SS #005 『幽霊部隊の射撃訓練』
ある日の午後のことです。特務部隊オフィスにはマルコとチョコがいて、いつものように事務作業をこなしていました。
そこにシアンがやってきました。
シアンはマルコの顔を見るなり、こう言いました。
「王子、学生時代にヌードモデルを引き受けたご経験は?」
「……ありませんが?」
「ゲイ向けアダルトビデオにご出演されたことも?」
「……いえ……あの、唐突に何を……?」
「本当にご出演されていませんね? ゲイ向け雑誌のアダルトグッズの広告も、泌尿器科の『さようなら包茎! こんにちは、新しい僕!』とかいう痛々しい広告モデルも、一切引き受けたことはありませんね?」
「あ、あたりまえでしょう!? なんですか、いったい!」
「……王子にお知らせするのは、たいへん心苦しいのですが……」
シアンは小脇に抱えていた書類ケースから、何枚かの紙を束ねたものを取り出しました。そしてそれをマルコに差し出します。
マルコはそれを受け取り、中身を見てびっくりしてしまいました。
なんと、自分とそっくりな顔をしたAV男優の、無修正グラビアだったのです。
これは一体どういうことですか?
そんな言葉を顔いっぱいに貼り付けて、マルコはシアンを見つめました。
シアンも困り顔です。なにしろ本人に直接確認しなければならないくらい、本当に瓜二つなのですから。
「情報部の別のセクションから回ってきたものです。違法なアダルト商品を売りさばいている連中が、『超レアアイテム』として闇オークションに出品していたものだそうで……」
話しながら、シアンは別の写真を取り出しました。そこに写っているのは一冊の雑誌です。一枚目の写真には表紙が、二枚目には先ほどのグラビア写真のページが、三枚目には泌尿器科の広告ページが写っていました。
マルコはそれらを凝視し、四枚目と五枚目、雑誌の発行年月日と出版社の住所を写した写真を見て、シアンの質問の意味を理解しました。
「……なるほど、この雑誌が発行されたのは五百四十七年二月末ですか。たしかにこのころでしたら、私は中央市内で一人暮らしをしていました。それも、この住所の近所でしたが……この『ファリス』という人物が、大学時代の私であると?」
「はい。マルコ王子の乱れた私生活として、『そっちの業界』では徐々に話が広まりつつあるようでして……」
「あの、ですが、この写真の方は、その……そ、そのような性的嗜好の方々向けのビデオ作品にご出演されている俳優の方なのですよね? 動画であれば、声やしぐさで別人であると分かるのでは……」
「情報部のほうで調査しているところですが、『ファリス』という名の男優の出演作品は発見できていません」
「はい?」
「この雑誌を出版した会社そのものが五年前の三月末で倒産していて、社長以下従業員十数名が現在も行方不明となっています」
「……どういうことでしょう?」
「グラビアページの新作ビデオの告知を見てください。どれも四月から六月ということになっているでしょう? 別のページのアダルトグッズの広告も、入金は三月中にするよう書かれていますが、『お届けは四月中旬に一括発送』とされています。どれ一つとして、入金確認後即日発送という商品がありません」
「ということは、まさか……」
「はい。そんな商品は存在しませんし、AVビデオの撮影自体、行われていないと思われます。入金させるだけさせて夜逃げする、典型的な詐欺です」
「……では、あの、この写真が私であるという噂を払拭するには……」
「このAV男優を探し出し、『王子のそっくりさん』として国営新聞社に報道させるのが最も安全な手法です。一般市民からの投稿写真に見せかけて話を盛り上げれば、別の『よく似た人間』に関する情報も勝手に寄せられてくるでしょう。今後のトラブル回避にも役立ちます」
「なるほど、それは良い手ですね! あの、ですが、念のために確認させていただきたいのですけれど……最も危険な手法は?」
「適当な死刑囚を整形手術で同じ顔に仕立て上げて、実際に何本かAVを撮影して流通させます。それから死刑を執行すれば、王子そっくりなAV男優がいたという事実だけは証明できます」
「そ、それはいけませんよ! いくら死刑囚であっても、本人の同意のない性行為を強いるなど……っ!」
「はい。さすがに情報部も、それはやりたくありません。ですので、現在総力を挙げて『ファリス』とやらの素性を調査しています。進捗状況は随時お知らせします。こちらの活動が一段落つくまで外出はお控えください」
「わかりました。よろしくお願いします」
「失礼します」
シアンは一礼して、特務部隊オフィスから出ていきます。
マルコは写真を見直して溜息を吐きました。一部始終を見ていたチョコも、デスクの上に残された写真とマルコの顔を交互に見つめ、困った顔をしています。
いつもなら極秘資料は回収してしまうのに、どうしてシアンは写真を残していったのでしょう。
いやがらせですよね?
ええ、おそらく。
二人は視線を交わしただけで、そんな会話を成立させました。
AV男優の無修正グラビアを前に、チョコとマルコの心には寒い風が吹いておりました。
それから数日が経ちました。
マルコはシアンの言いつけ通り、騎士団本部の敷地内で過ごしていました。
仲間たちはマルコのために、古本屋やリサイクルショップを回ってくれています。それでも、いくら探しても『ファリス』という男優の映像作品は見つかりません。それどころか、別のグラビア写真すら見つからないのです。
情報部も焦っていました。
広告が掲載されていたアダルトグッズの通販会社も、泌尿器科クリニックも、夜逃げ倒産した出版社と経営者が同じだったのです。関係者の行方は分かりません。AV男優『ファリス』の手掛かりは、どこからも得られていません。
シアンは『ファリス』の無修正グラビアを提示してこう言いました。
「この男はAV男優や小遣い稼ぎのアルバイトでなく、夜逃げした詐欺グループの一人であったというのが情報部の見解です。この連中は五年が経過した今なお、誰一人として情報部の捜索網にかかりません。包茎手術を行っていたクリニックの医者も行方不明になっていることから、グループの全員がその医者の施術で顔を変えているものと思われます」
「ということは、現在は私と同じ顔の人間は存在しない、と……?」
「そういうことになります。王子のそっくりさんの実在が証明できないのであれば、やはり死刑囚で新作ゲイビデオを制作するしか……」
「それだけはいけません。絶対にいけません」
「はい。情報部としても、そんなものは撮影したくありません。ですので、今回はこちらから情報を開示してしまおうか、という話の流れになっていまして……」
「こちらから、ですか?」
「この雑誌のアダルトグッズ通販の詐欺被害者を発見しました。その人物から被害届が出ていることにすれば、嫌疑をかけられた王子がご自分で記者会見を開くことも可能です」
「なるほど、そうですね……私自身の身の潔白と、被害者救済のために行動を起こせば……っと、あの、ですが、それは……」
「はい。この写真を表に出す必要があります。しばらくの間王子の顔写真を使用したゲイビデオコラージュが流行することになると思いますが……」
「それは困ります!」
「でしょうね。しかし、現状でもそれなりの数のコラージュ写真が出回っていますから、今更では?」
「え?」
「こちらになります」
「ええっ?!」
サッと出されたコピー用紙の束には、ゲイ向け雑誌の読者投稿コーナーや違法ブロマイドショップの店内写真が印刷されていました。シアンの言うコラージュ写真とは、新聞や雑誌の記事から切り抜いた顔写真を、別の男優の写真に貼り付けただけの粗悪なものです。しかし、それでもマルコはショックを受けました。
そこにはマルコだけでなく、ロドニーやベイカー、その他有名著名人、スポーツ選手のコラージュ写真もあったのです。
「あの……こ、こういった写真は、簡単に入手できるものなのでしょうか……?」
「はい。まあ、そういった店でしか購入できない雑誌なので、一般大衆にはほとんど知られていませんが」
「……以前副隊長からご忠告いただいたのは、このことでしたか……」
「王子は今最も話題性のある有名人ですし、お顔も女王陛下によく似ておられます。客観的に申し上げますと、『美女顔』です。女性に近い顔立ち、もしくは中性的な男性が好みだというゲイたちからは絶大な人気を得ておられます。夜道の一人歩きはくれぐれもご注意ください」
「は、はい……」
王子が夜道を一人で歩くことなどありえません。ですが、それでもマルコは震え上がりました。マルコはこの時はじめて、自分の体に欲情する『男性』が実在することを具体的に意識したのです。
そしてそんなマルコに、シアンはとても意地悪なことを言います。
「ああ、そうそう。しばらくの間、王子の護衛としてジルチのロンがつくことになりました」
「はい?」
「ロナウジーニョ・チャベス。ジルチが誇る凄腕スナイパーです。外出の際には情報部から護衛を出す予定ですが、直接的な身辺警護に当たる我々のほかに、彼には離れた場所からの監視を行ってもらいます。まあ実のところ、詐欺被害に遭った張本人です。『ファリス』のビデオを注文したのに届かなかったことを未だに根に持っているようなので、護衛任務にかける意気込みはどの隊員よりも強いと思われます」
「それは、あの、ええと……?」
「ガチなゲイがスコープ越しに王子の下半身の安全をお守りします。ご安心ください。自他ともに認めるガチ中のガチですが、射撃の腕は確かです」
「そ……そう、なのですか……?」
ああ、なんと不安な護衛なのだろう。
マルコはその時、心の底からそう思いました。
「では、俺はこれで失礼します。こちらは情報開示の方向で動いておりますので、どうぞそのおつもりで。王子の心身のご健康を心よりお祈り申し上げます」
スッと綺麗なお辞儀をして、シアンはさっそうとオフィスを出ていきます。
見送るマルコは、全身に変な汗をかいていました。
冷や汗でしょうか。
脂汗でしょうか。
それとも別の何かでしょうか。
マルコに区別はつきません。
青ざめた顔で同僚に助けを求めると、一部始終を目撃していたチョコは、目だけでこう問いかけてきました。
いやがらせですよね?
机の上には、やはり資料写真が放置されています。それも今回は、前回よりも一回り大きな紙にプリントアウトされています。
セクハラでしょうか。
モラハラでしょうか。
どちらとも断言し難いことをさらりとやってのけるのが、情報部の恐ろしさかもしれません。
「チョコさん……この先記者会見を開くとして、私はいったい、どのような顔でその場に臨めばよいのでしょう……?」
「え、ええと、それは……」
チョコはマルコと資料写真を見比べて、弱々しく答えました。
「ア……アクメ顔以外の、何かで……」
「……ですよね……」
この瞬間、二人は精神的疲労をはっきりと自覚しました。
それからまた数日が経過しました。情報部の捜査の甲斐もあり、行方不明だった詐欺グループの幾人かが発見・捕縛されました。しかし、その中に『ファリス』はいません。薬物投与や拷問までして吐かせてみましたが、ファリスの行方はわかりません。彼らは顔を変えて逃亡してからは、一度も顔を合わせていなかったのです。
けれども、別の人物を見つけることはできました。『ファリス』の写真を撮影したカメラマンです。カメラマンは詐欺グループの関係者ではありません。仕事の依頼を受けて、その日一回だけ、自分の写真スタジオでグラビアの撮影を行った人物です。
情報部員がカメラマンのスタジオを訪ねると、彼はとても驚いていました。
「いやいや! 知りませんよ! 僕が撮影したのはニキビ面の男の子で……正直言って、どちらかといえば不細工な感じの子でしたよ? マルコ王子のそっくりさんなんて、撮ったことはありません!」
「本当ですか? とぼけるとろくなことになりませんよ? 詐欺グループの一人から、カメラマンは確かに貴方だったとの証言が得られているのですから」
「ええ、そうです、『ファリス』を撮影したのは僕です。でも、『ファリス』はマルコ王子とは似ても似つかない顔立ちでした。ちょっと待っていてください、証拠を持ってきます」
カメラマンはスタジオの奥に駆けていき、数分後、一冊のポートレート集を持って戻ってきました。それは仕事で撮影した写真をまとめたもので、客への技術説明に使用しているものだといいます。
「フィルムは買い取りの契約だったので、すべてあちらさんに渡してしまいました。僕の手元に残っているのはポートレート用にプリントした写真だけで……あった、これですよ、これ。この子が僕の撮影した『ファリス』です」
カメラマンに見せられた写真に、情報部の人たちは驚いてしまいました。
ポーズも光の加減も、雑誌に掲載されたあの写真そっくりです。なのに、決定的に違うことがありました。
ファリスの顔は、どこからどう見てもマルコには似ていなかったのです。
そしてカメラマンは、「間違っているかもしれないけれど」と前置きして、別のポートレートを持ってきました。そこにはとても美しい女の人が写っていました。こちらもアダルト雑誌のグラビア写真ですが、彼女の顔は、なんとヴィヴィアン女王にそっくりでした。
「あの、こちらの女性は……?」
「ほら、よくあるアレですよ、アレ。有名人のそっくりさんAV。この子はヴィヴィアン陛下に似ているということで、けっこう何本も出演して、グラビアの仕事もそれなりに持っていたんですけどね。まあ、この業界は飽きられるのも早いですから。ここ二~三年は全く見かけなくなりましたねー」
その場にいた三人の情報部員は雑誌の写真とポートレートの女性を見比べて、誰からともなく頷き合いました。
間違いありません。顔の部分だけは、この女性の写真が合成されています。
「この合成を引き受けたのは、貴方ではないのですね?」
「はい。僕はただのカメラマンですから。修正や合成は出版社で抱えているデザイナーか、美大卒のイラストレーターがやるんですよ。雑誌に掲載された『ファリス』の写真も無修正って煽り文句になってますけど、お腹のあたりとか、ちょっとツルンとしすぎているでしょう? 元の写真のほうだと、ほら」
「……あ! 手術痕!」
「傷跡とか、染みとか肌荒れとか、そういうのは全部消して『最高に綺麗でエロい肌色』にするんです。いやあ、それにしても本当にうまい。まったく同じ角度の写真を合成していますね。これ、元の写真を撮影した僕だから合成ってわかりますけど、そうでなかったら千人中千人が騙されますよ。……うん、本当にうまい。顔だけ女性に挿げ替えたのに、違和感なく『中性的な美青年』に仕立て上げられていて……こりゃあデザイナーやイラストレーターじゃなくて、本職のフォトレタッチャーの仕事だなぁ。それも相当な技術を持った人だ。……う~ん、誰だろう……? この素晴らしい仕事ぶり、ぜひともうちのスタジオにスカウトしたい……」
カメラマンはレタッチャーの合成テクニックに感銘を受けていましたが、情報部員たちはそれどころではありません。
『AV男優のファリス』が実在しないのなら、マルコの身の潔白はどう証明したらよいのでしょう。撮影した本人が『千人中千人が騙される』とまで言い切った写真です。騎士団側がどんな公式発表をしたところで、『マルコ王子のふしだらな過去を隠蔽しようとしている』と言われるに決まっています。
『別人だという証拠を出せ』と言われて修正前のファリスの写真を出したとしても、一度『過去をもみ消そうとしているビッチ野郎』とレッテルを貼られてしまったら、どんな証拠を出しても信じてもらえないでしょう。それどころか、『だったらこの男優をここに連れてこい』と言われるに決まっています。
問題の男優は詐欺グループの一人で、顔を変えて逃亡中です。頑張って探して捕まえたところで、顔が違います。
顔を使われたAV女優のほうも、なにしろ女王にそっくりなのです。マルコの母親とほぼ同じということは、母親似のマルコとも非常によく似ているということです。レタッチャーの合成技術が無駄に神懸かっていたせいで、これがAV女優の顔なのか、マルコの顔なのか、マルコ本人と面識のある情報部員たちにも見分けがつきません。
合成前の写真が本物であると証明できるネガフィルムは、詐欺グループに買い取られています。カメラマンの手元にはありません。
情報部員たちは、苦虫を嚙み潰したような顔で視線を交錯させます。
これは大変難しい状況でした。
闇オークションに問題の雑誌が出品されてから約二週間が経過しました。
はじめのうちはまめに報告に来ていたシアンですが、このころになるとすっかり姿を見せなくなっていました。
マルコは得体のしれない危機感を覚えていました。
シアンが暇つぶしにゲイ雑誌のコピーを届けに来ないということは、情報部はとても忙しいということです。何か大変な状況に陥っているのでしょう。
まさか、本当に死刑囚でAV撮影を始めてしまったのでしょうか。
自分と同じ顔にされた誰かが無理やりゲイビデオに出演させられているのかと考えると、あらゆる意味で気持ち悪さが込み上げてきます。
必死に考えないようにしながら、マルコは事務作業をこなしていました。
そこにチョコがやってきました。
「マルコさん……今、下で情報部の人から預かってきたんですけど……これ……」
いやな予感は的中です。
チョコが手にしていたのは出来立てホヤホヤ、プレスしたての新作ゲイビデオでした。
「な、なんということを……っ!」
タイトルは『王子様のイケナイ冒険♡幽霊部隊の射撃訓練』。マルコそっくりに整形された男優がボディビルダーのような筋肉男優たちと絡んでいます。非常に濃厚な絵面に、マルコはパッケージを見ただけで眩暈を起こしてしまいました。
「し、しっかりしてくださいマルコさん!」
「すみません、チョコさん……ほんの一瞬ですが、死後の世界が見えました……」
マルコはなんとか気を取り直し、ゲイビデオと一緒に手渡されたメモを開きます。そこには几帳面な筆跡でこう記されています。
〈出演している『そっくりさん』は、今後この路線で売り出していきたいという新人AV男優です。本人の同意を得たうえで整形し、撮影に臨んでいます。人権上の問題は存在しません。〉
これはシアンの筆跡です。彼の考える人権問題は突っ込みどころが満載ですが、本人の同意があるのなら最悪のパターンではありません。ひとまずは胸をなでおろしました。
しかしパッケージの裏面を見て、マルコは凍り付きました。
〈あらすじ〉
特務部隊に配属された王子は『幽霊部隊ゼニス』の存在を知る。
彼らは反抗的な団員を調教するために組織された『夜の特務部隊』であった。
何も知らない王子は彼らの『射撃訓練』の見学を希望してしまい――!?
王子様シリーズ第一弾、待望のリリース!!
所々、限りなく真実に近いことを言っています。
こんな話をゲイビデオのパッケージ裏に印刷してしまっていいのでしょうか。
情報部長官は、なぜこのような企画にGoサインを出してしまったのでしょう。
というか、『王子様シリーズ第一弾』というこの煽り文はなんでしょうか。
次回作の発売も決まっているということなのでしょうか――?
「……あ、あの……マルコさん? 大丈夫ですか……?」
チョコに声をかけられ、マルコは涙目で答えます。
「ち……ちっとも……これっぽっちも大丈夫ではありません……。あの方々はどこまでが冗談で、どこからが本気なのでしょうか……?」
「ええ~と……俺が知る限り、あの人たちはどんな時でも絶対に本気ですが……?」
「本当に……?」
「はい……本当にくだらない冗談も、本気度100%で全力投球してきます……」
「あ、そっちの意味ですか……」
「はい、そっちの意味で本気です……」
二人は思いました。
いろいろな意味で、情報部に喧嘩を売ってはいけないのだな、と。
後日、シアンから『王子様シリーズ』の売り上げが好調であることが報告されました。
その際資料として添付された写真は、以前よりももっと大きな紙にプリントされていました。
マルコはそれを見た瞬間、覚悟を決めました。
そちらが本気ならば、私も全力で応えさせていただきます――と。
情報部にあるコピー機の最大印刷サイズがどれほどの大きさか。
シアンはいつまで真顔でこのお約束ギャグを貫けるか。
マルコはいつまで真顔で流していられるか。
やがて訪れる限界まで、マルコとシアンの、謎の戦いは続きます。