邂逅Ⅶ 地図に無い村‐1
結局ユウスケが考えた最速の移動手段は「ヒイヅキに運んでもらう」という考えた自分が死にたくなるような物だった
次点として「ヒイヅキが紐を持ちその先に板を括りつけ乗る」という方法も考えたがそれはツキナが当然のように却下した
しぶしぶおぶさったが未だ打開策を練っていたユウスケは溜息を吐いた
「つっても結局これしかないからな……」
「ちょ、ちょっと!変な息当てないでよ!」
「頑張るんだヒイヅキイチゴー」
「今度ふざけた名前で呼んだら捨てるからね」
ちょっとした冗談なのだが本格的な怒気が含まれているのを感じとりやめる
真面目な声でユウスケは言った
「まぁ幸いなことにここはイグニスと大森林の緩衝地帯を抜けきってはない、注意深く警戒すれば着けるはずだ」
「着けるってどこによ」
「地図にない村だよ」
「地図にない村?」
《王国》の国土は広大だ。どれくらい広大かと言えば近隣で王国と長年覇権を争っている《帝国》の国土の約15倍
小さい国であれば30~100倍程度の領土を有する
非常に厳重な管理社会ではあるが、その広さ故か全ての国民が完全に国の方針に賛同しているわけではなかった
そう言った流民に身を落とす人々はあらゆる方法で国内からの脱出を試みるが、別の国に行く者もいればそうでない者もいる
そしてそうではない者達はいつしか比較的法の抜け道ができやすい独立自治領の周囲に集落を形成するようになっていた
まともな政務官や巡回兵がくればすぐさま消滅する、存在自体が幻のような村落である
その中の一つをユウスケは目指していた
一つは深刻な情報不足を実感したことと、ついでに装備とアイテム、ジャガージャックに押し付けられた玉についても何かわかればいいかと思ったのが大きい
「まだ残ってると良いけどな」
「なかったらどうするの?」
「装備がない状態で国境を抜けるのはとてもじゃないけど無理だな」
第一ジャガージャックは確実に王国の領土内に逃亡した筈だ
ただでさえ西側の帝国との情勢が不安定化しつつあったのだ、どういう変化が起きているか見当もつかない。王国の部隊の動きは絶対に調べなおす必要があるとユウスケは確信していた
「そうなんだ」
つまりユウスケの話を総合するともし村がなかったら入国が更に大幅に遅れるということに気付き
ツキナは声のトーンを落とした
その様子に気付いたユウスケは言った
「……心配するな、なかったらなかったでなんとかするさ」
「……」
さすがにツキナも深刻な状況だということを把握したのかテンションが低い
なんともやりにくいなと少年は思った
考えてみれば反省する部分は多々あった
そもそも仲介人からは黒子を通じて様々なリアルタイムの情報と不測の自体に遭遇した時の援助をされていた
今回はそれがないのだから、もう少し自体の変化に敏感に適応するべきだったのだが、自分の経験を過信し過ぎて慎重さを失っていたと言わざるを得なかった
ユウスケは元来、自分にはできないことが多いと自覚しているつもりだった
いくら適正があっても大きな欠点を抱える自分は間違いなくハイスペックな案内人ではないと思っていた
だからこそしっかりと準備し、計画を練るようにしていた筈だったのだが
それが慣れない事をやるとこの様だと自嘲するしかない
ユウスケはとても小さな声で言った
「悪かったな」
「え?何が?」
「……なんでもない」
◇◇◇
地図も方角も見ていないのに迷わず支持を出し続ける少年に案内され、その場所に着いたのは夕日が沈み始めるころだった
そこにあったのは森林の終わりに隣接するように立っている小屋の群れだ
遠くからでもその粗末さが見て取れ、まさに掘っ立て小屋と呼ぶにふさわしいみすぼらしい家屋がいくつも並んでいる
柵か塀のつもりなのかわからないが、村の周りには一メートル程度の棒が点々と囲うように刺さっているようだった
ツキナはそれが見えた瞬間に足を止めた
「あれ?」
「あれだ。若干位置が変わってるけど、あったな」
促されてツキナはユウスケをおろす
何度か休憩を挟んではいたが、かなり汗を掻いていたことに気付き少し恥ずかしくなる
そんな様子に全く気付かないユウスケはツキナに「服がボロボロすぎる」と言う理由で貸されていた赤いローブを突き出した
「これ着とけ。しっかりフード被ってろよ」
「え?あ、うん」
「あと、この球も見られないようにしとけよ、明らかにパッと見が金目の物だ」
「ええ?ローブの中に入れてたら私が太ってるように見えない?」
「……あんま変わらないから大丈夫だろ」
「ど、どういう意味よ!」
こいつ本当にくだらない事を気にするなと少年は呆れるようなジト目を作った
ツキナにとってはそれなりに重要なことだったが少年の顔つきに負けていそいそとしまい込む
それを見て少年は夕日に染まった道を歩きだした。慌ててツキナも続く
「今日はあそこに泊まることになるから、気を抜くなよ」
「随分と物騒な言い方ね」
「普通の奴だったらなんともないと思うが、お前は普通の奴じゃないからな」
ツキナはその言葉の意味がわからず首を傾げた
建物に近づいてみるといくつかの建物は動物が引いて動けるような構造になっていることに気付く
何かあったら村がなくなるとはそういうことなのかとツキナは納得した
しかし腑に落ちないのはそこにいる人々の視線だ、パッと見ると広場には20人程度がいるようだったがなんだか全員から奇妙な視線を送られている
かといって挨拶をしてくる気配もない、様子を伺われているように思えてツキナはなんとなくバツが悪かった
「見られてない?」
「気にするな、よそ者が珍しいだけだ」
ユウスケはそれらの視線を意に介さず堂々と歩くと、ひときわ大きい小屋の一つとなりの小さい小屋に入った
そこは店だった。ツキナには用途がわからないアイテムや宝石が並べられた商品棚がそれなりに綺麗に陳列され、ハリボテのような無残な店の外装からは想像もつかないほどの無数の商品が置かれている
「お店?」
「そんな感じだ」
「『そんな感じ』じゃない、ちゃんとした店だよここは」
「っ!!」
突如聞こえた声にツキナは驚いてユウスケの服を掴んだ
彼女が視線を向けると、彼女の眼をしてなおまるで存在を感じられなかった老婆が
棚が並ぶ店の最奥にあるベンチに座っていたことに気付く
紺色のローブを着た白髪の老婆だ、耳に沢山のリングをつけている
「よう」
「今回は遅かったね。死んだかと思ったよ」
「いろいろあってな」
「らしいね」
老婆は何が面白いのかクックックと含み笑いを浮かべる
「ボロボロの服の代わりが欲しいのかい」
「それも欲しい」
「他は?」
ユウスケは自分が身に着けていた装備品を外すと机に置いた
「魔結晶の補給と、適当にこれらの代替と、後はそうだな、バックはいるか」
「いるよ」
「それはツイてるな」
「宿はどうすんだい」
ユウスケはチラリと後ろを見て言った
「……どっちでもいいんだけど、たまには使ってやるか」
老婆はユウスケの服を掴んでいるツキナの手を見ながら意味深に言った
「その様子だと一部屋で良いね」
「っ!!」
ババッとツキナが手を離した。触っていませんよとアピールするように両手を後ろに回す
クックックと老婆がまた笑う
何やってるんだコイツとユウスケが呆れていると、小屋の中にユウスケより少し小さい男の子が入ってくる
男の子はユウスケを見つけると可愛い顔で笑った
「あ!兄ちゃん!」
「よ」
「やっぱ帰ってきてたんだ」
「俺の家はここじゃないぞ……」
「そんなのどっちもでいいよ!」
だだだと走ってきたのでツキナは慌てて飛びのく、男の子はユウスケに飛びついた
金髪の短髪の少年で、耳が長い、もしかしてエルフ?とツキナは思った
男の子はツキナの視線に気づいて首を傾げた
「兄ちゃんこの人だれ?」
「ああ、こいつは、俺の、……俺の知り合いだ」
依頼人だ、とまさか言うわけにもいかず、ユウスケは言葉を濁した
「へぇ?」
「へぇ?」
男の子とツキナは同じ言葉を全く違う感情を込めて返した
一人は興味で一人は不服だった。ツキナは少年に一歩近づいて言った
「そうよ、私はヒイヅキツキナ、この子の知り合いよ」
フードの下の眼差しが自分に向けられているような気がしてユウスケは言葉に詰まった
だったらなんて言えば良かったんだよと言いたくなる
「ツキナ?へぇ?この人が?」
「いや、ニニ、そのお前が考えてる奴は多分違うぞ」
「え?そうなの?あ、俺はニニって言うんだ、よろしくね」
「よろしく、ニニはエルフなの?」
「そうだよ」
ニニとツキナが会話し始めたのを見て、ユウスケは丁度良いと思った
「あ、そうだ、ニニ、俺バックのところに行ってくるから、こいつの相手しといてくれ」
「えー!兄ちゃんも話そうよ!」
「後でな、こいつここに慣れてないんだ。任せたぞ」
「絶対だよ」
ニニは頬を膨らませながら言った。ユウスケは少年の頭を撫でる
珍しく優しい顔つきをしているのがツキナにとっては印象的だった
「あとヒイヅキ、その婆さんと、ニニ以外に話しかけられても相手をしないようにな」
「うん?うん」
「腹が減ったら宿屋で食えるから詳しくは婆さんに聞け、つっても隣りだけどな」
いつの間にか老婆が並べていた商品を受け取り身に纏いつつ、早口でユウスケは言った
「ユウスケはどうするの?」
「いろいろしてくる」
「もうちょっとちゃんと教えて欲しいんだけど……?」
ユウスケは首飾りをツキナに渡した。エルフの村にいた時に渡された物に似ているが、形が少し違う。
受け取った彼女はとりあえず首に掛けた、きっとこうしろと言う事なのだろう
それを見るとユウスケは早足に去って行ってしまう、残された少女は呟いた
「ユウスケってそういうところあるよね……」
同じ扱いを良く受けるニニはこの人も仲間だなと思った
「兄ちゃんそういところあるよね」
「そうなんだよね。……そういえば兄ちゃんって呼んでるけど、兄弟なの?」
「んーん。そう呼んでるだけ。姉ちゃんはどうして兄ちゃんと一緒にいるの?」
「私?私はー……」
なんと言った方が良いのだろうか、正直に言わない方がやっぱいいよね?
言ったらユウスケ超怒りそうだしとツキナは考えた
すると横から老婆が言った
「こらニニ、首を突っ込むんじゃないよ」
「えー良いじゃん別に」
「よかないよ」
「えー、そうだ、婆ちゃんうるさいし外行こうよ」
「えっ!」
「じゃねー婆ちゃん、大丈夫だよ!俺がちゃんと見とくから!」
返事をする前に手を引っ張られ外に連れて行かれる、見た目に反して強い力にツキナは少し驚いた
老婆はやれやれと頭を振りながら見送った
◇◇◇
エルフの少年に連れられて来たのは小屋の裏手にある畑のようなところだった
畑だと断言できないのは仕切りなど何もなく唐突に植物が生えているからだ、一応列はあるようだが
すっかり火が落ちていたため少年は傍にある篝火に火をともした
「これ育ててるの?」
「そうだよ、これはヴェグだね」
「へぇ!これがそうなんだ、初めて見た」
ヴェグと言えば王国の特産品であるヴェグの枝の原料となっている植物だ
ユウスケが吸っているのを何度か見たことがある
「ここにあるのは兄ちゃん専用だからあげられないけどねー」
「あ、ユウスケが吸ってるのってここのなんだ」
「そうだよ、兄ちゃんケチだからさー、全然お金を使わないんだよね、遊びに」
だから無料だったら貰ってくれるかなーと思って育て始めたんだとニニは言った
「いつかはこの畑を大きくして大商人になるのが俺の夢の一つ!」
「叶うと良いわね」
「……、まぁ現実は甘くないけどね」
楽しそうに話していたニニが苦笑いを浮かべた
「姉ちゃんって兄ちゃんが案内人やってるのは当然知ってるんだよね?」
「あ、うん。知ってるけど」
「俺もともと王国民で、兄ちゃんに外に出してもらったんだ」
「そうなの!?」
「そうだよ、というかこの村だと半分くらいはそうなんじゃないかな」
「いつ出てきたの?」
「2年くらい前かな?」
「そんなに前からやってるんだっ!?」
「そうだよ?あれ?聞いてなかった?」
少し気にしている点を指摘され、ツキナは視線を逸らした
「うん。ユウスケってあんまり自分のこと話さないから」
「あー……そうだね。兄ちゃんけっこう素っ気ないところあるよね」
「同感ね」
やれやれと話すニニにツキナは仲間意識を感じる。この様子からしてかなりユウスケと仲が良いようだと思った彼女はもしかして知ってるかもと思い訊ねた
「そういえば机上の魔術師って何のことか知ってる?」
「え」
ニニの顔が少し驚いたような物になる、意味がわからず彼女は続けた
「ユウスケがそう呼ばれたっぽかったんだよね、何か知ってる?」
「知らないの?」
「知ってたら聞かないでしょ」
「ふーん。なるほど、そういうことか」
ニニは納得したように呟くと、スタスタと歩き始めた
「いいよ、こっちきて」
「??」
敵意などは見えないので大丈夫だろうと思いとりあえず言われたままに付いて行く
ニニは店の隣にある小さな小屋に入った。後に続いて中に入る。ベッドと棚と机がある簡単な部屋だった
「お邪魔します」
ニニは棚から何か取り出して、一冊の本をツキナに投げて渡した。受け取って視線を落とす
「何これ」
「魔術の指南書の一つだよ」
「へー?」
ツキナはパラパラと捲る。非常に簡単な魔術からそれなりに難しい魔術までいろいろと書かれているように見える、しかしこれが何だというのだろうか
パタンと閉じて表紙をみると、そこには「魔術が使えない人のための魔術式指南書1」と書かれている
「これがどうしたの?」
「もっとちゃんと見てよ!著者だよ著者!」
「著者……?っ!?」
そこには人間文字でしっかりと「ヨシノユウスケ」と書かれていた
「これ、ユウスケが書いたってことっ!?」
「そうだよ。言っとくけどかなり売れたシリーズなんだよ」
「えええっ!?」
ツキナは読みにくかったのでフードを脱いでからもう一度1ページから読み始めた
最初は魔術の概念などの基礎知識から始まるようだった、一度も魔術を習ったことがない自分でもわかる程度に噛み砕かれて書かれている
それらを読んだ上で、試しに一番最初の魔術式とやらを発動させてみようと試みる
「《陽光》」
「うわっ、家の中で使わないでよっ!」
これまで自分が使っていた《陽光》とは比べ物にならない程の大出力の《陽光》が発生する
なるほど、これが魔術式という奴なのかと感覚的にツキナは理解した
以前に行っていたやり方より魔素が効率的に使われるおかげで少ない魔素で発動させられ、しかも早い、概念を固定化する必要がないからだ
「これが魔術式……、凄いわね!」
「いいから《陽光》消してよ!」
目を手で抑えても掌越しに網膜を焼きそうな《陽光》にニニが悲鳴のような叫び声をあげた
言われてようやくツキナは《陽光》を解除した
「ふぅ、もう、とんでもない人だね」
「ごめん、加減がわからなかったんだよね」
あははとツキナは屈託なく笑った、笑いごとじゃないよ!とニニは怒る
「あとでちゃんと全部読みたいわね」
「じゃあ貸してあげようか?」
「えっ、いいの!?」
「良いよ。俺はもう中身全部覚えるくらい読んだからね、ちなみに出てる分は揃ってるよ」
そういうニニは何故か自慢気だった。ユウスケの事が大好きなのかもしれない
しかしその顔はしばらくすると何かを思い出したように、少し寂しい表情になった
「まぁつまりそれが理由だね」
「ふーん?なんの?」
「……?姉ちゃんってひょっとしてちょっとお馬鹿?どうして机上の魔術師って呼ばれてるかだよ」
ツキナは完璧に忘れていたが、できるだけ表面にださないで頷く
「あ、ああ……そうだったね」
「兄ちゃんはすっごく頭が良かったんだけど、知ってると思うけど魔術使えないんだよね
だから、皮肉なんだよ、机の上でだけ魔術師みたいに振る舞えるっていうね」
「……」
「それだって書いたの兄ちゃんが7歳の時だからね、相当悔しかった人がいたんじゃないかな」
出た当初は大絶賛されたシリーズであったが、書いている本人が魔術が使えないということが知れ渡るとその売り上げは徐々に伸びなくなった
内容は素晴らしい物でケチの付けようがなく、実際その本のおかげで多くの人が魔術を使えるようになった筈だが、だからこそ面白くなかった者がいたのかしれない、とニニは語った
ツキナはなんというべきかわからず、重苦しい沈黙が部屋に満ちる
気まずさを紛らわせるように本に視線を向けてパラパラと捲る
「……ユウスケってどうしてこの本書いたのかな」
前書きには「魔術の才能に恵まれない全ての者へ、回答の一つとしてこの本が役立てば幸いです」とだけ書かれている
「兄ちゃんって記憶喪失になる度に結構人格変わるからなぁ、想像できないよね」
なんだかニニの口から衝撃的な一言が聴こえた気がしてツキナは視線を向けた
「え?」
「いや、だから、兄ちゃんって。あっ、もしかして知らなかった?」
不味いこと言ったかなとニニは口を噤んだ
机上の魔術師に関してはわりと知られていることだが、記憶喪失の件はあまり知られていない
本人が言ってないのであればペラペラ話さない方が良いのかなと既に十分ペラペラ話しているニニは思った
「ユウスケは何回も記憶喪失になってるってこと?一度とかじゃなくて?」
「いや、ちょっと兄ちゃんから聞いてないなら俺は言わない方が良いのかななんて」
「は?気になるでしょ、言ってよ」
「え、ええ……」
「お願いお願いお願い」
手を合わせて拝みこんでくるツキナの姿にニニは困った
そんなに知りたいのかと、確かに兄ちゃんもこの姉ちゃんにはそれなりに気を許しているようだしまぁ良いか?と思わなくもない
「そ、そうだよ。俺が会ったときに既に10回くらいはしてたんじゃないかな」
「そんなに……」
「兄ちゃんって魔術使うとだいたい暴走しちゃうじゃん、それって普通だと止められなくて死ぬよね?だけど兄ちゃんって体質が関係してるのか死なない代わりに記憶喪失になるらしいんだよね」
「そ、そうなんだ……。……」
「だから俺も、……何回か忘れられちゃってるんだ」
あはは、と少年が笑った。まったく感情の籠っていない笑顔である
つまりユウスケは魔素食いと戦ったときに記憶喪失のリスクを負っていたということだ、いや、そもそも本当に暴走して死なないのだろうか、死ぬという状況を必死に回避しているだけなのではと思ったりもする
実際のところは聞いてみないとわからないが、本人も忘れてしまうのでは聞いてもしょうがないのかと思い至る
考え込んでいるとニニが続けた
「まぁそれでも、兄ちゃんは根本的なところは全然変わらないけどね」
「そうなの?」
「あの偉そうな感じとちょっと抜けてるところはだいたい同じだよね」
悪戯っ子のような笑顔見せるニニ
それが根本的だ部分だと言うのは酷い言い様だと思ったが、その笑顔につられて笑う
「あはは、それはそうかもね」
「だよね」
ひとしきり笑った後にツキナは続けた
「まぁ私はユウスケにけっこう感謝してるんだけどね」
「……姉ちゃんってもしかして現在進行形で案内されてるの?」
色々教えてもらったし、答えないのも悪いかなと彼女は思った
「そうだよ」
「やっぱりね、机上の魔術師を知らないなんておかしいと思ったんだ」
ああ、あの時の納得はそういうことだったのかとツキナは得心する
「でも珍しいね、兄ちゃんが依頼人を連れてくるなんて、何かあったのかな」
「私がいろいろやっちゃったからね……」
「え?そうなの?」
「まぁ、いろいろと……」
ツキナはバツが悪そうにこれまでの顛末を簡単に語った。一通り聞いたニニは呆れた
「よ、良くそれで兄ちゃんが案内を続けてるね……」
「やっぱりそう思う?」
「俺の時は契約精霊がなかったんだけど。今ってしてるよね、それって契約に普通に違反してないの?」
「え?」
「一人面倒なことになったからそれからやってるって言ってたけど」
しばらく考えてツキナはそんな内容で止められたことがあったのを思い出した
「そういえばやったわね?今どうなってるんだろう、特に何もないけど」
「……姉ちゃんって本当に兄ちゃん怒らせるの上手そうだね」
「そ、そんなつもりないんだけど!」
全部計画通りにしたい派の兄ちゃんが良く相手してるなぁと少年はしみじみ思った
じっと観察してみるとエルフの自分から見ても美人に見えるツキナの整った容姿もあり
裏表のなさそうな性格から、もしかして兄ちゃんこの人に惚れたのかなと邪推したりする
エルフの少年は胸の前で手を握り何やら祈りだした
「何してるの?」
「精霊に祈っておこうと思って、兄ちゃんに良い事ありますようにって」
「私もしとこうかな」
精霊って何をどう祈れば良いのかよくわからないけどと思いながらツキナも手を合わせる
ツキナとニニはしばらく祈りを捧げた




