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神殺しのキングダム  作者: Reizen
一章 「邂逅」
11/18

邂逅Ⅵ 獣人と機族 前編

 ユウスケは獣人達がいる側とは逆についてある扉を使い外に出ると、地面に魔結晶を埋めた

 神経を尖らせつつも、あぁ最悪だ、と思う


 まず第一に戦闘力が高いことで有名な獣人と戦闘する展開がほぼ確定したこと、これは最も避けたかったことの一つだ。獣人は戦闘力が高いだけでなく、同族思いで尚且つ優秀な追跡能力を持っている。下手に倒すとそれはそれで非常に面倒なことになる

 二つ目は自分が何故あんなことを言ってしまったのかということ

 冷静に考えればツキナが泣きわめこうが避けさせるべきだったのだが

 それが彼女の涙を見た瞬間に論理的思考は吹っ飛び是が非でも協力するという勢いに変わってしまった

 助けてくれなんて懇願されたわけでもないのにである。まぁそんな懇願されていたらきっと手伝っていなかっただろうとは思うが

 そして三つ目は、これが一番厄介なことだが

 ならず者は()()()()()()()()()()、ということである

 ツキナは単純なので間違いなく獣人が悪人だと思っているだろう。先ほどの様子を見るに、それは大きく外れてはいないと思うが、この馬車の事情を考えると、必ずしも盗賊の類ではなかったとしたら、これまた大問題だ


 もし()()()()()()()ツキナは何をどう思うのだろうか

 竹を割ったような性格の彼女のことを思うと、不安な思いが拭いきれない

 できるなら外れていて欲しい予想だと少年は強く思った




 ◆◆◆




 ツキナは獣人側の馬車の扉を凄い勢いで開けた、もとい、蹴破った

 《補助(アシスト)》により増加した脚力で蹴られた扉はそれなりに凄まじい勢いで吹き飛んでいったが、難なく小柄な獣人の一人に弾き飛ばされる

 とは言えその中で小柄と言えるだけであり、獣が二足歩行で歩いているようにしか見えないその姿は人間と比べると遥かに大柄で2メートルはある黒い狼だった。リーダーの茶髪の(たてがみ)を持つ獅子に至っては3メートルはあるだろう

 獅子のリーダーが一人と、狼と熊が数名ずつからなる獣人の集団だった

「特に熊はヤバイ」とユウスケが言っていた事をツキナは思い出す

 全員の視線を一手に集めて、こう言った局面で物おじしない性格のツキナも、さすがに背筋に嫌な物を感じるのをハッキリと自覚した


 獣人特有の小さいく引き絞られた瞳孔がいくつもこちらを射抜くように見ている様はそれだけで威圧感を覚える

 もっとも今のところその視線からはこちらへの敵意の()()は感じない


(そうだ、ユウスケに言われたことはやっとかないとっ)


 歩きだしたツキナは自分を奮い立たせるように努めて大声で言った


「それ以上のことは止めなさい!!」


 突然の乱入者に乱れていた獣人達の空気が、少し張り詰めた物になった

 そして今度はハッキリと敵意の()()を視線に乗せてくる

 ツキナは進めていた歩みを思わず止める


 しかし獅子の獣人が一歩出てツキナへ向いたことにより、敵意の視線は止まった

 代わりに数名の狼の獣人が取り囲むようにツキナの周囲数メートルのところに四散する


 逃がさないように囲まれた?と彼女が思っていると、獅子のリーダーが言った


半種族(ハーフ)か」


 どうやらユウスケが言っていた通り言葉は通じるようだ

 外見通りに低く、とても勇ましい声だった


「違うけど」

「お前はこのエルフ達の仲間なのか」


 痛みで気絶したのか、さっきからピクリとも動いていないエルフを指さして獅子は言った


「そういうわけじゃないわ」

「ではどうして邪魔をしようとする」

「余りにも酷い事をしていたからよ」


 その一言を聞いた周囲の獣人達からまた怒りの気配が強くなったのをツキナは感じとった

 とは言え彼女でなくとも毛が逆立ち鼻にしわを寄せるその形相を見れば憤怒にまみれているのがわかる筈だが

 喉の奥を吠えるように震わせながら獅子の獣人は続けた


「去れ、お前は王国人だろう、王国人に手は出さん、邪魔をするなら話は変わるがな」


 ツキナは首を傾げた。

 何か勝手に勘違いしているっぽいがどうして王国人だと見逃されるのだろうと凄く聞きたい。しかし思ったより言葉が通じたのでこれは意外と戦わなくてもなんとかなるんじゃないかと見当違いなことを彼女は思った


 それは完璧にツキナの勘違いだった


 この荷馬車がなんであるかを正確に知っていたリーダーの獅子はツキナを見たときに王国の要人かもしくはその子供だと思っただけだった

 荷馬車から自分の意思で出て来たこいつは本来ならすぐさま殺したいところだったが王国の権力と軍事力はとてつもなく、下手に手を出すのは種族全体が危機に晒されかねない物だと瞬時に理解し、出方を見る時間を作っただけだ

 そして王国人を識別できる特別な識別魔術を行っていた白い狼の獣人が『そうではない』とリーダーに眼で示した

 瞬時にツキナを取り囲んでいた4体の獣人が飛び掛かった


「つっ!」


 事前にその()()を読んでいたツキナはすぐさま《(ウォール)》を展開させ弾いた

 普通の人間にはとても反応できない速度である筈の攻撃を防いだ少女に僅かな驚きの声が上がった


「英雄の子孫か」

「そうらしいわ」

「だが森のエルフより手強いということはあるまい」


 《壁》に弾かれてなお機敏なフットワークで囲んでいる陣形を崩さなかった獣人達が、自身の身体の周りに様々な色を帯びたオーラのような物を纏わせ始めた

 ツキナは知らないがそれは獣人が使える特別な技能だ、体内の魔素で身体能力を上げるだけの単純なものだが、元々の戦闘力が人間族と比べるととてつもなく高い獣人達にはそれだけで計り知れない効果がある


 流れで何が起こっているか察したツキナに焦燥感が芽生えた


 あの力で突撃されるとまともに受けては自分の《壁》では防ぎきれないと直感的に予測する

 この近距離では魔術は間に合わないし、かといって肉弾戦は一撃でも貰えば即死しそうだ

 《壁》と《補助》を同時にかけて戦えれば少しは何とかなるかと思ったがそんな高度なことは自分にはできない


(本当にできないのかな……?)


 ちょっと芽生えた疑問に従い、自分に《補助》をかけてみる。以外とアッサリ掛かった

 二つの魔術を同時に発動させている感覚を確かに感じる


(アレ、掛かったっぽい?)


「やれ」


 号令に従い獣人達が再び攻めかかった

 主に爪や牙を使った単純な体当たり攻撃の群れを、ツキナはギリギリのところで躱しと弾きを駆使して避けた

 本当は相手の()()を利用して投げ飛ばしたりしたいところだが、さすがに《補助》をかけていても機動力に地力の差がありすぎるため、まるで攻めに転じられない

 ユウスケがやめておけと言ったわけはこれかと今更になって理解する

 まさしくジリ貧だ

 とは言え本来であればこれだけ獣人の動きに付いていけてることは称賛に値するのだが


 逃げ回るような防戦一方を続けていると、黒い狼の中にいつのまにか一匹だけ混じっていた白い狼がツキナに向かって近距離で吠えた


「な、なにっ!?」


 一瞬違和感があったあと、その瞬間ツキナに掛かっていた《補助》が消えた。

 それは魔術式や加護などを掻き消す特殊な雄叫びだった


 混乱しながらもすぐさま掛けなおそうとツキナは試みたが、その一瞬の間に3回ほど掠るような攻撃を受け体勢を崩し

 崩した体勢を戻そうとした刹那の硬直に、強烈なタックルがまともに打ち込まれた

 ツキナは馬車に凄まじい勢いで叩きつけれ、地面に倒れ伏した。叫び声をあげる暇もない


 確実に普通の人間であれば死亡する一撃を受け、尚ツキナは立ち上がった

 《壁》が消されていなかったのが一つと、辛うじて魔術の再付与が間に合い、流れを逸らすように身を捻れたのが理由の一つだった


 しかし基本的には普通の人間と変わらないツキナにとっては致命的な一撃だった


 とりあえず《壁》と《治癒》に切り替える、がダメージが大きすぎて全快にはかなりかかりそうだと直感する


「エルフよりもタフだな」


 馬鹿にするように獅子は言った

 ツキナは額からダラダラと血を流しながら、拭う素振りも見せず睨みつつ返した


「うるさいわね」


 喋ると思わず咽た、胃から血液が咽あがってきているようで気を抜くと吐きそうになった

 自分の体内の流れを確認すると臓器が少し破裂しているようだ。即死する臓器でなくて良かったと安堵する。しかし不思議と痛みはない

 痛みがない理由はわからないが今のところ好都合だ


 二ついけるなら三つでもできるだろうとツキナは攻撃魔術を放とうとした

 その様を見て取った獅子が無駄な足掻きだと言わんばかりに手を振りながら言った


「ふん。やれっ」


 ツキナのかざした手に魔術陣が形成されるより早く、狼の爪が彼女に達そうとした矢先だった

 ピタリとその獣人達の動きが止まった


 喉元寸前で止まった狼の爪に、彼女の顎先を流れ落ちた汗がぴとんと落ちる

 そこから動き出すことはなく、苦しそうに表情を歪ませた狼は倒れた

 その獣人だけではない、ツキナが周囲を見ると周りにいる獣人は大体がが何かを堪えるように蹲っているようだった


「間に合って良かったよ」


 ツキナにとってはすっかり聞きなれた声がして、彼女は安堵したように少し表情を緩めた


 視線を向けた先、馬車の裏から黒いローブ姿のユウスケが姿を現した

 何故か少年は一目でわかるほど苦悶の表情をしており、馬車に背中を預けるようにして立っている

 その様子に気付いたツキナは、血相を変えて少年に駆け寄る


「だ、大丈夫!?」

「ああっ、お前よりはな、それよりこんな時に目を離すな馬鹿っ」


 ユウスケは平然と立っている獅子と白い狼、それに黒い熊の獣人からアッサリと視線を逸らしたツキナを怒鳴りつけようと思ったが、あまりの不調に苦し紛れに叱咤する程度にとどまっていた


 実際のところ少年は立っているのもやっとの状態だった


 これまでの記憶の中で一度も感じたことのない謎の不調に苛まれ続けている

 額から大粒の汗を流し、凄まじい勢いで体中を駆け回る何かを感じていた

 その原因が何なのか自身でもまるで見当がつかない


 どうしてこのタイミングでと思いつつ

 魔結晶による結界の生成をやっとの思いで成功させたところだった


(ここからが本題なのに、こんな調子で大丈夫か……。っ!)


 唐突にやってくる謎の感覚の波に抗い、気力だけで意思を繋ぎとめる

 気を抜くと気絶してしまう確信があった


「ああ、駄目だ。……ちょっと俺座るからっ、ヒイヅキ、ほら、あれだ、早くしろ……何ボケッとしてるんだっ」

「あ、うんっ!」


 事前に予定していた通り、ツキナとユウスケは魔素結合の術式を展開させた

 白い円形の魔法陣が二人の足元に構築される

 最中に少年が横目で盗み見た少女の体調もとても好調とは言えなさそうなものに見えた

 全身傷だらけなのはもとより、頭部からの出血量が心配になる。意識を失わないと良いが、確認する余裕はないと判断して少年は獣人の方に意識を切り替えた


 獅子の獣人と目が合った

 すぐさま控えていた熊の獣人が二人に襲いかかる


 どうやって意思疎通しているのかサッパリわからないが、タイミング的に獅子の獣人が命令を出したのだろうと少年は思った

 その考えは正しい、獣人は互いの気配だけで人間とは比べ物にならない程に精密な意思疎通を取り合う

 ここまで来ると一種の念話(テレパシー)


 しかしその熊の苛烈な一撃も、ユウスケの魔素を借りて発動させたツキナの強力無比な《壁》の前では全く歯がたたない

 歯がたたないどころか魔術障壁に触れた熊は反動の衝撃で大きく後退した

 もはや中級魔術の《鉄壁(アイアンウォール)》に匹敵するレベルだと少年は感嘆する

 魔術は消費する魔素の量を増やせばその等級を上昇させるという単純な物ではない、だからこそ無数の魔術式が存在するのだ

 それをここまでのレベルに引き上げられるのは間違いなくツキナに優秀な魔術師としての才能があるからだと思えた


 その状況の変化に、これまで一度も困惑した様子を見せなかった獣人達の表情がピクリと動いた


 やっとかと少年は安堵した

 多少予定と違うことが起きているが、概ね少年の描いた通りになったのだ

 これでやっと、()()()()ができる




 ◇◇◇ 数分前の馬車の中にて ◇◇◇




「作戦って言っても単純な物だ」


 ユウスケは繰り返しになる言葉を言いながら、ある魔結晶を彼女に見せた

 ようやく涙が止まりつつあったツキナは目の淵をごしごしとやりながら聞く


「何それ」

「これは反転結晶だ」

「反転結晶?」

「反転結晶っていうのは、ゴミだ。魔結晶の失敗作だよ」


 ユウスケはその無数の針が突き刺さったようなトゲトゲしい形をした極彩色の魔結晶を見ながら言う

 もっともこのゴミはそんじょそこらのゴミではない、最上級魔術を入れようとして失敗したゴミだ


「……ゴミをどうするの?」

「これをアイツらに使う」

「なるほど?」


 それを使うとどうなるのかツキナには見当すらつかなかったが

 この少年がそれでなんとかなると言うのであればなるのだろうとツキナは適当に頷いた


「戦闘が得意じゃないって言うなら、まともにやったらエルフを倒すような獣人には絶対勝てない」

「絶対かどうかはわからないでしょ……」

「絶対だ、そう考えた方が良いだろ。それともお前はあの獣人を叩きのめしたくてしょうがないのか」

「そ、そうじゃないわよ」

「ただ問題もある。使うためには時間が必要だ」

「なんで?」

「長々と説明してもいいけど、手遅れになるぞ」


 苦しめるためなら生かさず殺さずで長時間いたぶられる筈だが、ゆっくり説明する時間がないのは本当の事だった

 相手も馬鹿じゃないのでいつまでもここで嬲り続けるわけはないだろう


「それは駄目」

「要はその時間を稼ぐのがヒイヅキの仕事だ」

「わかったわ!」


 この反転結晶は簡単に言えばユウスケ以外を噴き飛ばす魔術的な爆弾だ

 ユウスケは自分の最大の弱点を自身に補助魔術がかからないことだと思っている

 そのため万が一そういった相手と相対してしまったときの手段ををいくつか用意している

 そのうちの一つがこれだ

 これを使うと魔素を持つ生物には耐えられない程の激痛が走る

 場合によっては死ぬ程なので意識を耐えられる存在はほとんどいない筈だ


 問題はその効果範囲だ、かなり広範囲に広がってしまい、コントロールなど一切効かない

 こんな国境の境目で使えば大騒ぎになり密入国への問題も出てくるだろう

 そのため余波が他に漏れないように事前に結界を張る必要がある


「まぁ、頑張って注意を引き付けてくれ、そのまま片づけられるなら片づけてもいいぞ、使わないで済めばそれが良いに越したことはない」

「うん」

「駄目そうなら使う、使っても駄目なら、……後は、話し合いだ、交渉するしかない」

「だったら最初から話し合ったら良いじゃない」


 当たり前のように言ってくるツキナに頭が痛くなる


「……話し合おうとして問答無用で殺されたらどうするんだお前は」

「殺されないようにしながら頑張って話し合うわ!」

「やめろ。相手の目的がわからないのに話し合おうとするなんて無謀過ぎる、話がややこしくなるし、第一殺すのが目的だったらどうするんだ」

「……うーん、わ、わかった」

「話し合いをするには相手にも話した方がいいかもと思わせない駄目だ、俺が姿を見せたらそれが合図だ、戦闘はやめて《壁》でも張ってくれ」

「なるほど、わかったわ」


 それでも準備して襲ってきている相手を話し合いでどうにかできるとは思えないが、こうなっては仕方がない

 最悪逃げられるならまだマシなのだが、なんとかツキナの望む形に持っていければ御の字だとユウスケは思った




 ◇◇◇ 回想終了 ◇◇◇




 獣人を警戒してかなり大回りに結界を張ったため予想より時間がかかった

 馬車の中の生物のことが少し気になるが馬車には魔術障壁が設置されているので大丈夫な筈だ

 ユウスケは拭っても拭っても流れてくる汗を撒き散らすように頭を振る


(それにしてもこの体調の悪化は何が原因なんだ……)

「机上の魔術師か」


 懐かしい呼称をしながら獅子の獣人が歩みを進めた

 平然としているところをみるとやはりこの三匹には反転結晶が効いてないようだ


「俺のことを知ってるのか」

「我等の耳はとても遠くまで聞こえるからな」

「そうか、だったら話が早い。俺達はそこらで倒れてるエルフを助けたいだけだ。助けるなら積荷はくれてやる」

「机上の魔術師は頭が良いと聞いていたが、察するのは苦手か?」


 獅子の獣人の周りに赤い(もや)があらわれた、それは炎のように燃え盛り人のような形をかたどる


精霊使役者(せいれいもち)か」

「如何にも」


 獅子の背後にピッタリとくっつく人型の炎は5メートルはありそうな大きさまで広がり

 その巨大な腕を振りかぶり《壁》に向けて叩きつけた

 凄まじい衝撃が響き渡り、炎の掌と障壁がぶつかり合いバチバチと火花を散らし続ける


「硬いな」


 精霊使役者とは産まれながらに特定の精霊の加護を受けている生物のことを指す、かなり珍しい存在であり、そして言うまでもなくとても高い戦闘能力を有する

 まさか相手に獣人の精霊持ちがいるとは思わなかったユウスケは少し焦る


「大丈夫、これくらいなら全然余裕で防げる!」


 それを察したツキナが言う、そういうことではないのだがと少年が思っていると、獣人は自身の右手に炎を纏わせる。そして獣人特有のオーラを放ち始めた、獅子の獣人の身体能力が劇的に向上する

 狼の獣人の比ではないとツキナの眼が捉えた


 獣人は基本的に魔術の適性が乏しい。それでも戦士としては超一流だ


 しかし精霊使役者は魔術の行使を使役されている精霊が行う

 今回なら最上級魔術師と超一流の戦士が完璧なチームワークでタッグを組んでいるような存在だ

 ツキナの潜在能力(ポテンシャル)がどの程度かは不明だが相手が悪すぎる


「逃げた方が良いかもな」

「ここまでやってっ!?」

「このライオンマンに俺たちは勝てないぞ」

「そんなっ」

「話を聞いてくれる気配もないしな」


 余程の恨みがあるのだろう、エルフの兵士を逃がす気はなさそうだ

 せめて自分の体調が万全ならも少し粘れるんだがとユウスケは思う


「逃がすと思うのか?」

「思うね」


 タイミング良く、ユウスケ達が乗っていた荷馬車が突如として大爆発を起こした

 ユウスケ達は《壁》に守られ、獅子の獣人は炎の壁を作り出しその爆風に耐える


「っ!!」

「!!」


 ツキナと獣人達が一斉にそちらを注目した

 獅子の獣人がやや声を荒げる


「何をしたっ!!」

「見ての通り荷馬車を爆発させただけだよ」

「なんだとっ」

「安心しろよ、あの馬車には何も乗ってない、積荷は後ろの馬車だ」


 障壁に守られて後ろの二つの馬車は無事だった


「もしこれ以上こっちの邪魔をするなら後ろの馬車を二つとも吹き飛ばす」

「っ!!貴様っ!」


 獅子の獣人は鼻に皺を寄せ、憤怒の形相を浮かべた

 一言も発さないが、後ろで控えている熊と白い狼の獣人も焦っているような()()を浮かべている

 ツキナは何が起こっているのかサッパリわからなかった


 ユウスケは安堵した、読み通りで良かったと思うのが反面、上手い事()()()()()()()

 そんな爆弾的なものなんて積んでるわけないのだが、障壁を持つ馬車が吹き飛んだのを見て勝手にそう思ってくれたのだろう

 少年はただ魔術障壁を切っておいて時間が経つと爆発する魔結晶を仕掛けておいたに過ぎなかったのだが

 そうとは知らない獣人はわなわなと声を震わせながら続けた


「まさかとは思ったが、奴隷商まで始めていたのか」

「まぁそういうことだ」

「奴隷商……?ユウスケが……?」

「本当の屑に成り果てたわけか」

「なんとでも言え、それでどうするんだ、そんなに悠長にしていられないんじゃないのか?」

「……この耳長共を渡せば良いのか」

「俺達だけじゃ運べない、ユニコーンも何頭か連れていく」

「良いだろう」


 獅子の獣人はフッと精霊を消した。手に纏っていた炎も消える


「言葉だけじゃ信用できないな」

「信用できないなら話は終わりだ」


 威圧的な発言に、再び火花が散りそうになる

 慌ててツキナが言った


「だ、大丈夫だよ、この人嘘は言ってないよ」

「……そうか」


 まぁツキナが言うなら嘘ではないだろうとユウスケも納得する

 その様子を見て彼女も《壁》を霧散させる、本当に誰も手を出してこなかったのでユウスケは警戒を完全に解いた




 ◇◇◇




 ツキナとユウスケは手分けして傷ついたエルフをユニコーンに乗せると、すぐさま走らせた

 しかしユウスケだけはユニコーンが乗せるのを嫌がったため、鞍に紐で繋いだ馬車の破片の上だ


 とりあえず適当に走らせて離れた後、ツキナはユニコーンを止めてエルフの治療を始めた

 森からでるとエルフが加護を失い衰弱すると教えられたので森の中で止める

 4人のエルフは全員息があった、おそらくわざと殺していなかったのだろう


 隠匿の魔結晶を使うかどうか悩んでいる様子の少年をチラリと横目で盗み見たあと

 ツキナはなんでもないことを装って訊ねた


「……さっき奴隷商って言ってたけど」

「……何か勝手に勘違いしたみたいだったな」

「もしかしてあれって奴隷が乗ってたの?」

「かもしれないな」

「じゃあれは奴隷を助けに来てたってこと?」

「かもしれないな」


 まぁ、奴隷を奪いにきた盗賊という線もないことはないが、あの憤怒から察するにその可能性は低いだろう


「私たちが邪魔しちゃったのかな」

「そうかもな……、言っとくけど、俺だって奴隷が乗ってるとは知らなかったんだからな」

「わ、わかってるわよ」

「お前は馬鹿だから本当に俺が知ってて乗ったと思いかねない」

「いや、君がどういう奴かはわかってるつもりだから」

「……もしかしたらお前を売り飛ばすのが目的かもしれないぞ」


 ユウスケは冗談かどうかわかりにくい、意味深なニュアンスで言った、とは言え、契約精霊の契約がある以上そんなことはできないのだが


「冗談でもそういうこと言うのは良くないと思うけど」

「そうだな」


 なんとも言えない沈黙が場に満ちた

 すると遠くで大きな音が鳴り、爆炎が上がる様子が見えた

 方角からして何が起きているかユウスケは察しがついた


「始まったか」

「え?あれってさっきの場所の方だよね?」

「ああ、境界が近いと言っても大森林の中だぞ、あんな派手にドンパチやってエルフが逃がすかよ」


 さっきの獣人の集団とエルフの警護隊かなにかが交戦になっているのはほぼ間違いないだろう


「ちゃんと奴隷を助けられるのかな?」

「……無理だろうな」


 確かにあのリーダーは桁外れに強そうだったが、奴隷を守りながら同数以上のエルフを相手にするなんてまぁ無理だ

 ツキナから聞いた話を元に考えると、加護を打ち消す特殊な咆哮を混ぜながら多対一で押し勝つという戦法のようだし、兵隊とまともに交戦することは最初から計画にないのだろう、とユウスケは分析した


「まぁ、でも何にも用意してないってことはないだろうし、大丈夫なんじゃないか?」

「……そ、そうだよね」


 ツキナは心配そうな表情で煙が上がる方を見ていた

 少年は「ああ、またこれはコイツの発作が始まっているのか」と思った


「お前まさか……」

「ち、違うからっ!」

「今回は本当に駄目だぞ、俺たちがあの馬車に乗れたのだって里長のナイナイの口利きなんだからな、この辺うろうろしているところを見咎められるのだって不味い」


 連れていかれて尋問などならまだマシだが、王国側の巡回兵にでも突き出されたら全て終わりだ


「わかってるけど……」

「なら良いんだけどな、ヒイヅキの望み通りエルフは助けられたんだからそれで満足してくれ」

「そ、それについては、感謝してるわよ」


 ツキナは視線を伏せながら言った、そしてハッと顔をあげた


「あっ、そういえばユウスケも凄い辛そうだったけど、もう平気なの?」


 食い気味に顔を近づけてくるツキナから身を逃がすように後退しつつ少年は答えた


「ああ。もうなんともない」

「ユウスケのあんな顔初めてみたからびっくりしちゃった。一応《治癒》しといてあげる」

「効かないからいいよ」


 勝手に《治癒》をかけ始める彼女を放置して思い出す

 本当に謎の衝動だった。叫びたくなるような感覚だった、じっとしたいのにじっとするのも辛いような

 あれは本当になんだったのだろうか


「……それって、痛かったんじゃないの?」

「痛い?」

「あれだけ苦しそうだったら普通どっか痛いんだと思うけど」

「俺は痛みとか感じたことないからなぁ、あれが痛いということなのか……?」

「……一度もないの?」

「多分な」


 ユウスケは魔素の影響で魔術が効かないが物理的な攻撃もほとんど受け付けない

 ほとんどというのはどれくらいまで痛くないのかを自分で試そうと思ったことがないためだ

 もっとも特殊な魔術を帯びた攻撃でダメージを受けたことはあるので無敵というわけではない、それでも一度もあれほど苦しかったことはないのだが


「一回ちゃんと調べて貰ったら?できるんでしょそういうの?」

「何回も調べて貰ったことがあるけど、王国の検査はだいたいが魔術式だからなぁ」


 そもそも魔術が効かないユウスケはどういう特性や特質を持ち、なんの能力を持っているかなど、調べようがないのだ。これは管理社会である王国の中ではとても生きにくい特性だった


 そんなことを話していると、エルフの一人に意識が戻り、上体を起こしたようで黄緑色の鎧がガチャガチャと音を立てた

 端整な顔立ちをした線の細い長身のエルフで、年は人間であれば30程度に見える

 金髪を一つ括りにしていて角度によっては女性に見えなくもない、美青年である


「貴方達は……」


 二人が気づいて視線を向けると、エルフは何かを察したように頷いた


「そういうことでしたか、ありがとうございます」


 彼は立ち上がってお礼を言った、精霊に事情を教えられたのだろうとユウスケは察した


「こいつが勝手にやったんだ、礼はこいつに言ってくれ」

「お、お礼なんて別にいらないわ!無事でよかったです!」


 ツキナは照れたようにそっぽを向いた、事実照れているのかもしれない

 なんだこういう奴がタイプだったのかとユウスケは思った


「さきほどのならず者と仲間達が戦っているようですね」


 どこか遠くを見ながらエルフは言った、その視線は何もないところを見ている


「わかるのか」

「エルフですから。それでお客人はどうされるので?」

「もう一度馬車に乗ることはできるか?」

「難しいですね、あの馬車は問題が起きれば処分されますから、次の便まで待っていただかないといけませんが宜しいですか?それならば私の権限でどうにかできると思いますが」

「処分……?」


 ツキナが呟いた


「ええ、まぁ、そういうものですから」


 心なしかエルフの声に失望の色があることをユウスケは感じ取った


「処分って、奴隷はどうなるの?」

「わかりません、普通の積荷なら回収で済みますが、今回の積荷は特殊なので」

「……特殊?」


 彼女の疑問の声にエルフは答えなかった


「なんで黙っちゃうの?」


 ユウスケが代わりに応えた


「別に奴隷の取引は違法じゃない、それでも表に出せないなら簡単だ、積荷の奴隷は半種族(ハーフ)なんだろ」


 半種族(ハーフ)は諸事情により大抵の国で売買を禁止されている。だが駄目だと言われると欲しくなるのが人情なのか、裏で取引が行われているという話はユウスケも聞いたことがあった

 もっとも半種族はどの種族からも嫌われているので、助けようなんて動くのは「半種族も血が混じっていれば同胞だ」と唱える獣人だけかもしれないと思い、なるほどそういうことだったのかといろいろと繋がる

 獣人は犯罪者も多いのですぐその考えに辿り着かなかった

 きっとあれは奴隷解放の過激派か何かなのだろう


「よくご存じで」

「じゃあ……その半種族は見つかったらどうなっちゃうの?」

「……わからん」


 下手をすれば処分、つまり殺されるのだろうとは思うが、そのままツキナに伝える気にはならなかった

 話題を変えようと少年は訊ねた


「……そんなヤバイ物の運搬に失敗したあんたらは大丈夫なのか?」

「私達はよその国から来た真っ当な荷馬車を警護していただけですからね、まさかそんなものが積んでいるとは、驚きました」

「ああ、そういうこと」


 話していると他のエルフ達も次々に目を覚ました

 声のかけ方から、最初に目覚めたエルフはどうやら隊長だったらしいということがわかる

 そろそろ引き上げ時だなと思い、彼は隣にいるツキナに声をかけた


「おい、ヒイヅキ」

「っ! な、なにっ!?」


 彼女は驚いたように声を上げた


「なに驚いてるんだ?そろそろ行くぞ、馬車は駄目そうだしな」

「ど、どこに?」

「どこにってお前……、……、……お前まさか」

「いや!大丈夫!違う違う!そんなんじゃないから!」


 彼女は頭をぶんぶんと左右に振った。その焦り方を見てユウスケは呆れた

 大方奴隷達の今後を憂いて助けに行こうかどうかと考えていたのではないだろうか、と予想する


「お前はなんでそんな正義一筋なの」


 ツキナは首を傾げる


「……正義?」

「いや、だってそうだろ、お前の行動はさ、なんていうか、そんな感じだよ。別に悪いとは思わないけど、そんなことばっかりやってたら何にもできなくなるぞ」

「別に私は私のやってることが正義だなんて思ってやってるわけじゃないけど」

「はぁ?」

「私はそうやりたいと思ってるからやってるだけだけど?もし正義だって思うなら、それはユウスケがそうした方が正しいって思ってるからなんじゃないの?」

「……」


 こ、コイツ馬鹿の癖に何をそれっぽいことを言っているんだ、とユウスケの中に敗北感が産まれた

 確かに、それはそう言われるとそうなのかもしれなかった

 勝手にコイツは正義を実行する人間なんだと思っていたが、別に彼女はその行動を正義だなんて言ったことはない、俺が自分で勝手に間違っていないことだと思ってしまっているだけだ

 それは無意識のうちに自分の正義とコイツの行いを重ね合わせてしまっていただけなのかもしれない

 そんな気持ちが見透かされたような気分になる


「……馬鹿の癖になかなか深いことを言うじゃないか」

「そ、そんなつもりもないんだけど、……あと馬鹿っていうのやめて」

「お客人っ!下がって!」


 唐突に叫ぶと、エルフ達が二人を囲むように立ち、外側に緑色の《壁》のような物を張った

 瞬間、周囲を激しい火炎が通り抜けた。光線のような炎だ


「ここまで攻撃が届いたようです」

「俺達を狙ったのか?」

「いや、たまたまでしょう」


 言われると確かに音がかなり近づいてきている気がした

 そうか、戦闘している相手も馬鹿ではない、森から出れば有利になると移動しているんだと気づく

 後ですぐ森を出られるように適当に走らせた自分達と同じようなルートでやってくる可能性は高い

 なにせ出発地点が同じなのだ、地形上通り易いところは限られる


「どちらにせよここにいるのはもう危ないでしょう、移動した方が良い」


 全く同感だった


「ねぇユウスケ」

「なんだ」


 ツキナは今しかないといわんばかりの表情でユウスケを見つめた


「ちょっと見に行ってみない?」

「……何を?」

「いや、あっちの方」


 彼女が指さしたそれは火炎が放たれた方角だった

 言い出すかもしれないとは思っていたが、本当に言い出したかとユウスケは思う

 少年はキッパリとした口調で言った


「奴隷を助けるなんて無理だぞ」

「そこまでしようなんて思ってないけど、ユウスケは気にならないの?」

「何が?」

「だって私達が邪魔しなかったら奴隷を助けるのだって上手く行っていたのかもしれないし」

「でもアイツら十中八九俺たちを殺すつもりだったぞ」


 そこについては間違いないと思えた。奴隷を助けるというのが本当であればそこは同情もしよう

 しかし彼らの行動は間違っても善人の行いと呼べる物ではない、奴らがエルフに行った行為はただの拷問だ

 挙句こちらまで殺されかけたのだ、正直どうなろうがどうでも良い存在と言える


「俺はあいつらが死んだとしても同情できないね」

「じゃあそれに巻き込まれた奴隷は?」

「それは確かに……哀れだなとは思うけど」


 行ってどうするというのか、乗り合わせることになったのもたまたまだ

 何もできない上に、本来の目的である密入国はどうするんだと思うと、ユウスケは言葉を濁した

 その困った様子を見てツキナも困ったように続けた


「……まぁユウスケが駄目って言うなら行かないけど」

「珍しいな、お前がこういうことを聞いてくるのは、だいたい勝手に行くくせに」


 なんとなく彼女の行動に違和感を覚えて言っただけだったが、するとツキナはぼっと顔を赤くした


「はっ!?ゆ、ユウスケが言ったんでしょ!勝手に行動するな~~って」

「は……?ああっ!!」


 そういえば言ったな、と少年は思い出した。なんでそこで顔を赤くするんだと突っ込みたくなったがやめる

 つられてこっちまで赤くなりそうだ。別に恥ずかしいことを言った記憶はないのだが

 なるほど、律儀にそれを守ってくれたわけかと思うと悪い気はしない

 少年はしばし思案した


「見に行くだけなら良いぞ」

「良いの……?」

「良いよ、今後に少しは役立つかもしれないしな」

「ありがとう!」


 メリットがある行動にはまるで思えないが、単純にあの精霊持ちがどうなるかは気になる

 かなり恨んでいたし、逃げられたか仕留めたかくらいは調べておいても良いだろう、という言い訳を思い浮かべる

 何故言い訳をしなければいけないんだとユウスケは頭を振った


「行くのであればお供しましょうか?」


 二人のやり取りを見ていたエルフの隊長が言った


「良いのか?」

「その方がそちらにも都合が良いでしょう、お客人に助けられ放置したとあっては聞こえも良くない」

「正直助かるが……」


 何故そんなことをコイツがしようとするのか理由がわからない。ここに二人がいることを知っている者などいない筈だし、そんな客人を放置して誰の聞こえを気にするのと言うのか。甚だ疑問だ。その訝し気な表情を読み取ったエルフはにっこりと笑って言った


「いえ、私は単に、面白そうなことが好きなだけなんですよ」

「そ、そうか……」


 にっこりとした笑顔のあとにツキナを見ると、「?」と不思議そうに返される

 ツキナが反応しないなら嘘を言っているわけではないのだろうと思い、別にいいかと少年は判断した


 彼等は軽く準備を確認した後、すぐさま出発した

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