プロローグ
その夜、突如として立ち昇った光の柱、その勢いは溜めに貯めこんだ貯水湖が水門を開いたときのようだった
辺りに轟く爆音と撒き散らす暴風、それに振動は凄まじく、たった一人の人間が引き起こしている現象とはにわかには信じがたい
しかもその容姿はまだ少年の体を成しているのだから、もしこの光景を目撃した者があれば恐れおののいていたのは間違いなかった
何かを確かめるように目を閉じていた少年がゆっくりとその瞼を開いた
「いける」
呟くと彼は右手をやや上空に向けた
「《閃光》」
瞬間、これまた爆音と共に黄色い閃光が夜空を走り抜けた
光と同じ速度で駆け抜けたそれは遥か遠方の大気を劈き雲を散らす
放出の余波で周囲の木々が暴風に煽られたかのように激しく揺れる。いや、揺れ続けていた
そう、少年の手から放出され続ける閃光の勢いはまったく衰えないのだ
「ぐぬぬぬぬ……」
少年の表情が徐々に歪む
「いや、ここからだ、ここからああああっ!」
左手を右手首に添えて力を籠める
が、何も変化は起きない。以前爆音と振動が続いていた
その状態が数分続いたあと、苦虫を噛み潰したような声で少年は言った
「無理か」
左手を右手首から離し、ポケットから8ミリ程度の大きさの黒い石を数個取り出し、素早く噛みくだいて飲み込む
少年の口から重い溜息が零れた
そのまま数時間後、少年は突然倒れた
力の放流によって少年の周囲にはクレーターができていた
(……あほらし)
諍えない強い眠気を感じながら心の中で悪態を吐くと、なんだか惨めな気持ちになった
周囲に戻った静寂と闇夜は、少年を慰めてはくれなかった