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とある陰陽師の。  作者: 椿
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革命の野望

久し振りに書いたのでいつもより少し長めです


もうここは駄目かもしれない、と。

早くも直哉は草鳴棟を見限っていた。


知らなかったとは言え、直哉は今まで無償で都を護っていた。金にがめつい久我直哉という男がである。まあそれも生活苦を嫌というほど味わっていたからなのだが、それでもその時から、もし衣食住を保障してくれるのなら無償でやるのも吝かではないな、くらいには思っていた。


それなのに周りの陰陽師のこの体たらくは何なのだ。監視役の占部殿が家庭の事情でいなくなるといつもこうなのか。


「どうか、どうか妖を討伐して下され…!」

「構いませんよ。けれど、ねえ?誠意ってものがあるとは思いませんか」

「ですが、妖のせいで財は壊され、献上するものなど何一つ残っていないのです。なので…」

「それではさようなら」

「待っ、陰陽師殿…待って下され!」


直哉の本性を知って怯えているいじめっ子達は心を入れ換えてある程度業務をこなしているのだが、大半は依然としてやる気が欠片もなかった。

見返りがなければ仕事をしないのは当たり前だとぬかして民を疎かにする彼等を見て、直哉は舌打ちをする。

衣食住が十分に保障されているのに見返りがないとはよく言ったものだ。こいつらは何もしなくても生活が保障される『お貴族サマ』にでもなったつもりなのだろうか。

言っておくが、勿論貴族だって遊んでいるわけではない。単純にこの無能共は妄想で生み出した貴族になりきっているだけなのだ。


「どうなさいましたか?」


道化を演じるために民を切り捨てることなど出来る筈もなく、直哉は飲食店で培った営業スマイルを浮かべながら、うちひしがれている老婆に声をかけた。

先程老婆からのお願いを断った青年が、余計な真似をするなと言わんばかりにこちらを睨み付けているが、そのようなことは知ったことではない。


「ああ、ああ、助けて下され…渡せるものはありませんが、このままでは近所一帯が壊滅してしまいます…」

「構いませんよ。連れて行って下さい」

「ありがとうございます…!ですが、本当に礼は何もありませんで…」

「いりませんよ。持っていない者から何かを奪うなど、私はそれほど野蛮ではありません」


強烈な皮肉。

これくらいは残しても構わないだろうと判断し、直哉は老婆に向かってにこりと笑みを浮かべて言い放った。


「それでは行きましょうか」






草鳴棟に関しては、件のいじめっ子の方がまだまともだったのだと気付いたのは、直哉が老婆の依頼を受けて帰って来た時だった。


「何してるんだお前!」


以前何度か耳にした高圧的な声。確か名前は如月信次と言っただろうか。

妬ましいと言っては直哉の業績をかっさらおうとしていた青年の声が耳に入り、直哉は瞬時に気配を消した。

誰を相手にしているのかは知らないが、今の荒々しい口調を聞いている限りでは、彼がこれから何をしでかすのか分からなかった。直哉はいざとなれば止められるようにと式神を構え、


「今あいつの料理に何か入れただろ!」


構えをといた。

こっそりと覗き見れば、件のいじめっ子の一人が今朝の青年を糾弾しているではないか。直哉の中で青年の処刑が決定したのはともかく、いじめっ子の言動はかなり意外だった。

つい先日まで妬んで意地悪をしていた少年が、よもやいじめられっ子(?)を庇うなど。


「はあ?君だって彼を苛めてただろ。今更善人気取ってんじゃねーよ」

「あいつの才能が妬ましかったから、俺達ではどうやっても届かなかったから!確かに、少しぐらい苦労しろってムカついてやっちまったさ。でもだからこそ俺はお前を止めるべきなんだよ!」

「綺麗事お疲れ様。君には関係ないよね?」

「……っ、とにかく、見てるからな!」


苦虫を噛み潰したような顔でそう叫ぶ。恐らく彼も理解しているのだ。先日まで自分達がどのような卑劣な行為をしていたのかを。

しかし、だからこそ信次は、同じような過ちを犯そうとする者を見逃すことは出来なかったのだ。


「ふむ…」


これは良い機会だ、と。

直哉は、にたりと笑みを浮かべた。





華蘭棟の前には人だかりが出来ていた。

普段は草鳴棟にいる貴公子が、所謂お家事情で顔を出すことになったのだ。

物腰も柔らかく、誰に対しても分け隔てない態度に心を打たれた者は数知れず。それに加え、顔立ちも実力もかなりのものだった。もし陰陽師になっていなければ、今頃政治の中枢にいてもおかしくないような存在なのである。


そんな彼の目に飛び込んできたのは、つい先日出会ったばかりの超有能な新人が全力疾走してこちらに向かう姿だった。


ふう、見間違いかな。きっと疲れてるんだろう。


そう思い込んで笑顔でスルーしようとしたが、そうは問屋が卸さない。


「頼もーう、占部殿!お願いに参った!」


人垣を潜り抜けて、そう告げたのだ。


「お前、確か早朝に草鳴にいたよな…?」


ちなみに草鳴から華蘭までは徒歩八時間。

貴族優先の道を馬で慌てて走り抜けた(牛車では間に合わないと判断した)祐に間に合うとか、常識はずれにも程がある。

勿論、更に常識から外れた行動をするのが直哉クオリティ。


「革命の勧誘に来ました。手伝って下さい!」

「はあ!?」

「あ、勿論終わってからで良いですよ」


そう言い残してまた全力疾走で遠ざかる直哉。

残された祐は、一人決意した。


ああ、今日はゆっくり休もう。明日からの苦難を乗り越えるために。



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