邂逅
不定期と言いつつの。
さて、陰陽師になるのは良いが、これからどうすれば良いのだろうか。
陰陽棟を目前に控えて、直哉は一人思案する。
平雅京には幾つか陰陽棟と言うものが存在する。
一つ目は華蘭棟。
そこには陰陽師の家系の者や貴族、もしくは顔立ちが整っている実力者が集う。世間に陰陽師の良さをアピールする、所謂看板棟だ。
二つ目は山吹棟。
こちらには一般的な陰陽師が集う。妖を見る能力があり、かつ連携をとらずに妖を祓える者で構成されている。
…と言ってもこちらはとある事情により相当のボンクラでない限り入れてしまうのだが。
そして三つ目が、直哉の所属する草鳴棟だ。
ここには主に陰陽師見習いが集う。協調性や経験が不足しているが故に山吹に入れなかった者か、山吹入りを断った者が集結するのだ。
まあ、断る物好きなどそうそういないので、大半が問題を抱えていると考えて貰って相違はない。
直哉が草鳴棟に入った理由はお分かりだろう。
彼自身が選んだから、と言うのもあるが、何より協調性が欠けているのである。
お偉方に草鳴棟と宣告された時のことは、直哉としても忘れられなかった。
給金が高いと聞いて張り切った結果、
「き、君は華蘭に…いや、何かしでかして藤乃氏に目をつけられでもしたら…うむ…」
「顔立ちは悪くないのですが、お前は協調性もなくあまりにも危険なので華蘭以外を選びなさい。出来れば草鳴に…なぁ?」
「じゃあ草鳴で」
と、呆気なく決まってしまったのだ。
だからこそ直哉には『陰陽師になった』という自覚が薄く、何をすれば良いのか困り果てていたのだ。
「おい、そこで何してるんだ?新入りか、お前」
むむむと唸っていたのが迷惑だったのだろうか。
怪訝な顔でそう詰め寄った少年に、直哉は先程までの阿呆面を隠し、好青年のような笑みを浮かべる。
「はい。新入りの久我直哉です。これからどうすれば良いのかと考え込んでしまいまして…先日店で働いていたところを『陰陽師になれ』と言われたので、何をすれば良いのか分からないんです」
「……一応忠告しておくが、それは他の奴には言わん方が良いぞ。妬まれたくなければな」
「はぁ…?」
何故妬まれるのだろう。
嫉妬を買う要素などどこにもなかったはずだ。寧ろ『仕事中にスカウトされて可哀想に』と憐れまれるべきではないだろうか。
「最初はさりげなく自慢しているのかもと思ったが、その顔を見るに、本当に分からないんだな」
溜め息をつく。
何も知らぬ子供に言い聞かせるように、彼はゆっくりと語りかける。
「良いか?陰陽師と言うものは大抵、志願してなる者が多い。華蘭のお陰で志願者も増えつつある。だから不足しているとは言え勧誘される者はほとんどいないんだよ。いるとすれば…」
「ああ、成る程」
スカウトされると言うことは相当の実力者だと言いふらしているも同然なのか。
たかが草鳴棟、されど陰陽師。
余計なやっかみを生み出したくないのなら黙っているべきことなのだ、それは。
「名乗り遅れたな。俺は占部祐。身分はそこそこ高いがあまり気にしないで接してくれるとありがたい。…お前は身分差とか気にしなさそうだし、言う必要なかったかもな」
「では何故華蘭に行かなかったのですか?」
「取り巻き共がうざいからだ」
単純明快な理由だった。
「それに、お前ほどじゃないが俺も強いからな」
久我直哉と占部祐。
彼らの邂逅は、草鳴棟に新たな嵐を呼び起こす。
平安京→平雅京
藤原氏→藤乃氏となっております。
陰陽棟は創作です。
都の中心から近い順に華蘭→山吹→草鳴です。