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神殺しのキングダム  作者: Reizen
一章 「邂逅」
14/18

邂逅Ⅶ 地図に無い村‐2

 ニニにツキナを預けたユウスケはそのままの足で酒場に向かった

 酒が飲める小屋と書かれた立て板が置いてある建物の前にくると少年は扉を開けた

 静かに扉を開けたつもりだったが、それでも相当ガタが来ている扉の金具がキシキシとうるさく音を立てる

 ぼろっちい木製の丸テーブルといつ壊れてもおかしくなさそうな三脚の椅子が並べられた店内には数人の客がいた

 音に吸い寄せられうように視線が入口に向けられたが、その音の原因がユウスケであると知るとすぐさま興味を失ったように霧散する


 ユウスケは探し人の姿をすぐに見つけて歩を進めた

 比較的マシな状態の椅子が並べられているカウンターと呼ぶにはかなり陳腐な造りの長机の端に座ると、日が落ちたばかりにも関わらず既に泥酔と言える状態になっている男にユウスケは話しかけた


「起きてるか、バック」


 男の前に空のコップが大量にあることから日中から飲んでいたことが容易に見て取れる

 面倒臭いなと少年は眉を顰めた

 そうでなくともこの男が酒場以外にいるところを少年は見たことがないのだが


 擦り切れが目立つ灰色の服を着た男は、机に顔面を突っ伏したまま答えた


「来ると思ってたよ」


 肩まであるボサボサの金髪を手で乱暴に掻きながら、男は上体を起こす

 現れた顔は無精ひげを伸ばし放題にしている中年男性の物だった

 バックはそのままユウスケを舐めるように見ると、再び前を向き店主に酒を出すように告げる

 茶色い陶器のコップがユウスケの前に置かれ、バックは再び注がれた自分のコップに口を付けた


 常に物資が不足気味のこの村では、ただ酔えるだけの糞不味い酒がほとんどであり、バックが飲んでいる酒もその類の酒の筈だが、一息で飲み干すと美味そうに溜息を吐く

 広がったアルコール臭に少年はますます眉を潜めた


 ユウスケが自分に出されたコップに口を付けずにいると、バックはユウスケの肩に手を回した


「なんだ、お前も飲めよ」

「いらない」

「ああ?俺の酒が飲めないってか?」


 露骨に気分を害したようにバックが続けるので、相変わらず面倒臭いなと思いながら一息に飲み干す

 少年の様子に満足したのか、バックはにへらと笑った


「相変わらず良い飲みっぷりだ。このクソ不味い酒を一気飲みできるのはここじゃ俺とお前くらいだな」

「そうか」

「なんだ、面白くねー奴だな」


 バックが店主に再び注ぐように手招きしたのでユウスケはそれを手で制した


「やめろ、俺は話に来たんだ」


 大して気分を害した様子もなく、バックはチラリと少年を見た

 つい先ほどまでふざけた笑みを浮かべていた人間と同じとは思えない真顔を作る


「ああ、そういえばお前、頭領を裏切ったんだってな?」

「裏切ったとは人聞きが悪いな、ちょっとした方向性の違いだ」

「同じようなもんだろ」

「黒子が来たのか」

「来てないわけねーだろ、とっくだよ」


 通りで村の連中の視線がおかしかったわけだとユウスケは納得した

 情報が入ってこないことがすぐさま死活問題になるこの村では、情報に通じる物は最上級の待遇を受ける

 つまり仲介人でありながら黒子を使った情報屋としての仕事も営んでいる()()と仲違いをしたことが知れ渡り、関わりたくない者が大半を占めているということだろう


 その可能性も十分にあるとユウスケは考慮していた

 その上で村の機能の中核を担っている数人が変わらずの態度であれば問題はないと結論している

 この村では自分と同じ仲介人繋がりである情報屋のこの男(バック)もその内の一人だった


「それで俺のところに来たってことは代わりに情報が欲しいってことか」


 さすがに察しが良く、ユウスケは頷いた


「いいぜ別に、頭領も駄目だとは言ってなかった」

「だろうな」


 もし頭領に自分をどうにかするつもりがあるのであればそれこそとっくにどうにかなっている筈だ

 それほど頭領と呼ばれる人物の影響力は大きい


「だけど高いぜ」


 男が浮かべるいやらしい表情にムカつくが、自分も逆の立場なら同じことをするので文句も言えない

 逆に容赦なく足元を見てくる姿勢が清々しいとすら少年は思った


「仕方ないな」

「……と言いたいところなんだが」


 バックは途端に面白くなさそうに眉を顰めた


「どういうわけかその後に来た黒子に協力しろと言われてる、だから無料(タダ)でいいぜ」

「……なに?」


 今度はユウスケが眉を顰める番だった


「意味がわからん。無料?ふざけてんのか?」

「俺が聞きてーわ、だがマジでそう言ってた、なんでこんなサービスされてんだお前」

「なんだそれ?俺はハメられのか?」

「そんな回りくでーことすると思うか……?だいたいこれが罠だったら引っかかるのかお前、そんな馬鹿いると思えないがね、俺は」

「……」


 まったくその通りだと少年は思った。これを怪しく思わない者などいるわけがないことが逆に罠ではないということの証明になっていると言っても過言ではない


「にしてもなんの対価もらいないってことか?あり得ないだろ」

「さぁね、俺はまだ旦那と仲良くやっていきたいんでね、やれと言われたら黙って従うさ」


 ユウスケは困惑した。

 どう考えても話が上手すぎる。頭領には何もメリットがないような気がする

 もしメリットがあるとしたら、と考えてユウスケが思いつく可能性は一つしかなかった

 あの玉だ、あれを持ってきてほしいということだろうか?


「その話が来たのはいつなんだ」

「三日くらい前だったな」

(違うか……。それじゃあ時期が合わない)


 そもそも玉が欲しいのであれば直接自分のところに黒子が来るはずだと少年は思い直した

 頭領が何を考えているのかサッパリ見当がつかなかい、まさか頭領に限ってただの人助けということもないだろう

 考え混み始めた少年をよそに、性懲りもなく酒を煽るとバックは続けた


「お前監視塔を越えるための情報が欲しいんだろ」

「ああ、そうだ」

「俺のところ来たのは正解だったな、かなり配置が変わってるぞ」

「やっぱりか」

「ここんところ大きな事件がいくつか連続で起きてるからな」

「ジャガージャックのことか?」


 さすがにそれは聞いてるかとバックは頷く

 本当は交戦した後に知ったんだと言ったらバックがどれだけ仰天するか見てみたところだったが

 案内人としては恥とも言える失敗談なのでみすみす自分から言う気にはなれない


「まぁそれだけじゃない、帝国と王国の軍隊が合戦をするらしいぞ」


 ユウスケは初耳の情報に黙って先を促した


「小競り合いが続いていたウェロキロ山脈の付近で争いが激化してるって話だ。王国は正式に援軍を出すことにしたらしい、それに合わせて帝国も動かすんだと」

「なんでまた、引き金になるようなことでもあったのか」

「付近の領地の貴族が巻き添えで死んだ」

「なんでわざわざそんなとこ行ったんだよ、アホか」

「小競り合いを潰して点数稼ぎでもしようとしたって見方が強い、没落したと言っても良いイェーツ家だからな」

「それで死んでちゃ意味ないだろ」

「ともかくそんなワケで西全域の監視塔は現在フルで活動中なのよ、お前が予定してたルートじゃ絶対無理だぜ。使うのは運河沿いだったんだろ?」


 少年は頷く。どうして止む無く使おうと思っていた順路まで調べているのかと驚くが顔には出さない

 やはり軽率なルート選択だったかと少年が軽く後悔していると、その考えを読んだかのようにバックは言った


「別に間違っちゃいない選択だったと思うぜ、俺でもそうしたろうな」


 そういう意味では大森林の中で止まれたのは逆に幸運だったのかもなとユウスケは思った

 まぁ自分の運というよりはツキナが持っている運と言うべきだが

 考え無しに危険な目に合っても今のところ問題なく通り抜けている彼女は、そう考えるとかなりの強運に思えた


「……、……案外適当にやってもなんとくでたどり着けるのかもな」

「はぁ?あるかよそんなこと、なにらしくねーこと言ってんだ」

「そうだな、すまん、忘れてくれ」


 調子が狂うぜと言いながらバックは続ける


「それでいつ出るんだ」

「最初の予定通り明日かな、どうせしばらくは警戒態勢なんだろ」


 そもそもここは長居に適した環境とは言えない場所だし待っても変わらないなら早い方が良い

 概ね同じ考えのバックは頷いた


()もいるんだろ」

「手配できるのか……?」

「協力しろってことはできる事はやれってことだろ?やれることはやっとかないと後が怖いからな」

「それは助かる」

「個人的な感謝料をくれても良いぞ、酒で払え」

「か、考えとくよ」


 ユウスケはそれだけ言うと立ち上がった

 細かい都合はつけなくても良いようにやってくれるだろうという信頼はある

 もっとも、この男が信用できるのは仕事面だけで、それ以外では絵に描いたような駄目人間なのだが

 これで昔は王国の正式な騎士団に所属していたのだというのだから、人間とは不思議な物である


「じゃあいつも通りに頼む」

「あいよ。……なぁ」


 立ち去ろうとしたユウスケはバックに呼び止められ振り向く


「ん?」

「なんでお前旦那と揉めたんだ」

「聞いてないのか?」

「ちょいとだけ聞いた。旦那に睨まれたら案内人は続けらんねーぞ」

「だろうな」

「辞めるつもりか?」


 少年は少し考えたが、すぐに返答は思いつかない

 長くなりそうだと思って体ごと向き直ることにした


「どうだろうな」

「なんだそりゃ」

「強いていうなら、勢いに負けた」

「勢いってお前」

「……、……もともとやりたくて始めたわけでもないしな、俺には目的もある」


 少年の言葉に、そういえば、王国では例の時期かとバックは思い出した


「まだ諦めてなかったのか」

「クビになったんだし、他にやることもないしな」

「今年もそんな時期か、早いもんだねぇ」

「俺にとっては初めてだけどな」

「ふーん。好きだねぇ。まぁ出戻りに期待しとくよ」

「……嘘でもそこはゲン担ぎとかするもんだろ?」


 早くも失敗を予見しているようなバックの態度に溜息が出るが、その可能性が高いことは少年も理解していた。それでもこの件に関してはやらないという選択肢は頭にないのだが

 今年はいろいろと()()と違うことが起きている、もし()()と同じ結果になった場合、今後の生活にどう影響が出るのかと考えると少年にも若干の不安はあった

 まぁそれについては考えても仕方なのないことなのだが


「まぁ、なんにしてもこの最後の仕事をキッチリ終わらせてからかな」

「なんだよ、やっぱり辞める気なんじゃねーか」

「そういうわけじゃないけど」


 バックは何かに気付いたようにニヤリと笑った、とても下世話な笑みを浮かべている

 ユウスケは嫌な予感がしたが、話を切り上げるには難しいタイミングで逃げようがなかった


「さては依頼者は女だな」

「おい、仲間の仕事について探るのはご法度じゃないのか」

「いいだろ、お前もうクビなんだし。なにより俺はお前と違ってそんな拘りはない、面白そうなことは調べる趣味なんだ」

「やめろやめろ、早死にするぞ」

「それが不思議なもんで、こんなおっさんになってもまだくたばってない。それでどうなんだ、女か」


 どこまで本気かわからない言い方にユウスケは困惑した

 隠しても本気で調べればすぐわかることなのでやるだけ無駄かと思い、少年は諦めたように返した


「……はぁ、そうだよ。でもお前が思ってるようなことはない」

「あんなに小さかったお前も、女に惑わされる年になったってわけか」


 まぁ、今でも十分小さいけどなガハハハと気分よく酒を煽る姿がとてもウザイ

 もはやただの悪酔いして絡んでくる酒場のオヤジだ、いや、まさにそのものではあるのだが

 自分が標的にされると面倒なことこの上ないなとユウスケは思った


「その小さかった子供に泣きついて出して貰ったお前はなんなんだよ」

「あの時はたまげたな、まさか案内人がこんなガキだとは思わなかった」


 皮肉のつもりで言った少年だったが、バックは過去に思いを馳せるように眼を瞑ったあと、何やら語りだした

 第一印象が最悪だったとか、ガキの癖に偉そうだったとか、それで口論になったとか

 酒の肴を与えてしまったようで、とても楽しそうに昔話を始める


 どうしたもんかな、とユウスケは思った


 たしかにバックは自分が案内したうちの一人だった。記録を読んでユウスケもその情報は持っているため話を合わせることは容易い。しかし魔術暴走の最悪の形、全分解オーバーホールにより記憶を失ったため、自分に当時の記憶はない。あくまで記録を読んで知っているだけだ

 その自分が話を合わせるのは、「騙そうとしていることになるのではないだろうか」という疑念がユウスケの脳裏を過った

 知ってはいるが厳密に言えば自分ではない

 酒に酔い、昔の事を懐かしんで話をしているこの男、今、目の前で楽しそうに話しているこの男は、果たして本当に()()()()とそのことを話したいのだろうか?

 そんな考えが浮かぶ


 結局少年は答えを出せず、沈黙する形になってしまう

 その様子をどう受け取ったのか、気付いたバックは少し申し訳なさそうに言った


「わりーわりー、一人で盛り上がっちまったよ」

「……バックが飲んでるときはいつもそうだろ」

「まぁ、えっと。なんだったか、そう、あれだ、お前も男なんだから女追っかけるのも悪くないぞみたいな話だったか」

「そうだったっけ……?」


 お前の中ではそういう話をした気になっているのか?とユウスケは露骨に皺を寄せた

 別のことを考えていた少年は完全にバックの話の後半を聞いていなかった

 バックはジロリとユウスケをねめつけた


「やっぱり聞いてなかったな」

「ちょ、ちょっと考え事してたんだ」

「っち」


 バックは露骨に嫌悪感を示すと舌打ちをした

 どうやら皮肉を言うのは有りでも聞いていないのは無しのようだ、酔っ払いの線引きは読み辛いと少年は思う


「……、……話が終わったんなら行くぞ」

「ああ、行け行け、どにでもな」


 バックは掌をひらひらと振ってみせたので、話すべきことを話した少年は退散することにした。

 早足に少年が店から出ていくと、彼が来た時と同じくキシキシと扉が音を立てた

 その扉をじーっと眺めたあと、バックは呟いた


「難しく考えやがって、相変わらず馬鹿だな」


 しばらくすると興味を失ったのか、バックはカウンターに向き直った

 空になっているコップが視線に入る


「おいマスター、もっとガンガン注げよ」


 注がれた酒を一口で飲み干すというやりとりを二十ほど繰り返したあと、バックは立ち上がった

 不味いとは言え大人ですら2杯で充分酔えるほどの酒を、とんでもない量飲んだ筈だが、ふら付くこともなく微塵も酔いを感じさせない態度で立つ

 浮かべている表情はユウスケと話していたときとは比べ物にならないほどに引き締まっている


「働いてくるか」


 どんぶり勘定で代金を適当にカウンターに置いたあと、隣りの椅子に置いていた自分のローブを羽織って、バックも店を後にした

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