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神殺しのキングダム  作者: Reizen
一章 「邂逅」
3/18

邂逅Ⅱ 究極のバカ

 アラナカルタ地方の中央を牛耳る形で広大な領土を有する王国『イグニス王国』

 その西方に位置する帝国『オーディス』

 周囲の諸国を巻き込み、現在この二ヵ国は非常に険呑な情勢下にあった


「戦争でもするの?」

「……、……黙って聞いてろよ」


 話の腰を折られた少年は露骨に嫌な顔を作った


「いやーだって聞いてたら眠たくなりそうな空気が」


 ふぅあ~と伸びをする様を眺めていると、少年はこの世間知らずなお嬢様の()()()奴にわざわざ教えてやるのもなんだか癪な気がした


「……、……、……まぁいいや、要は特に今は人間の出入りに厳しいんだ」

「ふーん」


 自分から「どうしてこの森を何日も歩かないといけないのか」と言い出したわりに薄い反応だなと少年はイラついたが表には出さない

 その程度の仕事意識はある、接待も仕事のうちだ


「だいたいお前がこのプランを選んだんじゃないのか?」

「プランって?」

「ルートだよ」


 イグニス王国に密入国をしようとルートを考えた際、手間と時間と費用、そしてそれが発見されるリスクは多岐に渡る

 だいたいの場合は発見されても追加課税の徴収か一時的な国外退去になる程度で易いものだ、ここまで手間をかけて入り込もうという輩は早々いない

 正確に言えば、()()()()()()()()()()()()()()というべきだが

 しかも比較的楽な『そう言った権力のある人間』に袖の下的な物を渡す方法を選択しないとなると相当なワケ有である可能性が高かった

 また斡旋者が犯罪者や違法行為に手を出す手合いの者には仲介は行っておらずそういうわけでもない筈だ

 そこまで考えてユウスケは思考をやめた

 依頼人のあれこれを詮索するなんて百害あって一利なしだ、どうも彼女といると調子が狂うなとユウスケは頭を掻いた


「まぁ、俺は何でもいいけどね」

「……、……ユウスケってなんか距離を置くタイプよね」

「これくらいが普通の距離感だ」


 今朝からずっとこの調子で、非常に馴れ馴れしく少年は感じていた

 昨晩の一件で親密度が上がったのか二日目にして退屈になったのかは不明だったが、神経をある程度張っておきたい側としては邪魔な存在と言わざるを得なかった

 まぁこの近辺は比較的そう言った心配はないので見逃しておこうかと考えたりもする

 もっとも彼も言葉遣いをいつの間にか取り繕わなくなっており、それはお互い様なのだが少年はそれを自覚していなかった


「残りもこの調子なのは私が辛いんだけど」

「我慢しろ。そもそもお前は楽しくやるために金払ったんじゃないだろ」

「……、……」


 少女が黙ってフードを被った。ようやく静かになったようである。


 今二人が歩いている場所はイグニス大陸の南に位置する大森林と呼ばれるエリアだ

 領土的にはイグニス王国の領土内になるのだが、ある理由でイグニスの公務部隊などが訪れることはまずないと言えた


「ねぇさっきから気になってたんだけどなんでこんなに木が倒れているの?」


 もう黙るのに飽きたのかまたツキナが口を開く。辺りを見渡すと所々折れた樹木があった


「昨日は満月だっただろ、巨大尾兎グレートテイルは交尾の時に樹木の倒し方で雌の奪い合いをするんだ、お前が昨日座っていた樹木、アレも多分そうだぞ」

「へー!だから昨晩たまに音が響いてたのね」

「ああ、そうだろうな」


 彼女は好奇心を刺激されたのか、楽しそうに声を弾ませた

 その性質のお陰で巨大尾兎は住む場所に追われ、今やこの場所にしか住んでいないことを言うべきなのか、少年はは少し迷う


「でもそれって結構気が立ってる動物のエリアを今突き進んでるってこと?なんか昨日そんなこと言ってたよね?」

「案内人の俺がそんなアホなことするわけないだろ……。いくら隠匿の魔結晶パージをかけてるからって」

「そ、そうだよね」


 どんよりとしたテンションの言外に「見くびりやがって」という意味が込められてる気がしたのは気のせいではないだろう

 ツキナは考え無しに話してしまう自分の性格に少し後悔した


「ごめんなさい、その、あなたのやり方は信頼してるんだけど……、……」

「……。……まぁ知らないならしょうがないな、こいつらの木の倒し方には法則があって、もうこの辺にはいないんだ、地元民ですら、まだいるかもと思って判断に迷うだろうけどね」


 こう言ったことがわからないと案内人なんてできないねと、少年は自慢気に鼻を鳴らした

 そうした仕草はずいぶん可愛げがあるのだが、そんなことを言うとまた怒るのだろうなと思った少女は口を噤んで話を続けた、


「へー、どうやって判断するの?」

「……、まぁいいか、月の光が差したところから順に倒し合いが行われるんだけど

 要はここら辺は最初に光りが当たったところだから大丈夫ってこと」

「そんなのどうやって見分けるの?」

「覚えてれば良いんだよ、どこから光が差したか、その時どう影ができるのかをね」


 さも当たり前のことのように言う少年の言葉にツキナは目をパチくりさせた


「そんなことできるの?」

「どうだろうね、まぁそんな飯のタネ的なことをホイホイ言うわけないでしょ」


 彼の言葉になるほどとツキナは納得する

 しかし嘘を見抜ける彼女の眼には嘘を言ってるような()()は見えなかった

 

 ツキナが考え込んでいると基本的に静かな森に、声のような甲高い音が響いた

 それは悲鳴のようだった


「今の聞こえた?」

「聴こえたけど」

 

 なんてことのないように少年は言った


「あっちの方だったわね」


 ツキナは右の方の斜面になっている林を見下ろす。ユウスケは猛烈に嫌な予感がした。


「おい、まさか行くとか言い出さないだろうな」

「えっ、行くけど?」


 当然のように言い放つツキナに少年の予感が確信に変わった


「いや、お前何考えてるんだ、そんなことしてる暇ないだろ」

「っ!」


 ハッとした仕草を少女が作った、まるで今の今まで自分が『何』をしようとしていたのか忘れていました、とでも言わんばかりの仕草だった


「お前わりとマジでとんでもない大馬鹿者なのか?それとも大天然か?どっちにしても関われるような状態じゃないから俺は行かないし、金を貰った以上お前も行かせないからな」

「……、……」


 逡巡と呼ぶには長すぎる彼女の苦悶の口元を見ながら少年は思う

 きっと目深に被ったフードに隠れた彼女の瞳も、さぞかし悲痛に悶えているのだろう

 どうやらこいつは露骨な()()であるようだ、いったいどういう人生を歩んできたのだろう

 普通であれば多少の気まずさはあれど自分の目的を優先するものだ、何かヤバイことをしていれば尚更だ

 例えば泥棒している最中に人助けをするなんて人間バカはそうそういないだろう

 それをコイツは今何と葛藤しているのか、全く不明である

 

 ほどなくしてツキナは言った


「じゃあいいわ、私だけで行く、もし何事もなく戻ってこれたら引き続き案内をお願いするってことで」

「お前、話聞いてたか?なんで行く方向で話がまとまってるんだよ、だいたいお前仲介人ブローカーから聞いてるだろ?

 案内中は俺の指示に全て従うって。それに反するならこの話は無しだ、俺は手を引く」

「っ!?そ、そういえばそんなこと言ってたかもね……。……」


 忘れていました、と言う仕草に見えないこともなかったが、そこはまぁ良い

 ユウスケは右手の指輪を見せつけるようにかざした、それは待ち合わせの場所で砕けた証の、宝石の台座部分だ


「事前に聞いていたと思うがお前はアホそうだからもう一度言っておく。これは『契約精霊の宝石』だ。知ってるよな?」

「し、知ってるわよ」


 これは契約を司る精霊に、契約を結ぶ者同士が証人になってもらうためのアイテムだ

 かなりポピュラーなアイテムのため流石にに知らないということはないと思ったが、少年は念のために再度確認を取ることにした


「これに契約者が盛り込める内容は膨大だ、今お前はそれに守られている

 だから俺は仕事の上ではキッチリとそれをこなすし、お前もそれを信用できるってワケだ

 だがいくつかこちら側でもお前との契約を一方的に打ち切れる場合ケースがある」


 それが『依頼者』つまり今回で言うと『ヒイヅキツキナ』が一方的に契約を『反故』にしようとした場合だ

 また特定の『契約違反』例えば「意図的に依頼者を危険にさらす」等を破れば当然ユウスケにもペナルティがあるし

 逆に「仲介人ブローカー案内人ユウスケの情報を周りに教えない」等破るとツキナにもペナルティがある


 これのおかげで互いは互いをある程度信頼できるわけだ

 同じように仲介人も正しい取引をすると依頼者と契約を結ぶために案内人が信用できないという事は普通の紹介ではまず起こらない


「契約精霊の契約は強力だ、一生涯破ることはできない。ただしそれはお互いが条件を守っているからだ

 お前が契約を放棄するっていうなら、俺はそれを精霊に申告して、ペナルティを与える。

 わかってるのか?今回の場合だと、お前は十中八九死ぬぞ」


「……。……、……」


 さすがに重大さを理解したのか、肩を震わせてツキナは黙りこんだ

 かのように見えた


「良いわよ別に、それならそれで!見損なったわ!このバカ!アホ!間抜け!!」

「な、なんだとっ!」


 どうやら彼女が肩を震わせていたのは怒りのためだったらしく、かなり幼稚なレベルの罵詈雑言で少年を罵った


 ――助けてえええ、誰かぁああ――


 どこからか声が響いてくる。先ほどと同じ声だった

 森のざわめきに負けてしまいそうな弱弱しい声だ


 瞬間、弾かれたようにツキナが走り出した



「させるかっ」


 このまま行かせては義務違反になりかねないとユウスケは立ちはだかった

 取り出したのは黒い拳大の正八面体の石。束縛の魔結晶パージ


「どきなさい!」


 ツキナが人差し指を弾くと、使おうとした束縛の魔結晶が砕け散った


「な、なにぃ!」


 予想外の事態に思わず若干間抜けな声が上がってしまう


「《補助アシスト》!!」


 身体強化の呪文スペルを唱えるとゆうゆうとユウスケを飛び越えて

 瞬くほどの速度で彼女は見えなくなってしまった


 当たりには静寂が戻り、砕け散った魔結晶パージの破片だけが起きた事の様相を残している


「……、……、……俺の3000銀貨のとっておきの魔結晶が……」


 ポツリとユウスケは呟いた。ちなみに金貨にして30枚の価値がある

 これは庶民からすれば発狂レベルの痛手である。しかも使う前に壊されるという前代未聞の展開だった

 とんでもないやつだとは思ったが本当にとんでもないやつである


「まぁあれだけのことが出来るなら大丈夫そうではあるが……」


(いや、俺は何を言ってるんだ……)


 さっさと精霊に申告しないと名前まで教えてしまった相手だ。非常にまずい展開になる

 仮に手伝いに行って万事解決できたとしても、アイツは()鹿()

 きっと残りの短くない道中に似たようなことが起こるであろうことは想像に容易い


 これを容認すれば精霊はお互いの容認有ということでばペナルティも軽くしてしまうだろう

 ここぞというときに『契約』がなくてはどうしょうもない

 気軽に話せるのも契約に『お互いの情報を漏らさない』という項が含まれるためだ


(……、……もしかしてあいつはあの謎の能力パワーで精霊の契約を無効化できるとか?)


 ありえなくはない気がしたがそこで一つの疑問が沸く。あいつはそんなことまで考えるタイプなのだろうか、ということだ、どちらかというとその場の勢いだけで行動するようなタイプに思えた

 いや、それでも普通、『確実に死ぬ』とまで言われてなんの考えもなしに行くだろうか?

 少年にはそんな人間は想像できない


 強烈なアホなのか?いや、強烈なアホでももう少し自制心を持っているだろう


「……究極のお人好し(バカ) なのか……?」


 ユウスケは人差し指でコツコツと額を叩いた、

 するとその右手にはめた指輪から淡い光が漏れ出てくる

 精霊の召喚だ


 少年の額に嫌な汗が流れた


 今から少なくとも善人を我が身可愛さのために殺そうとしているのだ

 契約違反ではあるが、あの行為や気持ち自体は間違っていると言えるものではないだろう

 それなのに本当に良いのだろうか?


 (何がだよ)


 心の中がイマイチ煮え切らないまま、赤い綺麗な炎が立ち上った


「(なにようだ、契約者よ)」


 どこからか、頭の中にまで響くような独特の声が聴こえてくる

 全て見ていた癖に何を言っているんだと突っ込みたい衝動にかられたが表情には出さない


「契約者に反故があった、それについて話したい」


「(それは許しがたい行いだ。聞かせてもらおう)」


 炎の柱が一段と強く燃え上がった

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