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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第2巻 漆黒を歩む者

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黄金VS漆黒Ⅰ

 ――――ありえない。

 ユーキはそう思った。確かにさっきまで対峙していた時には、ローブの男は何の光も映し出すことはなかった。その相手が煌々とその光を放っているのである。服などに目を凝らしても、その色を隠すような様子は見られない。


(こいつと地上で会った奴は別人!?)


 ユーキの世界でも吸血鬼伝説は存在していた。元は欧州のある地域の伝承と噂が互いに絡み合って生まれたものだが、人々はそれを恐れ、現代まで伝えている。だが、その中には弱点も伝わっているのだ。


 曰く、「銀に弱い」。

 曰く、「強い臭いに近づけない」。

 曰く、「流水に触れられない」。

 曰く、「杭で縫い留めれば封じられる」。

 曰く、「十字架を見ると自責の念に駆られる」。


 多くは人々が恐怖を遠ざけるために創り出した対処法だろう。しかし、その中に真実があるのだとしたら……。そう、例えば()()()()()()()()とか。


「なぁ、フェイ。吸血鬼って苦手なものはあるのか?」

「そうだな。川や海の水には触れられないし、儀式で清められた銀の武器、浄化魔法。そして日光だ」


 フェイはフェリクスから目を逸らさずに告げる。

 その言葉にユーキは確信をもった。


「急で無粋な訪問を失礼しました。フェリクス男爵。そして、()()()()()でよろしいですね」

「いちいち、下賤な輩の顔なんぞ覚えたくもないが、貴様のような黒髪はこの国では珍しい。確かに会ったことはない」


 ユーキとフェリクスの会話にフェイたちが驚く。


「な、なんだって!? じゃあ、君を襲った男とフェリクス男爵は無関係なのか」

「あぁ、俺を襲った男は拳を握って攻撃してくるし、背もあんなに高くない。それに、俺が襲われたのは伯爵家に侵入された時と学校帰りの夕方だ。あの時は陽が出ていたし、その後に雨も降っていたらしいじゃないか。そんな危険を冒してまで襲うほど価値はないと思う」


 その言葉を聞いてフェリクスも酷く、不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「私が伯爵家に侵入? そこの騎士を襲ったことはあるが、家に忍び込むのは盗人だけで十分だ。商いをしていた者として、そのような無粋な真似をするものか」

「じゃあ、この吸血鬼は私たちとは……」

「一応、無関係だった、ということだな」


 サクラの問いかけにユーキは短く答えた。過去形なのは入らなくてもいい虎穴に入って、虎の尾を踏んでしまったことを指している。

 マリーもそのことに気付いているのか、苦虫をかみつぶした表情でフェリクスを睨む。だが、彼女には、フェリクスを責める権利がもう一つあった。


「なぜ、うちの騎士たちを襲った!?」


 マリーが糾弾するが、フェリクスは涼しい顔で受け流す。一切の悪びれた様子が見られない。


「そうだな。運が悪かったと思え。私は夜にしか出歩けぬ身なれば、夜に活動して、できるだけ健康的な血を蓄えている()()を襲うのは当然で――――」

「『大嵐(たいらん)よ、ただ息吹け』」


 ほとんど詠唱すらなく、マリーが唐突に呟く。突風が吹き抜けてフェリクスを壁に叩きつけた。先ほどとは比べ物にならない余波が部屋で暴れ狂う。


「――――上級魔法!? 詠唱を省略して!?」


 フェイの混乱には目もくれず、マリーはさらに火球を放つ。いくつかがフェリクスに直撃するが、手を薙ぎ払うことによってかき消されてしまう。


「――――人の話を最後まで聞かないとは、本当に愚かな娘だ」

「うっさい! 人の家の騎士に向かって肉袋呼ばわりした蝙蝠人間に言われたかないね!」

「同感。人間がいないと生きていけない癖に偉そう」


 マリーとアイリスの言葉にフェリクスが今一度、青筋を立てる。そのまま前に体重をかけたところをユーキとフェイは見逃さなかった。


「――――死ネッ!」


 声を出す暇もなくフェリクスが一瞬で距離を縮めてマリーへ殴り掛かった。その拳の先にはユーキの刀とフェイの剣。拳が裂け、腕の骨と肉が砕ける。


(あの男よりも遅いっ!)


 一瞬の交差であったが、ユーキはフェリクスの速さに順応できた。伯爵やクリフ、そしてあの男との戦闘があったからこそできたのだろう。

 ただし、当たってしまえばそこでアウト。その緊張感の為か、顔の表情は硬い。

 フェイがフェリクスを蹴り飛ばすと、五メートル程の距離が開いた。さらに追撃の火球が飛んでいくが、フェリクスが蝙蝠になる様子はない。そのまま、顔面に直撃して吹き飛んだ。


「やっぱり、もってるよなぁ。『再生能力』」


 吸血鬼には不死の能力がある。ゲームや漫画の知識であったとはいえ、目の前で裂けた肉がくっつき、粘土のように形を蠢かせながら戻っていく。そんな様子を見ていると、嫌悪感が襲ってきた。とてもではないが見ていられない。

 再生するのに一秒もかからないことに驚き、茫然と見ていたユーキは、その再生中に黄色の光が極端に弱まるのを捉えた。

 再生中のほんのわずかな時間だけ、力が弱まっているのでは、という推測が頭の中に浮かぶ。例えば、()()()()()()()()()とか。


「フェイ。再生するなら、再生できなくなるまで攻撃するというのは?」

「有効ではあると思う。魔法だって万能じゃない。何かしらのリスクを負って、あの再生能力があるんだと思う」


 火球が撃ち込まれると今度は、蝙蝠になってユーキたちの周りを飛び始める。どこにいるかわからず全員が背中を寄せて集まる。


「どうする?」

「どうするも何も、やることは一つだ。マリー、もう一度頼めるか?」

「任せなっ!」


 ――――ドッ!!! 


 先ほどは直線状に放たれた風が、渦を巻いて部屋を荒らす。ユーキたちの周りに風の結界が出現し、蝙蝠を吹き飛ばしていく。

 部屋にある水路の水を巻き込んで白銀の壁が現れたようだった。

 しかし、逆に言えばフェリクスの姿が見れない。視界に入った頃には反応できない距離になっているだろう。


「――――ハァッ!」


 風の魔法を解こうとしたマリーへフェリクスの右腕が迫る。その手は水を巻きこんだ結界を抜けて来たせいで、火傷をしたかのような黒い痣と水ぶくれができていた。

 風と水の壁から距離にして二メートル。避けることはほぼ不可能。常人のパンチならともかく、プロボクサーをも上回る突きを防ぐとなれば文字通り神業だ。ただし、それは()()()()()()()()()者にとっては、ただの的である。


「――――フッ!!!」

「――――カハッ!?」


 マリーに届く前に、ユーキの刀がフェリクスの胴を薙ぐ。肋骨に当たったのか、鈍い手応えが返ってくるが、それを気にせず振りぬいた。

 さらにフェイが怯んだところを見逃さずに、逆側から顔面へ追撃を加えて伯爵の顔をへこませて吹き飛ばす。


「ここからは、私たちの出番だね」

「ユーキとフェイはあいつを近づけないで」


 ユーキとフェイの連携に、サクラとアイリスが反応する。即興とはいえ、ここまできたらやることは一つである。すなわち、遠距離からひたすら撃ちまくることだ。


「『――――燃え上がり、爆ぜよ。汝等は何者も寄せ付けぬ八条の閃光なり』」

「『――――燃え上がり、爆ぜよ。汝等は何者も寄せ付けぬ八条の閃光なり』」

「『――――吹き荒び、舞い上がれ。汝等は彼のものを払う一陣の風なり』」


 サクラ、アイリス、マリーの順に魔法が繰り出される。二人分の火球で煙が立ち込め、マリーが煙ごとフェリクスを吹き飛ばす。以下繰り返し。


「……俺たち、いる意味あるか」

「……もしかして騎士団の弱点ってこういうところなんじゃないかなぁ」


 純粋な物理攻撃だけだと蝙蝠になり避けられてしまう。蝙蝠になった後、殺しつくすか。或いは、蝙蝠になる前に傷を与えるかすれば、撃退は可能だったはずだ。

 騎士団が不運だったのは、夜で敵を観察できる状態になかったことと、夜の王都で魔法を使うことを躊躇ってしまったことに違いない。

【読者の皆様へのお願い】

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