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神殺しのキングダム  作者: Reizen
一章 「邂逅」
15/18

邂逅Ⅶ 地図に無い村‐3

 煉瓦造りの建物の屋上の縁に、眼下の街並みを見下ろすように眺めながら近づく一人の少女がいた

 膝裏まで届くような濡羽色(ぬればいろ)の長髪と、その身を包む純白のワンピースの裾が風に靡いている

 まだまだ幼さを十分に残した顔立ちにも関わらず、妍麗(けんれい)と形容しても差支えのない少女だが、その顔色は優れず、悲痛と言っても良いほどに強張っていた


 屋上の縁に辿り着くと衣服や頭髪が地面に付くのも気にせず、両手を左右に付くようにしてしゃがみ込み、続いて両足を屋上から投げ出して縁に腰かけて座った。そのかかとでぺたぺたと壁面を叩く


 少女が視線を向けると、瞳に映る街並みは果てしなく広がり、その先には大きな壁が見えた

 城壁だ。その城壁の向こうには街並みがあり、さらにその向こうに城壁、そしてさらに街並みと、どこまでも続くほどに広いのに、このとてつもなく広大な街に、少女の脳裏に思い浮かぶ人物は現在いない


 そう、いないのだ。いないだけならまだいい

 傍にいなくても居場所はいつも知っていた。しかし、現在ではどこにいるのかもわからなくなってしまっていた

 所在の把握を任せていた人物の()()()()()によってだ

 それはここ数日間少女の脳裏を占領している事柄だ


 聞き及んだ事の顛末が少女の脳裏を過ると、彼女は憤りを再燃させた

 その整った眉が強く引き絞られ深い皺を眉間に作る。さらにギリギリと歯が食いしばられ、恐ろしさを感じさせる怒りの面相となる。

 それに呼応するかのように彼女の髪はフワリと浮き上がり、やがて瞳と毛髪は薄い水色に変色し発光し始める

 次第に少女の周囲の空間は振動を始め、その振動は高さ100メートルはある建物に瞬く間に伝播し、たちまち地表の周囲にまで広がる

 ふいに叫び声が上がった、眼下の住人達が異変に気付いたようだった


 この高い塔を有する建物が彼女の()()の屋敷だということは有名だ

 そこの第三子、つまり彼女であるが、この少女は度々こういったことをしでかすので悪い意味で住人たちは慣れていた

 手早く周囲に「いつものあれがくるぞー!」と伝言され、途端に街路を通る人々の姿は消える


 それを待っていたかのように少女が一つ深呼吸すると

 ますます震えは大きくなった、その震えは建物そのものが耐えきれない程に強くなり始めていて

 建物を支えていた煉瓦が一つ崩れたときだった

 いつの間にか少女の後ろに、黒装束に身を包んだ長身の男が立っていた

 顔面を布でぐるぐる巻きにした異様な雰囲気を纏った人物だ

 頭領と呼ばれる人物の伝令役、「黒子」だ


 少女はその気配にすぐに気づき、標的を建物からその()()に変えた

 何をされるのか感じ取った黒子は咄嗟に声を上げた


「ま、まっ!」」


 少女が視線だけを横に動かすとすぐさまその装束がびりびりと千切れとんだ

 男は何か言おうとしたがそれも叶わずに、装束の隙間から大量の白煙が噴き出し、引き裂かれた衣服と煙だけが残る。すると白煙の中から同じ恰好をした男が今度は5人現れる


「「「「「まっ、まつでござるよ!との伝言でござる!」」」」」

「うるさい」


 言いながら少女は立ち上がり、振り向いて睨みつけると、黒装束の男達は一斉に千切れ跳んだ

 見えない巨大な手に凄まじい力で捻られたかのようにして捩じ切れ、溢れ出した白煙が今度は視界と周囲を埋め尽くす程の量になる

 今度は声だけが聴こえた


「「「は、話を聞くでござるとの伝言でござる!!」」」


 視界を覆えばどうにかなるとの考えなのだろうか?しゃらくさいなと彼女が考えると、今度は凄まじい突風が発生する。すぐさま白煙は消し飛んで景色は晴れ渡った

 視界が良好になると、数十人の黒子達が空中に浮き、捕らえられていた

 別に縛られているわけでもなんでもないが、彼らは自分の意思で身動き一つ取れなくなっているのだから、捕らえられているという表現が正しい

 声すら出せなくなったそれらを眺めながら少女は冷淡な顔つきで言った


「何しに来たの?」


 声どころか呼吸一つできなくなった黒子は質問に答えることが出来ず、次第にポフンと消える

 黒子は生物ではないが、呼吸と似た原理で魔素を得て活動するため、呼吸ができないと消滅してしまう。そのためポンポンポンとさらに次々に消えて行く

 少女は可愛らしく首を傾げた


「せっかく聞いてあげたのに」


 誰ともなく少女が呟くと、屋上への戸が開き、新しい黒子が入ってくる

 その黒子は紺色の装束に身を包んでいた

 再びどこからともなく現れた大量の黒子達は、その黒子の前に並んで道を作ると「大将!のお通りだ!」「道を開けろ!」などと口々に叫んだ

 普通の黒子は細見の長身であるが、この黒子は他と比べると少しばかり良い体格をしているように見えた

 大将と呼ばれるのもわからなくはない、しかし全員が黒子なのに道を開けて脇に控えるその光景はどこか滑稽で、少女は眉を顰めた


「黒子を虐めるのはやめるでゴザル!」


 大将と呼ばれた黒子が少女に向けて駆けだしたが、二歩分ほど動くと一時停止したように止まった


「り、理不尽でござる」


 一言だけ呟くとその黒子も花火のように弾け飛び青色の煙に変わる

 大将があっけなく倒される様子を見て入口付近で怯えている黒子の群れを少女はキッと睨む


「何が理不尽よ、やることやってないからでしょ!本体潰しに行ったって良いんだからね!?」


 端から見ればただの大虐殺だったが、少女の怒りは(つゆ)程も晴れなかった

 なにせ黒子は本体、というより使役者である頭領が作り出した雑兵に過ぎない、少々の手間で簡単に再生産される言わば人形だ

 言うなればこれは自分の溜飲を下げるためだけの茶番なのだ

 そう考えると少女はだんだん腹が立ってきた


 その怒りを感じ取ったのか慌てた様子で黒子が告げた


「そ、それはご勘弁をっ!」

「じゃあ早くユウスケを見つけてきてっ!!」


 長い髪の毛を逆立てて発光させながら、少女は叫んだ

 周囲を青白い光が満たす


「まっ、まつでゴザル!通信水晶(テレクト)で連絡が来たんでゴザル!見つかったでゴザルよ!!」


 また殺されると黒子達が怯えながら告げると、少女は動きを止めた


「ほんとに!?無事だったの!?」

「あ、当たり前でゴザルよ、だから言ったんでござる」

「何が当り前なの?ユウスケだって別に不死身じゃないんだから保証なんてないんだよ?わかってるの!?」


 確かにその少年は死ににくい体質をしていると言えた。物理的な外傷に強く魔術も効かない

 しかし例えば呼吸が出来なくなったらおそらく死ぬ。試したこともないし、試そうとも思わないが、不死身や無敵という類の人間ではないことを少女は知っていた

 そんなユウスケからコイツはいとも容易く監視の目を外したのだ。どこまで軽率なのだろうかと少女は再び怒りを再燃させた


 またゆらゆらと髪の毛を光らせ始める少女を見て、慌てて黒子は訂正した


「わ、わかってるでござる!!今度はヨシノから目を離さないでござる!!」

「ヨシノ?」


 言葉尻を捕まえた少女の眉がピクリと動くと、訂正した黒子はひとりでに凄まじい勢いで床にめり込み煙になる

 慌てて別の黒子が訂正を重ねる


「よ、ヨシノ様ですっ!」

「それでいいんだよ、ユウスケを呼び捨てにするなんて許さないからね」

「「「「はいっ!」」」」


 生命体ではないが、疑似的な感情のような物を有する黒子達は統率された動きで答えた

 それは恐怖心だったが、その様子をどう受け取ったのか、彼女は満足そうにうんうんと頷いた


「はぁ、まぁいいや、まったく、見つかったなら見つかたって早く教えてよね。無駄に怒っちゃった」


 少女はにこやかに笑った、「無事ならよかったよー」などと言っているが、黒子達を操っている頭領は、「(あるじ)が聞かなかったんでござろう?」と黒子に言わせたかったが、言えば黒子達がまた怒りのはけ口にされそうなので自制した


「……申し訳ないでござる」

「そもそもフェイがちゃんとユウスケに見張り(くろこ)をつけとけばよかったんだよ。勝手に外したりするから。なんのためにユウスケに仕事振る位置についてるの?考えてよね、ちゃんと」

「もしそんなことをしていたらヨシノ様はそのうち勘づくでござる。そしてきっと怒るのでござる」

「ユウスケはそんなことで怒らないよ」

「そうではなく、きっと()()()のように怒らせることになるのでござる、という意味でござる」


 痛いところを突かれたのか、少女は少し言葉に詰まったが、すぐに続ける


「……、……もしそうなったとしても、それは仕方ないよ」


 どういう意味で仕方ないのか、フェイと呼ばれた人物には推し量れなかった

 しかしこの見目麗しい大人しそうな少女は、彼のこととなると豹変することは知りすぎるほどに知っていたので、深く突っ込もうとは微塵も思わなかった

 やれと言われたらそうしておくにこしたことはない


「……前にも言ったでゴザルが、そもそも今の組織はヨシノ様のために作ったわけではないのでござる、ヨシノ様が契約を破ってしまうと直接力を貸すのは難しいのでござるよ」

「そんな契約内容にしてるから悪いんだよ!もっとユウスケに都合の良いのにしたらいいの!」


 無茶苦茶なことを言い出した少女にさすがにフェイは突っ込んだ


「そ、そんなファンクラブみたいな組織作ってもヨシノ様が入らないと思うのでござるが……」

「とーにーかーく!早いところユウスケを連れてきて!!、あと絶対に目を離さないように!!」


 少女にとって細かいことはどうでもよかった、大事なのはユウスケが目の届くところで活動していると言う事だ

 そうすれば万が一何かあってもすぐさま駆けつけることができる

 少年が束縛と過干渉を嫌う事を知っている彼女としてはそれだけは譲りたくないラインだった


 フェイに言わせれば既に十分過干渉なのだが、二日前につい言及してしまい半殺しにされたのでさすがに軽口は叩かない

 ただでさえこの少女がフェイの主だということも影響しているが、それだけではない

 この王国全体で見ても少女に逆らえる存在は非常に少ない

 なにせこの10歳を数えたばかりの少女は、現存する英雄の子孫の中で最強候補に挙がる程に単純に()()

 それはこのイグニス王国の中で絶対的な権限を与える、もはや称号と言っても良い物だ


「ぜ、善処するでござる」


 当たり前の事を思い出し、フェイは黒子達に深々と頭を下げさせた

 片目だけ開けてその様子を見ていた少女は少し考えると言った


「……それでユウスケは、今どこで何をしてるの?」

「南西にある流民村の一つに滞在しているようでござる」

「ああ、ユウスケがたまに行ってるところだよね」

「そうでござる」

「……どうしてこんなにかかってたの?いつもの仕事(案内人)だったら、遅くとも10日くらいで終わってる筈でしょ?」

「主の予想通りどこかで暴走していたみたいでござる」

「っ!やっぱり……また全分解(オーバーホール)しちゃったの?」

「今回はしていないようでござる、ただ、それで7日寝込んでいたとの報告が上がっているでござる」

「随分長いね」

「……」


 フェイは押し黙った。少年は暴走すると半日から長くても3日程昏倒する

 7日は近年だと一度もない長さと言えた。その原因は、ユウスケがある人物と魔素結合したことによる反動だとフェイは考えていた

 魔素結合は魔術の熟練者同士でも様々な症状を引き起こす可能性がある非常に扱いの難しい物だ

 それを魔術がまともに使えない少年が行ったのである、昏倒時間が伸びることは十分にあり得ると思った


 しかしそれをありのままこの少女に伝えることをフェイは恐れていた

 魔素結合は魔術師でなくとも男女の婚姻や契りの儀式として行われる誓いの儀のような文化的側面も持つ

 ただでさえ少年に執着している少女なのだ、それを少年がどこかしらの女としたとなると、それを聞いたとき、非常にやきもち焼きなこの少女が何をしでかすのか、そしてそれを誰が受け止めるのかと考えると、フェイはとてもではないが口にすることができなかった


「なんで黙ってるの?」

「……ヨシノ様のことをとても心配しておられるのだな、と思っていたのでゴザル」

「当たり前だよ。幼馴染なんだもん」

「もしヨシノ様に好きな女子(おなご)ができたらどうするのでござる?」

「……なんで急にそんなこと聞くの?」

「他意はないでござる」

「何回か言ってると思うんだけど」


 少女が黒子を指さすと黒子の体はフワリと宙に持ち上がった、そのままふわふわと上空に浮き上がる


「ユウスケは私と結婚するの!!馬鹿なこと言わないでっ!」

「ちょっ、まつでござるっ!わかったでござるから!」


 わたわたと黒子が空中でもがくと、その体が急に解放され、受け身を取って黒子は着地した


「次はやるからね」

「まったく、そんなことをしていたらヨシノ様に嫌われても知らないでござるよ。主様の手が早いところは短所だと思うでござる」

「……、……うるさいわね」


 少女は頬を膨らませるとぷいっと横を向いた。その顔はまるっきり年相応の幼さで出来ていて、黒子は微笑ましく思った

 


「では進展があったら報告は随時行うでござるが、主様はどうされるのでゴザルか?」

「明日から現場に出てくるよ、みんなに任せっぱなしっていうのも悪いしね」

「ではそちらの伝達もしておくでござる」

「お願いするね」

「任せるでゴザル」

「でもユウスケの方に何かあったら絶対にすぐに知らせること!いつでもだよ!」

「わ、わかってるでござる」


 いつもならとっくに帰ってきているがまだ帰ってきていない、と主に伝えた時のことを思い出して黒子達は怯えた、いや、本当に怯えているのはそれらを操っているフェイだったが

 その様子を見て少女が満足そうに頷くと、黒子は闇に紛れるようにして消えた


 一人屋上に残った少女は、再び屋上の縁に腰かけた


「今何してるんだろ」


 遠くにいる少年のことを思いながら、少女は明け方までその場を動かなかった

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