潜伏Ⅵ
以前、桜たちが通ってきた山中の宿場と違い、平野に築かれている。その為、主要な街道沿いだけでなく、そこかしこに脇道があり、広い範囲に家が存在していた。
また、ここに来るまでには田畑も見かけたことから、この村では第一次産業である農業と第三次産業であるサービス業が収入源となっているのだろう。尤も、人通りはそこまで多くないので、どの家も旅館が兼業といったところか。
幸い、田の被害はほとんど見受けられなかったので、食べることに関して困ることはなさそうだが、これから寒くなる季節の最中に住処がないのは心許ない。
村の中心部に進めば進む程、倒壊の度合いはマシになっていくが、それでも人が住めるようになるには少しばかり時間がかかりそうだ。
「……襲われたのは昼頃だったのが幸いでしたね。どの家も火種が小さかったおかげで、そこまで燃えてはいないようです」
「あれ? むしろ昼なら火が大きそうだけど」
巴の呟きに勇輝が反応する。すると誰もが不思議そうな表情を浮かべた。
「あのね。薪とか炭はお金がかかるから、料理は朝に一度にやるの。それで使い終わったら種火を保存しておくのが多いかな。海京の料理屋さんとかだと一日中つけっぱなしの所も多いけど、一般の人たちはもったいないから、そんなことはしないと思う」
「いや、それもここ数十年で変わってきちまった。裕福なところだと一家に一本、杖があって火を起こすのにも時間がいらないときたもんだ。実際、煙が上がっている家も近くで見れば結構あるだろ?」
何か火起こしに嫌な思い出でもあるのだろうか。正司がどこか遠い目をしながら、げんなりした様子だった。
「あなたの場合、いつも風呂の用意で火を強くするのに手間取っていただけ。竈の火を一からつけるのに比べれば楽なはず――――」
「見えて来た。冒険者ギルドだ。一応、片手で数えられる程度には冒険者もいそうだが……」
隆三が話を切る様にして声を挙げるが、その声音はどこか芳しくない。勇輝も釣られて、その方向へと目を向けると村人に混じって、腰に刀を差した人物が見えた。いずれも隆三と同じくらい年齢のようで、しかめっ面で話をしているようだ。
「……これは参ったな」
「何が参ったんだ?」
隆三は臆することなく、その人の群れに突っ込んで行った。そもそも四方位貴族の出身なのだから、畏まるのは同格の貴族か水姫、水皇。或いは神様くらいのものだ。中には理解できていても行動に移せず臆して留まる人もいる。実際にできるのは隆三の社交性が高いからなのかもしれない。
「この村では見かけぬ顔だが……流浪人か?」
「そんなものだな。それよりも、だ。家は潰れ、多くの人が放心している。まだ建物の下に埋まっている人がいるかもしれない中で何が参ったというんだ。やるべきことは救助ではないのか?」
「それができれば苦労はしない!」
別の男が声を張り上げる。隆三は一瞬だけむっとしたが、威勢のよさとは正反対の今にも泣きそうな表情に言葉を詰まらせた。
「済まない。我々も今来たばかりで何が起こっているか知らないんだ。できれば教えて欲しい。力になれるかもしれん」
「……鬼が出た」
「ここにも鬼が!?」
動揺する気持ちを抑え、勇輝たちは辺りを見回した。
自分たちが戦った小鬼が全てこの村に集まって来ていたと考えるならば、この惨状にも納得だ。ここからでは見えないが、村の周りには柵というには少しばかり強固過ぎるものがある。多少の安全は確保できるが、それすらも壊してくるのが魔物というものだ。
「どれくらいの数だ」
「わからぬ。ただ、この被害を見ると十や二十では足りぬだろう。それに……」
少しばかり躊躇う様子を男たちは見せた。ギルドの職員であろう男も口を真一文字に結んで、なかなか先を話そうとしない。だが、場の沈黙に耐え切れずぼそりと一人が呟いた。
「出たのは大鬼だ。しかも、赤の」
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