って、シュリアは手に持っている一冊の絵本のようなものを両手でレオナルドに見せ付ける。一方レオナルドは、こんなもののためにここまで走ってきたのかと、少しだけ溜息をついた。
「溜息はこれを読んでからつきなさい」
レオナルドはわけがわからないと思いながらも、シュリアの持っている絵本を受け取ると、声に出して読み始める。
「…えっと。昔々、ヨーロッパのある小さな国に、2人のお姫様がいました……」
***
そのあとは声に出さずに黙読し、読み終わったと同時に本をポン! と本を閉じた。
「確かに、似ていますね。俺とユリア姫様に」
「でしょ? これお父様の書斎で見つけたの。それに、どこを見ても作者の名前が無いの。一体誰が書いたのかしら」
シュリアは顎に手を当て、天井を睨んだ。
実は、この国にもお姫様は2人いるのだ。姉がシュリアで妹がユリア。レオナルドとユリアは現在恋仲にあり、周囲の人々も、もちろん王様もそれを知っていた。
「確かに似ているとは思いますが、途中までですよ。俺たちの場合は、俺が聖騎士になったら認めてくれると王は約束されました。シュリア姫様は心配性すぎるんですよ」
「まぁ、それもそうね。私の考えすぎだわ。時間を取らせて悪かったわね」
レオナルドの言い分に、シュリアは納得したように頷く。
「はい。では、俺はこれから訓練があるので…」
「そうなの? 最近頑張りすぎじゃない? 新しい聖騎士の誕生は近いかもね」
「できるだけ早く聖騎士になりたいんです」
「まぁ、あなたは聖騎士になってもユリアの安全が一番なんでしょうね」
シュリアは少し悪戯っぽく口を尖らせて言った。
「シュリア姫様!」
「冗談よ。ほら、さっさと訓練に行きなさい」
シュリアは手でしっしとレオナルドを払う。レオナルドは少しムッと顔をしたあと、一礼して訓練場に向かった。
実は、すでに遅刻するかもしれなかったレオナルド。シュリアに捕まったおかげでかなりギリギリになってしまったのだ。大きな螺旋階段を3段飛ばしで駆け下り、最後の一階は手すりに手をかけ、飛び降りた。いつものように廊下を駆けていくレオナルド。城の中で、しかも聖騎士見習いという立場のレオナルドにとって、似つかわしくない行動には違いないのだが、見慣れたいつもの光景に、すれ違う人々はクスクスと笑ったり、苦笑いを浮かべたりするばかりで、注意したり、ましてや激昂する者もいない。
「おはよう、レオナルド」
「あぁ」
時たますれ違う同年代の衛兵と朝の挨拶を交わし、訓練場のある中庭に急ぐ。中庭からは同じく聖騎士を目指している訓練生の気合の入った声が聞こえてきた。
一歩、二歩、三歩で中庭に入り、そのまま元聖騎士のギリアンの元へ走る。
「バカモン! 何していた!?」
「寝坊です」
会った途端激昂したギリアンに、面倒くさそうにレオナルドが答える。それにより、更にギリアンは激昂した。
「お前が聖騎士を目指す理由はなんだ!?」
何か失敗を犯した訓練生は、必ずと言っていいほどこの質問を受ける。そこで訓練生の大多数が「立派な聖騎士になり、王族、並びに民を、そしてこの国を命に代えても守り抜くためです!」と答え、その後にギリアンが課す地獄の特訓に耐えるのだ。
しかし、レオナルドの返答は一般のそれとは大きく異なった。
「ユリア姫様のため」
「お前なぁ…嘘でもいいから国のためとでも言え」
ハタから見れば可笑しな返答かもしれないが、レオナルドの決意の炎を宿したその両眼はどの訓練生よりも光輝いている。半ばわかっていた答えだけに、ギリアンもどうしてもレオナルドを叱る気分にはなれず、頭を抱えて唸っている。
数秒の後、手で訓練をしている連中に加われと合図すると、一気に気を引き締め、教官の顔になった。
レオナルドといえば、地獄の特訓を受けずに済んだことに少し安堵しつつ、同じく気を引き締めて訓練生に加わった。
衛兵の家に生まれたレオナルド・ローレンスは、幼少のころから武術に優れ、類まれな運動神経で大人たちを相手に大立ち回りをするなど、多くの武才に恵まれていた少年だった。
ある日、彼は王城のパーティーである少女と出会う。名をユリア・ネイル・ジュリエイル。2人はすぐに恋に落ち、そこには何者も敵わない愛情と、信頼が生まれた。
息を呑んで王に告白するも、一国の王女と一介の衛兵。立場が違いすぎると、突っぱねられるが、どうしても引けないレオナルドが、負けじと条件を提示した。
「俺が聖騎士になったら、結婚を許して頂けますか?」
聖騎士、それは衛兵の仲でも選りすぐりの王族の護衛団。
100人に1人がなることのできる確率で、国中の衛兵を集めても敵わないと言われるほどの実力者達。いつしかそんな伝説すらも一人歩きをし、聖騎士を倒せるのは聖騎士だけと言われるまでになった。
敵からすればそれは脅威でしかないのだが、味方となればこれほど心強いものは無く、子供たちからは半ば英雄のような存在である。
そうは言っても、聖騎士は王族直属の護衛兵。民を守ることはほとんど無い。
そんな国の英雄、聖騎士になることができれば、立場は対等とまではいかないが、王を納得させることができる。レオナルドはそう考えたのだ。
「いいだろう。そなたにそれができるのならな」
レオナルドの思惑通り、王はその条件を飲んだ。そこにはなれるわけが無いという確信があったのか、それとも別の目的があったのか。
これは、愛する一人の女性のために聖騎士になるべく、その命尽きるまで戦い抜いた、一人の少年の物語。