007(バロン酒)
ジャック・ストライフという男は俺に掴みかかってくる。コイツも浴衣を着てる……柔道着と似てる。
俺はジャックの袖と襟を掴み、前に押して相手が押し返してきたところで背中を向け、ややかがみ背負い投げで投げ飛ばして袈裟固めに持ち込む。
国一の魔法剣士といっても、柔道の八方崩しに簡単に引っ掛かるとは、大したことないな。
周りの男達は俺とジャックのファイトに金銭を賭けてるようだ。
『やっちまえ、無名の男!』
『ジャックはいけすかねえ!』
『ああ! 任せろ!』
『苦しい……』
面白くなってきた! 俺はジャックの首に回してる左手で奥襟を掴み、締め上げる。ジャックはタップをしたが、更に締め上げる。
「そこまでだ!!」
頭の中にテレパシーが来たと同時に俺とジャックは勢いよく引き剥がされる。これが、魔法……?
『メンソ国王!』
一同は静まり返る。
『ジャック・ストライフよ、ゼニアとの縁談はなかったことにしてしまおうか?』
『もっ、申し訳ございません! ゴホッ、ゴホッ』
ジャックはたち膝をして頭を下げる。
『ジャックって奴から仕掛けてきた』
『ソウ、分かっている。ラークバロン公国の者として詫びをする』
『いいんだよ、王様。この男は雑魚だし』
『何だと!?』
『ジャック、やめて!』
ゼニア姫も来た。
『さあ、皆の者、飲み直しだ』
『ははー!』
周りの男達はどんちゃん騒ぎを再開する。
『ソウという奴、覚えておけよ!』
ジャックは雑魚キャラらしい事を言って席に戻っていった。すると、隣の席の男が話し掛けてきた。
『まあ、気にするなよ、異国の戦士。さっきの投げ技と絞め技のコンボは良かった。バロン酒だ、飲め飲め』
『あれは柔道だよ、俺は初段を持ってるんだ』
『異国の格闘技か』
俺の手元のグラスに茶色の液体が流し込まれる。
『これはウイスキー? アルコール度数は?』
『蒸留酒だよ。度数は50パーセントだ』
『おお、いいね。俺はソウだ。あんたの名前は?』
『スコットだ。ラークバロン公国の副騎士団長補佐をやってる』