表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第2巻 漆黒を歩む者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/2417

黄金VS漆黒Ⅵ

 少女が倒れたことを確認すると、男はゆっくりと立ち上がり慎重に少女へと距離を縮めていく。いくら相手が満身創痍とはいえ、ユーキたちには手を出すこともできない。

 多くの視線を浴びながら、男は少女の首へ手を伸ばす。


「……何をするつもりだ?」

「…………」


 ユーキの声に触れかけた指先が寸前で止まる。

 相手は一瞬だけユーキを見返すと、鼻で笑ったかのように肩を震わせた。止まった手を再度、少女へと伸ばして軽くつかむ。

 十数秒間、沈黙が流れる。男は首を掴んだまま何もせず、ユーキたちは眼中にないといった様子だった。


「――――ここから、魔法を撃ってやろうぜ」

「だめだよ。マリー。あの倒れている子にも当たっちゃう」


 マリーが杖を構えるが、それをサクラが止める。


「どっちも襲ってきたのには変わらないんだ。さっき、魔法を全力で撃ってたのにいまさら何を言ってるんだよ。今ならまとめて……」

「彼女からすれば、アレは防衛行動みたいなものだよ。やりすぎではあるけどね。大人しくなった今は、どうすべきか僕にはわからないけど」


 フェイもマリーを止めに入るが、マリーは納得がいかないのか顔を顰めた。杖を握る手には力が入り、その気になればいつでも魔法を放てる状態だろう。


「危険だから、逃げたほうがいい、かも」


 マリーとフェイが火花を散らす中で、アイリスがボソッと呟く。

 それを背中越しに聞きながら、ユーキは魔眼ごしに少女の様子を見ていた。黒い靄が少女へと絡みついていき、金色の光がモザイクのように薄れていく。


「――――――ぅ、――――って――――」


 微かに少女の唇から声が漏れた。ほんの一瞬、気付けるかどうかという僅かな時間ではあるが、黒い靄がピタリと動きを止めた。


「――――はぁっ!!」


 男の一声と共に黒い靄が茨のような形に変わり、少女の首を中心に胴や四肢へと絡みついていく。意識を失っていたはずの少女の目は見開かれ、この世のものとは思えない絶叫が地下室に響く。

 その凄惨極まる光景に思わずユーキは右手を動かしていた。


「その娘から離れろっ!」


 魔力の弾丸は狙いを外すことなく、男の頭部へと吸い込まれていく。首を掴んだまま男は顔を上げるが、その額へ直撃して大きくのけ反った。少女の首から手を放し、そのまま十数センチほど体を浮かして背後に倒れる。


「当たった!」

「よし、吹き飛んだぜ」

(呆気なさすぎる。今まで掠りもしなかったのに何で……!?)


 後ろから喜びの声が聞こえる一方で、勇輝は嫌な汗が背中を伝う。すると、今まで頑なに口を開かなかった男が声を紡いだ。


「ふん、あれだけやられて、まだ俺とやる気か? いいだろう。相手をしてやる」

「くっ……」


 伯爵邸で一度、路地裏で一度、ユーキは男に敗北を喫している。

 足がすくむユーキに、ウンディーネが思念で話しかけて来た。


『ユーキさん、伯爵が負けたとは思えません。恐らくは何かしらの方法で追跡を逃れ、ここに戻って来たのかと』

(じゃあ、時間を稼げば伯爵が戻って来る可能性が高いな。だったら、勝てなくても何とかいけるか?)


 ウンディーネにユーキは応えて、刀を構える。それを見た男は肩を竦めた後、以前と同じように何も持たずに拳を握って前に出した。


「フェイ! 後ろを頼んだ!」

「――――任せろ!」


 ユーキの声と共に男が距離を詰める。それに対して、ユーキはすかさず人差し指からガンドを放った。


「――――っ!?」


 意外にも最初に戸惑いの声を上げたのは男の方だった。ユーキのガンドは男ではなく、その足元。石畳へと向かっている。

 破裂音と共に石畳が砕けて飛び散る。男の踏み出そうとした足場を崩すだけでなく、破片が男の全身を襲った。


(単発だと防いだり、避けたりするからな。それなら散弾で勝負だ! そんな仮面をつけてたら、足下なんて見辛くて仕方ないだろ!)


 二度、三度と同じようにガンドを放つと、今までの動きが嘘だったかのように男の足が止まる。だが、このまま時間を稼ぐことは不可能。何せユーキが連続で放てるガンドには限界があるからだ。


「ユーキ! 一度、どけ!」


 後ろから聞こえたマリーの声に、ユーキはとっさに右へと避ける。すると、先程まで勇輝がいた場所を緑と赤の光が駆け抜けていった。風の刃と火の球の魔法が男を襲う。だが、男は風の刃を躱し、火球を殴って霧散させてしまう。何発もの火球が破裂し、黒い煙が男の姿を覆い隠す。


「――――フェイ! 来るぞ!」


 ユーキの魔眼は、その黒煙の中を走る男の姿を捉えた。ユーキではなく、サクラたちの方へと向かっている。追い縋ろうとするが、相手の方が圧倒的に速い。

 失敗したか、とユーキが焦る中、迎え撃とうとするフェイは脇構えで男の前に立ちはだかっていた。


「ふん。お前の剣の長さなど、さっき見て――――」


 男がフェイの剣の間合い手前まで着た瞬間、その体が空中に浮き上がった。


「悪いね。僕の身体強化は風を纏うことができるんだけど、こういう使い方もあるんだよ!」


 屋根の上まで一気に跳び上がることができるフェイ。それは体を強化しているだけでなく、風を起こすことによって、自身の体を持ちあげていた。そして、それをフェイではなく、向かってきた男へと使っただけの話。

 足場が無ければ移動は不可能。防御の姿勢を取ることすら難しい。フェイの振りぬいた剣は、空中で回転する男の体へと叩き込まれた。


「ぐっ!?」

「『燃え上がり、爆ぜよ。汝等、何者も寄せ付けぬ四条の閃光なり』」


 地面を転がる男だが、さらにサクラたちの火球が襲い来る。何とか膝立ちになった所で躱せないと判断したのか、両腕をクロスして防御の姿勢をとった。


「――――もらった!」

「しまっ――――!?」


 その選択が男の間違いだった。サクラたちの火球程度ならばかすり傷一つ負わなかっただろう。しかし、ユーキのガンドは別だ。その最高威力は城壁すらも穿つ。今までのとっさに撃ったガンドは弾かれてしまっていたが、フェイやサクラたちが稼いでくれた時間のおかげで、それなりに魔力を注ぎ込むことができていた。

 避ける間などなく、ガンドが男の腕に着弾する。火球を無視して弾こうとしたのだろう。腕をわずかに広げたまま後方に吹き飛んでいく。数メートルほど床を滑った男は、そのまま仰向けで動かなくなった。


(いや、これで倒れてくれるような生易しい相手じゃないだろ)


 さらにもう一発放とうかとユーキが照準を合わせた瞬間、倒れた男が跳ね起きて、一気に後ろへと下がる。倒れていた場所には一拍遅れて、斬撃痕が刻まれた。石畳は陥没し、その淵に沿って、石の床がひび割れていく。


「――――ほう、いい勘してんじゃねぇか」

「父さん!」


 入口から姿を現したのは伯爵だった。その顔は鬼の形相といっても過言ではない。魔眼を開かずともその身から闘気が立ち上っているのが感じられる。一歩を踏み出すごとに空気が震えるのが肌でわかった。

 先程の少女の気迫も凄まじかったが、それすら児戯と思えるようなレベルの差を見せつけられる。


「よく、ここまで耐えたな。俺が来たからには安心しろ。――――とはいえ、一度、俺から逃げおおせたんだ。そんじょそこらの間諜の類じゃねえな。一体何者だ?」


 マリーに肩越しに笑顔を見せた伯爵は、男へと剣を向ける。巨大な鉄塊とも思える巨剣を微動だにせずに、だ。

 男は周囲を見ながら一呼吸置くと、短く言い放った。


「――――『月の八咫烏』」

「なんだとっ!?」


 短く響いた男の声は、余裕と自信に満ちていた伯爵の声を震わせた。ユーキは目配せをするが、フェイは首を横に振るだけだった。しかし、予想外にもその答えは後ろから返ってきた。


()()()には噂だけど、八咫烏と呼ばれる諜報機関が存在すると言われてるの。確か前に一度お触れが出たことがあって、それが『月の八咫烏と名乗る者に注意しろ』って内容だったはず!」


 マリーやフェイが息を飲む。サクラ自身は唇を青くしながら、男を見つめて言葉を紡ぐ。


「八咫烏は太陽の化身とされている。……だけど、()とあの人は名乗った。それは明らかに矛盾してるかも」

「あぁ、その通りだ。奴は元八咫烏所属の()()()()。太陽に仕える者とは対極の存在だからな。それに――――」


 伯爵は巨剣を構えなおして、さらにプレッシャーを高めていく。その圧が高まるたびに見えない拍動が空気を震わせている。


「聞いた話だと、和の国のトップを暗殺しようとしたらしいじゃねぇか。今度はうちの国に手を出そうってか?」

「…………」


 じりじりと伯爵は男へとにじり寄っていく。対して男はあれだけの戦闘後にも拘わらず飄々とつかみどころがない。一歩も引くことなく、伯爵とユーキたちを見つめている。その不気味さに伯爵も剣の間合いから大きく離れているところで歩を止めた。

 膠着状態が続くとみられたが、驚くことに男の方から口を開いた。


「俺が必要としているのは後ろで伸びている貴族だけだ。あとは知らん」

「伯爵家への侵入や騎士襲撃の件については、どう答えるつもりだ」

「さぁ? ご想像にお任せするよ」

「ふん、いずれにせよ。ここでの問答など信用ならんわ」

「こちらとしても、話す義理は無し。元より理解の得られるものとも思っていない」


 そう告げた男は、大きく下がるとフェリクスを片手で抱え込んだ。もう片方の手を地面に置いて短く一言。


「『――――開け』」

「させるかっ!」


 謎の男の足元より烈風が吹き荒び、周囲の水を巻き込んで巨大な白い水の壁が出現した。

 それに呼応するかのようにコンマ数秒の差で伯爵の巨剣が竜巻を横一閃で両断する。白い壁が霧散し、天井の魔法石の光を乱反射していく。しかし、そこには血飛沫の紅はおろか、影の一片すら残っていなかった。まるで、そこには最初から何もいなかったかのように。


「……逃がしたか」


 巨剣の雫を振り払いながら呟く伯爵の声が、虚しく響いた。

【読者の皆様へのお願い】

・この作品が少しでも面白いと思った。

・続きが気になる!

・気に入った

 以上のような感想をもっていただけたら、

 後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。

 また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。

 今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ