暗黙の了解とは破るもの
ギャグオンリー書くの、向いてないんじゃね?と思いつつ書いている今日この頃。
「実力を出さず道化を演じろ、ですか?」
草鳴棟に入った翌日、知り合ったばかりの友人である祐にそう言われ、直哉はあからさまに顔をしかめた。
それも仕方のないことではある。そんなことをすれば、上層部からの評価はがた落ちだからだ。
給金は評価に比例して与えられるとすると、それは愚策でしかない。
「食い扶持を稼がなければならないので、それは難しいですよ?」
「すまん、説明忘れてたわ。お前まだここの事情知らないんだっけな…」
数分にわたる説明を聞いて、直哉は激怒した。
「嫉妬で足を引っ張り合うとは!笑止千万!」
そう、低レベルなやり取りがちょくちょくなされているらしいのだ。
必死にこなした仕事を複数人で口裏を合わせて奪い取ったり、給金を意図的に減らしたり。
直哉にとっては致命的なことばかりであった。
「…嫌がらせされたら式けしかけます」
恨み辛みのこもった言葉を耳にして、祐はサッと顔を青ざめさせた。
直哉の式神は複数体おり、その内四体は高位存在である。彼ら彼女らをけしかけた暁には、この棟は物理的に崩壊すること間違いなしだった。
「待って、それ止めて。ここ財政難だから。働く奴がいなくなったらどうするんだ」
「私が皆の仕事をこなし、その分の給金を貰うんですよ。お互い得しかありませんよ…ふ、ふふ、ふははははははははは…」
あ、駄目だコレ。
狂ったように笑い声をあげる直哉を見て、ドン引きながら祐はそう思った。
場所は変わって、草鳴棟に隣接した廃墟にて。
直哉と祐が談笑していた頃、誰もいないはずであるその廃墟の中から、複数の笑い声が上がった。
『あーあ、次の生贄はあの子かな』
『可哀想だね、くすくす』
『心にもないこと言っちゃって。誘導しておきながら白々しい』
遠目から見たら、三つの青白い光がふわふわと浮かんでいるように見えただろう。その三体は紛れもなく人の悪意によって生み出された妖の一種であった。
他人の不幸は蜜の味。ならば相手を不幸にしてやればどれほど楽しめるだろうか。
そう考え、くすくすと笑う。いや、
「悪いことしちゃ駄目ですよー」
笑っていた、と言うのが正しいだろう。
突如目の前に現れた少年の存在に、三体はガタガタと震え出したのだから。
「君達のせいで私の給金が下がったりしたら、私は容赦しませんからねー?こちとら生活がかかってるんですからー」
語尾を伸ばして優しげに言われても、怖いものは怖かった。
何せ目が笑っていない。それだけではなく、見るだけで恐怖のあまり消滅してしまいそうな禍々しい妖刀を腰にさしている。
三体にとって、この少年は超危険人物だった。
「私は久我直哉と申します。悪さをしなければ見逃してあげます。分かってますよねー、私の言いたいこと」
久我直哉。超危険人物。
悪さをしたら殺される。許されるのは『偶然起きた他人の不幸を味わう』ことだけ。
三体は理解した。
この少年、マジヤバい。
「そう言えば最近苛めが減ったな?注意しても聞かない奴らばっかりだったのに」
「妖が原因だったのではありませんか?先日厳しく言い含めておいたので」
二人は知らない。嵐が吹き荒れていることを。
台風の目の中では無風でも、一歩外に出れば突風が吹き荒れているのだと言うことを。
(殺害予告を出された)妖三体と(直哉に無意識に脅された)他数名のいじめっ子が、直哉の顔を見るだけで右往左往する姿が、草鳴棟名物になったことは言うまでもない。